第20話:ゆみりんの家の晩ごはん(1)
約束の日は、思っていたよりあっさりやってきた。
夕方、三日月ロケットの二人は、ゆみりんの住むマンションの前に立っていた。鍋島は食材の入ったエコバッグをひとつ提げ、林田はなぜかやたら軽快な足取りでエントランスを見上げている。
「……で、本当に俺まで来る必要あった?」
エレベーターを待ちながら、林田が今さらなことを口にする。
「あったよ。お前のあの発言がきっかけなんだからな」
鍋島が即座に切り捨てると、林田はヘラヘラと笑った。
「でもさ、結果的にはいい流れだったじゃん? 料理しに来ることになったんだし」
「……そこだけ切り取るなよ」
鍋島が小さく息をついたところで、エレベーターが目的の階に到着した。部屋の前でチャイムを鳴らすと、すぐに扉が開く。
「お待ちしてました!」
出てきたのはゆみりんだった。少し緊張したように笑うその顔は、ステージの上にいる時よりもずっと年相応に見える。
「お邪魔します」
鍋島が会釈すると、ゆみりんは少しだけ頬を赤くして道をあけた。
「どうぞ。そんなに広くないですけど……」
玄関の奥からは、すでに賑やかな声が飛んできた。
「来たー! なべさん、林田さん、いらっしゃい!」
みみぃがぱたぱたと走ってくる。今日は完全に遊びに来た顔で、自分の家ではないのにはしゃいでいた。リビングでは、ふわっちがソファに沈んだまま、手だけを小さく上げる。
「……お腹すいた」
「来て最初の一言がそれ?」
ゆみりんが呆れたように言うと、ふわっちは眠そうな顔のまま答えた。
「だって、そのために起きてるし」
リビングは、ゆみりんらしく綺麗に片付いていた。白を基調にした家具にかわいい小物が並び、清潔感がある。鍋島は靴を脱いで上がると、そのままキッチンへ向かった。
「冷蔵庫、本当に普通のものしかないんですけど……」
「見ればわかりますよ。あるもので十分です」
鍋島が穏やかに返すと、ゆみりんは余計に落ち着かなくなる。
四人でキッチンに集まり、冷蔵庫の中身を確認する。卵、じゃがいも、ベーコン、トマト、アボカド、クリームチーズ、餃子の皮、鶏もも肉、しめじ、ブロッコリー。
鍋島は一通り眺めて、小さく頷いた。
「全然いけますね。何品か作れますよ」
「えっ、そんなすぐに決まるんですか?」
「冷蔵庫を見て献立を考えるの、わりと好きなので」
「出た」
林田がすぐに茶々を入れる。「鍋島の地味にかっこいいところな」
「余計なこと言わなくていいから。……林田、お前は向こうで座ってろ」
「林田さん、黙ってて。空気読んで」
みみぃにまで真顔で言われ、林田は「俺だけ当たり強くない?」とぼやきながらリビングへ追いやられた。
鍋島はエプロンを借りると、手を洗ってすぐに作業に入った。
「包丁とフライパン、借りますね」
「はいっ!」
ゆみりんの返事が妙に大きくなって、自分でも少し恥ずかしくなる。けれど鍋島はそんなことに触れず、ごく自然に材料を切り始めた。




