第16話:見えてしまう距離(2)
一回目の三日月ロケットのネタ見せも、客席をきれいに温めていた。
最前列付近で見ていた結衣は、全力で笑い声を上げている。杏里もその隣で、以前よりもずっと自然に、ステージ上の二人を見られるようになっていた。
「今日も林田さん、絶好調だね!」
「いつ見ても楽しそう。……でも、鍋島さんがちゃんと受け止めてるから成立してる感じする」
「お?」
結衣がすぐさまニヤニヤしながら横を向いた。
「今の、わりとファンっぽい目線じゃん、杏里」
「うるさい。変な解釈しないでよ」
「だって、前ならそこまで見てなかったでしょ?」
「別に……」
杏里は流すように視線をステージに戻した。
たしかに、前より見えることが増えた気はする。鍋島のボケの間や、林田のツッコミを活かすタイミング。家の中にいる「居候」として知ってから見る舞台の姿は、以前とは少し違う解像度で映っていた。
二回目のライブも大盛況で幕を閉じ、イベントはすべて終了した。
アイドルたちは物販の確認で残り、芸人たちは先に片付けを終えていた。
ゆみりんが通路を歩いていた時、少し先に見覚えのある後ろ姿を見つけ、思わず足を止めた。
三日月ロケットの二人と、その前に立つ二人の女性。
一人は、ライブによく来ている明るいファン――結衣。
そしてもう一人は、その隣で少し静かに立っている、黒髪の女性。
林田が大げさにボケて結衣が笑い、鍋島がその横で自然に会話に入っている。
そして黒髪の女性――杏里は、そのやり取りを少し呆れたように見守りながらも、ごく当たり前のようにその輪の中にいた。
距離が、近い。
物理的な距離のことではない。互いに纏っている空気の「境界線」が、あまりにも薄いのだ。
「あ……」
隣に来たみみぃが、その視線の先をたどる。
「なに見て――あ、知り合い?」
「……分かんない」
「分かんないのに、そんなに見るの?」
「見てないってば……」
ゆみりんは慌てて目を逸らそうとしたけれど、胸の奥に残った引っかかりは消えなかった。
ああいうふうに、飾らない言葉で、自然に話す相手が彼にはいるんだ。
あの黒髪の女性は、自分たちのような派手な衣装も笑顔もないけれど、鍋島たちの輪の中に、あまりにも深く馴染んでいた。
「ふわっち、お腹すいたー」
横でぼんやり呟くふわっちの声をよそに、ゆみりんはもう一度だけ、そっと視線を向けた。
その時ちょうど、鍋島が何かを言い、杏里が小さく笑った。
華やかな笑い方ではない。
けれど、長い時間を共に過ごしている相手にしか見せないような、やわらかい顔だった。
胸の奥が、また少しだけ鳴った。
それが何なのか、まだ認めたいとは思わなかったけれど。
自分と彼の「境界線」の太さが、はっきりと見えてしまった気がした。




