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三日月ロケット、居候中  作者: あしゅ太郎


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第13話:眩しい人たちと増える居候(1)

 週末の夕方、杏里はバイトを終えて、商業施設の駐車場へ向かっていた。


 ライブ終わりの結衣と待ち合わせて、そのまま家へ行く。最近ではもう、それが当たり前の流れになっていた。


 結衣からは少し前に、『今日もそっち行っていい?』とだけ連絡が来ていた。


 いいよ、と返したあとで、杏里はふと思いついたことがあった。


 今日のライブには、鍋島も出ていたはずだ。だったら、ついでに車に乗せて帰ってもいいんじゃないか。家も同じなのだから、わざわざ別々に帰る方が二度手間に思えた。


 そう考えて、待ち合わせ場所に着いた時のことだ。


「ねえ杏里、それはやめた方がいいかも」


 結衣が、いつになく真面目な顔で言った。


「何が?」


「なべさんをここから車に乗せるの。……さすがに毎回それをやってると、ファンに見られた時、まずいかもしれないよ」


 杏里は小さく瞬きをした。


「まずいって……?」


「ガチ恋勢とかもいるでしょ。ああいう人に、『なんであの女の人と一緒に帰ってるの?』って見られたら、変に勘ぐられる可能性があるし。噂になったら面倒だよ。杏里も、なべさんも」


 たしかに、とその通りだと思った。自分一人ならそこまで気にしなかったかもしれない。けれど、鍋島は人前に出る仕事だ。しかも、少しずつ名前が売れ始めてきている最中なのだ。


「だから、別々の方が安全。こういうのは、最初が肝心なんだから」


 こういう時の結衣は妙に頼もしい。さっきまでライブの余韻で浮かれていたくせに、こういう部分だけはシビアで現実的だ。さすがお笑いファン、というべきだろうか。


「……分かった」


 杏里が頷くと、結衣もすぐに表情を緩めた。


「うん、それがいいと思う」


 ちょうどその時、ライブブースの出口が少し騒がしくなった。林田が出てきたらしい。


 鮮やかな色のジャケット姿のまま、出待ちのファンに囲まれている。今日もライブは絶好調だったのか、テンションの高い声が遠くからでも聞こえてきた。


「林田さん、あれ絶対楽しいやつだね」


 結衣が笑う。


「嬉しそうだね」


「嬉しいでしょ。ああいうの、大好きそうだし。むしろ栄養にしてるよね」


「分かる。……っていうか、大好物でしょ」


 林田はファンの前でもいつもの調子で、手を振ったり軽口を叩いたりしている。囲まれていること自体がすでに自然で、どこか眩しい。


 一方で、鍋島の姿はその輪の少し外にあった。林田ほど前に出るわけでもなく、かといって無愛想でもない。スタッフと二言三言かわしてから、そのまま駅の方へ向かって歩き出す。


 杏里は一瞬だけ、その背中を目で追った。


 声をかけようと思えば、かけられた距離だ。けれど、結衣の言葉が頭に残っていて、そのまま視線をハンドルに戻した。


「じゃ、帰ろっか」


 結衣が助手席に乗り込み、杏里もエンジンをかけた。


 たぶん、これからもこうなるんだろう。家は同じでも、帰り道は別々。少なくとも外では、そのくらいの線引きが必要なのだ。


 家に着くと、結衣はいつものように遠慮なく上がり込んだ。


「お邪魔しまーす」


「毎回、自分の家みたいに入るじゃん」


「もう半分くらいそうでしょ」


「違うから」


 言いながらも、杏里は慣れた手つきで玄関の明かりをつける。


 結衣は居間へ入るなり、当然のようにこたつの定位置へ収まった。リモコンの位置まで把握されているのが、少しだけ癪に障る。


「ちょっと、勝手につけないでよ」


「いいじゃん。……あ、虹トラじゃん!」


 チャンネルを変えていた結衣が、急に声を上げた。


「なに、それ」


「え、知らないの!? 杏里、本気で言ってる?」


 テレビには、三人組のアイドルグループが映っていた。テロップには『虹色トランジスター☆』とある。


「今、急上昇中のアイドルなんだよ。赤がゆみりん、青がふわっち、黄色がみみぃ」


「へえ……」


 杏里は適当に相槌を打ちながら台所へ向かおうとして、ふと足を止めた。


 画面の中の三人は、たしかに目を引いた。アイドルだけあって、みんな顔が小さくて整っている。けれど、それぞれが放つオーラは全く違った。


 赤担当のゆみりんは王道の華やかさがあり、笑った時の存在感が強い。青担当のふわっちはどこか力が抜けているのに、カメラに抜かれると不思議な透明感がある。黄色担当のみみぃは、表情がころころと変わって見ているだけで元気がもらえそうだった。


「三人とも、全然タイプが違うでしょ?」


「……まあ、それは分かる」


 ちょうど歌のコーナーが始まるところだった。イントロと共に照明が弾け、センターに立ったゆみりんが鮮やかに決めポーズを取る。


 その瞬間、杏里は少しだけ目を奪われた。


(眩しい……)


 ただ明るいだけではない。人を惹きつける、本物の「光」がある。


 地味なバイト生活を送っている自分からすると、同じ人間なのか疑いたくなるほど、彼女たちはまっすぐに輝いて見えた。


「……すご」


 思わず、小さく声が漏れる。


「でしょ? ゆみりん、センター力があるんだよね」


「センター力って何」


「見た瞬間、惹きつける力。すごいでしょ?」


「雑だけど、ちょっと分かる気がする」


 杏里は居間の入り口に立ったまま、しばらく画面を見つめていた。


 鍋島たちが立つステージとは、きっと全然違う世界。けれど、彼らが同じイベントで共演していたのかと思うと、どこか不思議な感覚だった。


 歌い、踊り、笑顔で客席を煽る。それをあの年齢で完璧にやってのける姿は、純粋に圧倒されるものがあった。


「アイドルって、本当にすごいんだね。……テレビ越しでも、これだけ伝わってくるんだ」


「ライブで見るともっとすごいよ。今度、行ってみる?」


「それはいい」


「なんで」


「眩しすぎるから。そのままの意味で」


 結衣が笑う。杏里も少しだけ肩の力を抜いて、ようやく台所へ向かった。


 テレビの向こう側は、相変わらず眩しすぎて目が眩みそうだった。けれど、その眩しさをこうして家の中で、誰かと眺める夜も。


 以前より、少しだけ悪くない気がした。

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