訓練準備
寮につくとジグが未だ一階で本を読んでいるのが見えた。
「まだ読んでたのか…」
「ん。 帰ったのか、随分遅かったな…。 …ぼろぼろだな?」
振り向いたジグは疲れた顔をしているユールを見て、苦笑いをする。
「…ああ。 ギリムさんに荷物運びやらされたんだけど、全然終わらなくて…こんな時間になった」
「はは、明日は訓練なんだ。 すぐ休んだほうが良いぞ」
「そうするよ…」
返事もそこそこにユールは二階に上がっていってしまった。
自分の部屋に辿り着いた彼は、そのままベッドに倒れ込む。
「ふ…ぁ…。 明日は昼過ぎにここ集合か…」
転がって考えているうちにユールは寝てしまうのだった。
翌朝、エミルとリリーは早くに寮に到着した。
一階を覗くと朝食をとっているジグを見つける。
「おはよう、ジグ」
「おはよう!」
「ん、ああ。 おはよう」
ジグは食べる手を止め挨拶を返した。
「早いな、リリーも来たのか」
「ええ。 訓練には参加しないけど、せっかくだから朝ごはんを皆で食べようって話になったの」
「そう! 何にしようかな…」
リリーは奥のメニューの書かれた厨房に駆けていってしまった。
「…ユールはどうしたの?」
「ああ、まだ寝てるんじゃないか? 昨日の夜、疲れて帰ってきたからな」
「ふぅん?」
キョロキョロと辺りを見ながらエミルは言った。
「なんでも、ギリムさんのとこで重労働してたそうだが。 気になるなら、起こしに行くと良い」
「行かないわよ」
「そうか」
ニヤッとジグは言うが、エミルに睨まれ手を上げた。
「エミルー! 早く頼もうよー」
「わかったわ、今行くから」
リリーに呼ばれたエミルは彼女の方に歩いていく。
「先に頼んでいていいのに」
「一緒に食べようよ!」
「ふふ、わかった」
子供のように言うリリーに思わずエミルは笑ってしまった。
エミルとリリーが注文している様子を見ていたジグは、視線を二階に移す。
「どうしたの?」
そこに注文を終えた二人が帰ってきた。
「ん? いや、よく寝るなと思ってな」
「ユールまだ寝てるの? 私が起こしに行ってこようか!」
「リリー。 ユールは昨日船で手伝いをして疲れてるみたいだから、寝かせておきましょう」
「はーい」
走り出そうとするリリーをエミルが止めた。
「優しいな?」
「今日訓練なんだから、疲れたまま参加したらリゼさんに迷惑がかかるでしょう?」
そういうエミルの顔は少し赤くなっていた。
「そうだな、ギリギリまで起きなかったら起こせばいい」
「そうね」
言い終わった辺りで厨房から料理の完成を告げられた。
「出来たみたい」
「はーい!」
走って取りに行くリリーの後ろをエミルはついていった。
席についた二人は朝食を食べ始める。
「訓練って何をするの?」
「それが私達も詳しくは聞かされてないのよね…。 体力には自信がないのだけど、大丈夫かしら…」
リリーに聞かれエミルは答えるが、少し不安な表情をする。
「ふーん。 大変だねぇ。 頑張ってね」
もぐもぐと食べながら他人事のようにリリーは話す。
「そうだわ、リリーも参加したらどうかしら?」
「えっ、わ、わたしは…遠慮しておこうかな~。 ほら、研究区に戻らないといけないし?」
ニッコリとしていうエミルに焦ったリリーはしどろもどろになりながらも返事をした。
その後三人は暫く話こみ、リリーは研究区に戻る時間になった。
「それじゃあ、私はそろそろ戻らないと行けないから。 訓練頑張ってね~!」
「ええ、気をつけて行きなさい」
「またな」
ユールに宜しく!と言いながら走り去っていく彼女を二人は見送った。
「ユールはまだ寝てるのかしら…。 仕方ないわね…」
「行くのか? 鍵は寮長に言えば貸して貰えると思うぞ」
「いらないわよ。 扉を叩けば起きるでしょ」
そう言い放って、エミルは二階に上がっていった。
ユールの部屋の扉の前で一度止まり、ノックをして確認する。
「ユール? 起きなさい!」
しかし中からの反応はなかった。
「開けるわよ?」
そう言って鍵を扉に差し込む。
部屋の鍵は、先程三人で話している時に寮長に事情を話して貸して貰っていた。
ジグ達に詮索されるのが嫌だった彼女は、バレないように少し離れると言って寮長の所へ向かったのだった。
「…ユール?」
そろりと部屋に入ったエミルは中を確認する。
そこにはベッドで爆睡しているユールの姿があった。
「…全く、着替えもしないで寝たのね。 そんなに疲れる事をしたのかしら…訓練だって言われてるのに…」
そう小言を言いながらベッドに近づいていく。
すると寝ているユールから唸り声が聞こえてきた。
「…さん。 …あさ、ん」
「…? 朝?」
よく聞き取れなかったエミルは耳を傾けた。
すると突然ユールはエミルの腕を掴んだ。
「きゃっ…」
思わず叫びそうになるが、なんとか堪える。
「何よ、起きてるの?」
「おかあ…さん…。」
確認をするが起きている様子はなく、代わりに寝言が返ってきた。
「ふふ、私はお母さんじゃないわよ…。 ほら、起きなさい」
小さい子供のような、ユールらしからぬ寝言に笑いながらエミルは彼の顔を軽く叩いた。
「ん…。 …………? ……つっ!!」
「起きた? しっかりしなさい!」
寝ぼけ眼でエミルを確認したユールは、ガタガタとすごい音を立ててベッドから飛び起きた。
「いっつつ…。 エ、エミル? なんでここに…」
「忘れたの? 今日は訓練よ、いつまで寝てるつもりなのよ。 ほら、早く準備しなさい」
「…はぁ」
淡々と言いながら部屋を出ていくエミルに、ユールはため息を吐いた。




