第9話 二十層の一撃は、正面で受けない
二十層へ着くまでに、一か月掛かった。
入った道を地図に足し、採った鉱石を売り、戻って休む。
十層の昇降門が使えるようになったので、途中の寝床を無理に探す必要は減った。
この迷宮の層ごとの番人は、一定の日数で作り直される。
割れた核も、遺跡の魔力から新しく生まれる。
一度誰かが倒した道を、そのまま全員が下れるわけではない。
俺たちも、昔通った二十層で、もう一度戦うことになる。
番人は、蒼い角の大牛だった。
大扉を背に立ち、地面へ前脚を叩く。
床の石が、三つ跳ねた。
「正面の突進は、受けない」
俺は先に言った。
ガルドと来た時は、彼が剣で角を止めた。
俺の盾へ乗せるには、あの身体全体が重すぎる。
防御力が高くても、俺の足は床へ生えていない。
ノノが、右の柱を指した。
「柱の脇に、足一つ分、乾いた線がある。前へ出る時はそこ」
床の低い場所には、水が溜まっていた。
リディアが杖を回し、その水を薄く凍らせる。
俺たちの道を固くし、大牛の向かう場所だけを滑りやすくした。
ノノの矢が、番人の鼻を掠めた。
牛が頭を振り、こちらへ走る。
俺は盾を下げたまま、柱の脇へ移った。
大きな身体が、氷へ乗る。
前脚が滑り、肩から柱へぶつかった。
石が砕けた。
その衝撃だけでも、俺の盾には重い。
正面で受けていたら、三人とも後ろの扉へ押し潰されていただろう。
牛は立ち直った。
蒼い角を地面へ差し込み、岩を一つ持ち上げる。
その表面に、番人の魔力が光った。
岩弾が来る。
身体全部よりは小さい。だが、重さは十層の斧以上だった。
俺は膝を曲げ、盾を床へ近づけた。
受けた瞬間に、持ち上げる。
前世の野球で、低い球の前へ身体を置いた時の構えに似ていた。
受ける力は、球とはまるで違う。
青い膜が、盾の縁まで広がる。
靴が床を削った。
岩が、牛の額へ戻った。
蒼い角の根元が割れ、番人が頭を下げた。
リディアの氷が、割れ目へ入り込む。
「もう一つ、いけますか」
俺は残る魔力を確かめた。
今の重さなら、あと一つ。
「一つだけ」
彼女は頷いた。
大牛の脚を狙い、氷を太くする。
牛はそれを砕き、角へ岩をもう一つ載せた。
同じ攻撃が、一発ずつ来る。
二人が、その状況へ持ってきてくれた。
俺は、二度目を返した。
今度は、割れた角の真ん中へ。
蒼い光が、奥で弾けた。
大牛が膝をつき、ゆっくり床へ倒れた。
俺も、その場へ座った。
指が開かない。
ノノが持ち手の紐を解き、リディアが盾を脇へ置いた。
二人に手を貸してもらい、扉から離れた場所へ移る。
「そのうち、ひとりでも受けられるようになるかな」
俺が言うと、ノノは首を傾げた。
「ひとりだと、二発まとめて投げさせない役、どうする?」
俺は少し考え、それから笑った。
「そっちの方が、難しいな」
二十層の刻印を取った。
地上へ戻る昇降門は、青く光っていた。
帰りの階段で、リディアが俺の横へ来た。
「次は、受けられる量を少し増やしたいですね」
「新しい盾か?」
「それも。私が一撃を小さくして渡す方法も、考えます」
俺は、彼女の横顔を見た。
俺をもっと厚い壁にする話ではなかった。
二人の仕事の組み方を、変える話だった。
俺たちは地上へ出た。
鐘楼の音がして、夕飯の店が戸を開け始めていた。




