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第7話 鏡の回廊は、反射を待っている

十四層には、鏡が並んでいた。

人の姿が映る普通の鏡ではない。

黒い石の表面に、魔力だけが筋になって見える。


ノノが、小石を投げた。

石は一枚へ当たり、床へ落ちた。

次にリディアが、弱い氷の粒を飛ばす。


粒は、鏡へ触れた。

青い線が隣へ移り、別の鏡から、同じ氷が出た。


俺は盾を上げた。

返した粒が向こうへ飛び、三枚目の鏡が光る。

次の瞬間、俺の横から同じ粒が来た。


肩の防護へ当たり、服に白い筋がつく。


「自分の返したものが、戻ってくるな」


俺は、肩の氷を払った。

弱い試し撃ちでよかった。


回廊の仕組みは、術を鏡から鏡へ移すものだった。

強い攻撃を放てば、その強さで通路へ戻ってくる。

俺が一つ返しても、別の場所から来れば、続けて受けられない。


ノノが、地図へ鏡の位置を書いた。


「光る順番、追ってみる。もう一つ、小さいのをお願い」


リディアが、細い火花を送った。

左の鏡。奥の鏡。右の低い鏡。

三枚が順に赤くなった。


ノノは弓から矢を一本取った。

魔力のない、普通の矢だ。

右の低い鏡の前にある、小さい輪へ通す。

輪が動く。

鏡の面が、少し下を向いた。


もう一度、火花を流した。

今度は三枚目から、床の石へ落ちた。

石の継ぎ目に、古い焦げ跡が見える。

最初から、そこへ流すための仕組みがあったらしい。


「出口へ行く時の向き」


ノノが言った。

俺たちは触れていい輪を、一つずつ確かめた。

全ての鏡を壊す必要はなかった。


半分ほど進んだ所で、黒い小獣が梁から落ちた。

煤鼠だ。

回廊へ住みつき、火を吐く。


リディアが杖を上げかけて、止めた。

大きな術を出せば、鏡へ入る。

小獣はそれを知るわけではなくても、結果としていい場所にいる。


ノノの矢が、一匹を射抜いた。

残る一匹が、俺の足元へ火を吐く。

俺は盾を低くし、壁のない方向へ返した。


炎が煤鼠を倒した。

その先の鏡が、赤く光る。


俺は息を吸い、盾を引いた。

同じ炎が、反対の壁から出た。

さっき返したばかりの火だ。


返さない。

身体をずらし、床の焦げ跡へ落ちる道を空けた。


背中へ熱が来た。

リディアの薄い氷が、俺の外套の端を守る。

炎は床へ落ち、通路は静かになった。


俺は、ようやく長く息を吐いた。


「返せると、つい返したくなる」


ノノが、耳を傾けた。


「弓を持つと、射れるものは全部射りたくなる。それと似てる?」

「たぶん」

「私も昔、糸を全部切って、床ごと落ちた」


その話を聞いて、リディアが笑った。

ノノも、自分で笑った。

昔の失敗を、仕事の話として出せる人だった。


十五層へ下りる階段で、俺は地図を見直した。

鏡の向き、輪の位置、床へ落とす場所。

俺たちが確認した範囲だけを、線で結んだ。


王冠の迷宮は、強い攻撃だけを試す場所ではない。

返ってくるものを、誰がどこへ逃がすか。

深い層では、それがもっと大きな問題になりそうだった。


俺は盾の表面へ手を置いた。

使わない一瞬も、練習に入れることにした。

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