第5話 十層の騎士に、斧をお返しする
十層へ着いたのは、登録から七日目だった。
下へ進むほど、荷物は増える。
予備の革、薬、灯油、帰りの食べ物。
ノノは一度、俺が持ちすぎていると指摘し、三人で分け直した。
十層の大扉には、石の斧が彫られていた。
その前の広間に、岩殻の騎士が立っている。
左右の手に斧。顔の代わりに、緑の核。
旧隊で通った時は、ガルドが一気に核を斬った。
俺はその背へ来る斧を受け、終わったあと、腕へ湿布を巻いた。
同じ強さの剣は、今の三人にはない。
リディアが、小さな氷の刃を床へ滑らせた。
騎士の脚へ当たる。
岩の鎧に、白い傷が一本ついた。
その瞬間、両手の斧が上がった。
「二本、来る!」
俺は右を避け、左だけを盾へ載せた。
重い。
木の芯が、低く鳴った。
返した斧は天井へ刺さり、岩の粉が落ちる。
ノノが、もう一本の落下場所を見た。
床の丸い印へ、斧が刺さっている。
騎士の手元に同じ形の武器が生まれ、彼は床へ一歩、足を出した。
広間が揺れた。
俺は、反射しようとしなかった。
地面を走る揺れは、一撃になって盾へ来ない。
右へ跳び、壁の柱へ身体を寄せる。
リディアの氷が、ノノの前へ小さい足場を作った。
「斧の印のまわりが、低くなる」
ノノが呼んだ。
床に幾つかある丸い印を、彼女は見ていた。
騎士は、そこへ武器を投げる。
次の踏み込みで、印のまわりの床が沈む仕組みだった。
俺は盾を構え直した。
「二本の間を、空けられるか」
「一瞬なら」
リディアが答えた。
騎士の右手へ氷が絡む。
砕かれるまでの短い時間、左の斧だけが先に出た。
俺は、それを返した。
騎士の左肩へ。
岩が砕け、腕が広間へ落ちた。
右の斧が遅れて来る。
今度は返さない。
盾を身体へ引き、床の印へ落ちる武器を避けた。
「前!」
ノノの合図で、俺は柱を離れた。
脚の下に揺れが来る前に、別の高い場所へ移る。
騎士は右手だけで、斧を作った。
緑の核が、一度明るくなる。
その光を見て、俺は盾の上端を少し下げた。
投げる位置が、高くなった。
風を割って、斧が来る。
俺は受け、肩ごと盾を回した。
石の斧が、騎士の顔へ戻った。
核が割れる。
大きな身体が膝をつき、それから石の山へ崩れた。
俺は、膝を曲げたまま動けなかった。
左腕が震える。
返した斧は二つ。その重さで、魔力もかなり使った。
ノノが水筒を持ってきた。
リディアは石の山が止まったことを確認し、俺の横へ膝をついた。
「盾を預かります」
彼女へ持ち手を渡した。
誰かに渡しても、仕事を失うわけではない。
その当たり前のことに、まだ少し慣れていなかった。
奥の扉が開く。
そこには、昇降門があった。
十層ごとに作られた、地上へ戻る転移の設備だ。
初めて着いた場所の刻印を免許へ写し、ギルドで登録すると、次から地上とその層を往復できる。
行ったことのない層へ、飛ぶことはできない。
俺たちは三人分の刻印を取り、地上へ戻った。
塔の出口には、まだ午後の光があった。
ノノが、肩を回した。
「初めての十層、三人とも足が残ってる」
リディアが笑った。
俺は左手を開き、握り直した。
自分の足で、食堂へ歩ける。
今日、返した斧の数は二つ。
倒した騎士は、一体。
その報酬は、三人のものだった。




