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第4話 兎の斥候は、安売りしない

王冠の迷宮へ入るには、探索者の免許が要る。

俺の免許はC級だった。

三十層までは入れるが、それより下へ進むには、実績と審査を重ねてA級の許可を得なければならない。


ギルドの受付主任マーヤは、新しい組の登録票を渡した。


「暁の剣の時の記録も、あなた本人の実績として残っています。所属を抜けても、そこは消えません」


俺は、その言葉で少し胸が軽くなった。

二年間が、ガルドの名前の下へ全部置いていかれるわけではない。


登録票へ二人の名前を書いていると、隣から声がした。


「斥候、いる?」


小柄な女が、半分眠そうな目で俺たちを見ていた。

長い兎の耳が、片方だけ立っている。


ノノ・リッツ。二十二歳。

地図と弓を背負った、探索者だった。


「罠を探す。道を見る。帰り道も覚える。荷物を持つ仕事は、別料金」


最初に仕事を区切る。

俺は、それが気に入った。

リディアが、報酬の条件を話した。

経費を引いて三等分。役割を増やす時は、出発前に相談する。


ノノは登録票を読み、頷いた。


「一度、五層まで。組み方が合えば、その先も考える」


俺たちは、その条件で迷宮へ入った。


入口の一層は、切り揃えた石の廊下だった。

数百年前の遺跡で、どんな目的で作られたかは、まだ全て解けていない。

魔物は深い場所から上がってくる。

探索者が見つける鉱石と術具が、都市の商売を支えていた。


三層で、俺は盾を出し、蛇の水弾を返した。

相手が壁へ倒れる。

ノノがその横を通り、床の継ぎ目を指した。


「そこで、止まって」


俺は足を止めた。

一歩先の石が、左右と少し違う。

彼女が小さい金具を差し込むと、壁の穴から細い針が落ちた。


「盾で受けてもよかった?」

「一つなら。横から同時に十本来たら、厳しい」


俺が答えると、ノノは頷き、地図へ印を付けた。

返せるかどうかを聞いてから、処理してくれた。


四層の角で、甘い匂いがした。

次に、足元へ黄色い霧が流れる。


俺は反射の膜を出しかけた。

だが、霧は盾の裏へ回った。

返す一撃の形がない。


「息を止めて、戻る!」


ノノが、俺の外套を引いた。

リディアが氷の戸を作り、曲がり角を塞ぐ。

俺たちは来た道を戻り、霧のない階段へ座った。

喉が、少し痛い。

持参した薬を使い、症状が落ち着くまで待った。


ノノが、膝に地図を広げた。


「毒の部屋。通気口の音が、途中で変わった。こっちの旧道なら、通れる」

「霧がどこまで行くか、耳でわかるのか」

「全部は無理。風の向きと、穴の音だけ。見て確かめる所もある」


彼女は、俺の盾へ目を落とした。


「大きい攻撃を返せても、これに勝つ仕事は、別なんだね」


俺は頷いた。

地面から崩れる罠も、吸い込んだ毒も、〈返盾〉では戻せない。

防御力が高い身体にも、休みは要る。


五層へ着くまで、俺たちは旧道を二つ選んだ。

派手な戦闘は減ったが、三人とも、きちんと歩いて帰れた。


帰還したあと、ノノが登録票へ正式に名を書いた。


「盾が間に合わない時は、言って」

「言う。君も、道に自信がない時は、そう言ってくれ」


リディアが、二人の名を見て笑った。


「では、次は十層。三人で」


俺は、探索予定へ印を付けた。

守る相手が、二人になった。

ただ、帰り道で俺も二人に守られた。

その方が、長く歩けると思った。

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