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第3話 その炎を、もう一度こちらへ

廃坑の入口は、熱い風を吐いていた。

リディアが氷の板を二枚作り、通路の脇へ立てる。

その間を、俺たちは進んだ。


奥から、一定の間隔で赤い光が来る。


「三回数えたら、次が来る」


彼女が言った。

俺は盾を前へ置き、足を開いた。

一つ。二つ。三つ。


炎の束が、盾へ当たった。

表面の青が、強く光る。

俺は身体を捻り、壁の隙間へ炎を返した。

古い鉱石の山が、赤く溶ける。

通路には、しばらく熱い空気だけが残った。


「前へ」


短い合図で、二人が動く。

リディアは次の氷を出し、俺の背を熱から守った。

盾に当たらない空気の熱まで、〈返盾〉で消せるわけではない。

彼女がいなければ、俺の肺が先に参っただろう。


五つ目の角で、組合員を見つけた。

男が二人。崩れた梁の後ろへ隠れていた。

脚に火傷があり、片方は一人では歩けない。

リディアが状態を確かめ、持参した布を巻いた。


「入口まで、二度休みます。急ぐ時は、こちらで言います」


俺は歩ける方へ、怪我人を支える持ち方を頼んだ。

盾は、俺が運ぶ。


出口へ戻る途中、炎の間隔が変わった。

一つ。

二つ。

次が、もう来る。


リディアの氷が割れた。

俺は盾を出し、炎を天井へ返した。

古い梁がきしむ。


その先の暗がりに、脚が八本、見えた。

炭蜘蛛。

炎を食べ、熱を腹へ溜める魔物だ。

術式から出る炎を浴びて、通路の上を動いていた。


「普通の火は、吸われる!」


リディアが呼んだ。

俺は二人を、壁の陰へ下がらせた。

蜘蛛の腹が赤くなる。

食べた炎を、今度はこちらへ吐くつもりだ。


小さい球が三つ、並んだ。


「一度には、受けられない」


俺が言うと、リディアは頷いた。

三つの氷の角が、床から立つ。

一つが左の球を受け、二つ目が右を外へ逸らした。

真ん中の一発だけが、俺へ来る。


盾を、蜘蛛の腹へ向けた。


衝撃で、靴が砂を削る。

重い。

魔力が、ぐっと抜けた。

それでも、膜は切れなかった。


炎が戻った。

蜘蛛の腹の下、火を吐いたばかりの薄い場所へ入る。

赤い脚が、ばらばらの方向へ開いた。


リディアは、すぐに氷の槍を出した。

蜘蛛の頭を貫く。

大きな身体が、通路へ落ちた。


俺は盾を地面へついた。

手の甲が震えている。


「休む」


三つ目の合図だった。

リディアは先に出口を確認し、戻ってきて水筒を渡した。

急げとは言わなかった。


外へ出ると、救助の人たちが待っていた。

組合員は担架へ乗り、俺たちは依頼主へ奥の状況を話した。

炭蜘蛛は倒したが、古い術式は止まっていない。

入口を閉じ、術式の専門家を呼ぶ必要がある。

俺たちだけで、全て直せるとは言わなかった。


その晩、宿の食堂で報酬を分けた。

道具と薬の代金を引いて、銀貨六十枚。

俺の前へ、三十枚が置かれる。


「相手の火を返した分も、俺の仕事でいいのか」


聞くと、リディアは金を置く手を止めた。


「あなたが立ってくれたから、私は三つを一つにできた。あの組合員たちは出てこられた。それ以外に、何を数えます?」


俺は、銀貨を取った。

盾を直しても、寝床を払っても、残る。

食堂の匂いが、急に食欲を起こした。


リディアが、空いた椅子へ外套を掛けた。


「一日だけの契約でしたけど、次も組みませんか」

「次は、どこへ?」


彼女が窓の向こうを指す。

都市の真ん中に、王冠形の塔が立っていた。

その地下には、五十層の迷宮がある。


「王冠の迷宮。最下層は、まだ誰も踏破していません」


俺は彼女の顔を見た。

冗談で誘った顔ではなかった。


「俺は、二十五層までしか知らない」

「私は三十五層。どちらも、その先は初めてです」


俺は、新しい持ち手を握った。


「行こう。まず、十層から確かめたい」


リディアが、酒場の主人へ二人分の夕食を頼んだ。

今夜は、安いパンだけで済ませる必要がなかった。

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