第23話 攻撃力ゼロの、最高到達記録
ギルドの測定板に、俺はもう一度手を置いた。
攻撃力、零。
見ていた係員が、声を上げた。
冗談だと思ったのだろう。
マーヤが免許の刻印を見せ、隣の窓口を静かに止めた。
王冠の迷宮、五十層。
最難関の最下層へ到達し、守護者を突破した証明。
三人の免許に、同じ刻印がある。
核の欠片と、持ち帰った灯種を確認するため、調査員が来た。
俺たちは、倒した時の手順をそれぞれ説明した。
最後の大魔法を、一人で返しきったとは言わなかった。
リディアの氷と、ノノの退路がなければ、同じ場所で終わっていた。
調査が済むまで、三日は地上で休んだ。
俺の腕は、強い術を受けたあとで痛んでいた。
リディアも、細かい氷をしばらく出せない。
ノノは二人を診療所へ連れていき、自分の傷も見てもらった。
ドランは盾を見て、長く黙った。
銀の縁を、一度指でなぞる。
「よく持たせた」
俺は持ち手を置いた。
「次には、もう使えないか」
「直せる所は直す。ただ、同じ大魔法を今すぐ載せるな。持ち主も、道具もだ」
俺は頷いた。
勝った日と、何でも続けられる日を、同じにはしなかった。
灯種の調査では、周囲の魔力を安定させる働きが確かめられた。
外から入れる力がなくても、永遠に灯る道具ではない。
それでも、都市の術炉の揺れを減らす用途が見込める。
ギルドと都市の工房組合が、買い取りを申し出た。
俺たちは、その条件を読んだ。
ノノが経費を確かめ、リディアが術具の扱いを聞く。
売却と最下層回収の報酬を合わせ、費用を引き、三等分した。
一人、金貨百枚。
俺は、重い袋を持ったまま、しばらく黙った。
銀貨六枚を卓から拾った日を思い出す。
同じ手へ、今は違う重さがある。
ノノは先に袋を閉じた。
「これだけあると、置く場所から決める必要があるね」
俺は笑った。
宝庫で何を持って帰るか、三十五層で話した通りだった。
夕方、三人の名前がギルドの入口へ掲示された。
〈銀の盾〉。
王冠の迷宮、初踏破。
街の人たちに囲まれ、俺たちは最初、うまく話せなかった。
何を返したのか。どれだけ大きかったのか。
ノノが手を広げ、リディアが両手を上げる。
説明する大魔法が、見るたび少し大きくなった。
俺が「その半分くらい」と直すと、二人が同時に笑った。
俺も、笑った。
新しい家を見るのは、その翌週にした。
以前、商人が使っていた建物だ。
一階に工房と広い仕事部屋。
二階には、別々に使える三つの部屋がある。
買う前に、まず一年借りることにした。
壁の状態と仕事のしやすさは、住んで確かめられる。
ノノは、地図の部屋を借りたいと言った。
寝床は、近くで別に探す。
仕事仲間と住む距離も、彼女が選べた。
夕方、俺とリディアは、その家の窓辺へ立った。
まだ家具はない。
外には、ギルドの塔が見える。
俺は、彼女へ向き直った。
「リディア。仕事が終わったあとも、隣へ帰ってきてほしい」
彼女は、少し目を伏せた。
手を伸ばし、俺の指を掴む。
「私も。あなたの盾を借りたいと言った時は、こんな話になると思いませんでした」
俺は笑った。
「持ち主まで借りると言っただろう」
「次は、借りるのをやめます」
彼女が、俺のそばへ来た。
「一緒に暮らしたいです。レンが好きだから」
俺は、彼女を抱き寄せた。
その肩は、迷宮で大きい氷を支えた時より、ずっと柔らかかった。
唇が、短く触れた。
外の鐘が鳴る。
俺たちは離れてから、もう一度、手を繋いだ。
窓の下に、古い盾を置く棚を作るつもりだった。
新しい盾は、玄関へ。
明日の仕事から戻る場所が、そこにできた。




