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第22話 その大魔法、そっくりお返しします

ノノの矢が、扉の横の輪へ当たった。

退路の石戸が、開いた位置で止まる。

帰る道を残したまま、彼女は壁の目の前へ走った。


弓を上げる。

赤い線が、彼女へ向いた。


「レン、今!」


俺は中央へ入った。

腹の砲口が、核の下へ真っ直ぐ伸びている。

右でも左でもない。

その正面へ、盾を置く。


リディアが、氷を三枚作った。

平らな壁にはしない。

一枚目は、広い皿の形。

二枚目は、中央へ寄せる溝。

三枚目は、俺の盾へ束を渡す小さい輪。


彼女の術が、その形を保つ。

腕へ浮いた筋が、灯りの中で見えた。


王が、撃った。


白い大魔法が、一枚目へ当たる。

氷が砕け、広間の壁へ光が散った。

轟音が、胸へ来る。


二枚目も割れる。

飛んだ欠片が、俺の袖を切る。

それでも、光の端が減った。


三枚目に、白い輪が重なる。

氷が、薄く透ける。

リディアが両手で杖を握った。


「渡します!」


最後の氷が、砕けた。


俺の盾へ、光が来た。

まだ、大きい。

それでも、最初に砲口へ溜まったものより、確かに細くなっている。


魔力を、膜へ流す。

銀の縁が、白く光った。

木の芯が、低く鳴る。


靴が後ろへ滑った。

俺は左足を、ノノが示した床の溝へ置いた。

それ以上、退かない位置。

ただし、倒れれば足を折る。

膝を固めず、身体全体で力を受けた。


前世の捕手だった時、怖い球の前で、目を閉じたことがある。

球がどこへ来たか、最後まで見えなかった。

今、目を閉じれば、返す先の核も見えなくなる。


俺は、王の胸を見た。

三枚の板の後ろ。

裸の金の核。


盾を、少しだけ上へ向ける。

ほんの僅かな角度だった。

ここで大きく振れば、光が盾の横を通ってしまう。


左腕の感覚が、薄くなった。

膜が揺れる。

残る魔力が、底へ近づいた。


「レン!」


リディアの声がした。

名を呼ぶ、それだけだった。

俺の身体を、彼女が代わりに動かすことはできない。


俺は、盾の縁を最後まで持った。


白い光が、折れた。

王の核へ向かう。


威力は、俺が足したものではない。

氷に削られたあと、なお残った、王自身の大魔法だ。

俺の攻撃力は、零のままだった。


光が、核へ届いた。


一瞬、王の身体の中が透けた。

胸から腕へ、脚へ、幾つもの線が走る。

次に、金の核へ細いひびが入った。


砲口が止まる。

巨大な甲冑が、膝をついた。


俺は、その場で盾を落とした。

もう、次を返す力はない。

立っていることも難しかった。


リディアが俺の腕を取り、ノノが反対側へ入る。

二人で、扉の脇へ引いた。

俺は床へ座り、王が崩れるのを見た。


黒い板が、一枚ずつ落ちる。

天井へ伸びていた光が消えた。

広間の奥に、小さい扉が現れる。

その横で、昇降門の青が灯った。


ノノが、長く息を吐いた。


「終わり。もう、何も足さなくていい」


俺は頷こうとして、頭を壁へ預けた。

リディアも、俺の横へ座った。

杖を置く手が、今は震えている。


三人で、しばらく何も言わなかった。

俺は二人の顔を、順番に見た。

傷はある。疲れている。

三人とも、ここにいた。


「ありがとう」


俺が言うと、ノノが盾へ目を向けた。


「それ、あとで。まず水」


リディアが、水筒を開けた。

俺は少しずつ飲み、二人も飲んだ。


動けるようになるまで待ってから、奥の扉を調べた。

今度の宝庫は、全て持ち出していい棚ではない。

大きな台座の上に、小さい金の輪が一つある。

中に、種のような灯りが浮かんでいた。


リディアが、依頼書の図と照らした。


「灯種。これです」


ノノが台座の周囲を調べ、罠のないことを確かめた。

俺は、用意してきた箱へ術具を納めた。

重さは、掌へ乗る程度だった。


免許へ、最下層の刻印を写した。

五十層の昇降門は、俺たちの名を認めた。


俺は、新しい盾を拾った。

縁は歪み、持ち手の一部は焼けている。

それでも、離さずに持って帰る。


三人で、青い門へ入った。

地上へ出ると、夕方の鐘が鳴っていた。

人が歩き、店が開き、焼いた肉の匂いがする。


リディアが、俺の隣で笑った。


「家を、見に行けますね」


俺は、彼女の手を握った。


「まず、三人で夕飯を食べよう」


ノノが、門の階段を下りた。

俺とリディアも、その後ろへ続いた。

最下層の帰り道を、最後まで歩いた。

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