第21話 赤、青、白。三人分の道
二日後、俺たちは五十層へ戻った。
盾の銀に、大きな傷はない。
持ち手の紐は、四十九層の部屋で締め直した。
三人の道具を、最後に見た。
リディアの杖。ノノの弓。俺の盾。
残る薬と食べ物は、帰る分を別の袋へ入れてある。
扉を開くと、王の胸の円は、全部消えていた。
途中で出れば、仕組みは最初へ戻るらしい。
それも、入る前に確かめたことだ。
ノノが、右の段へ走る。
床を踏み、壁の目がどちらへ向くか調べた。
三十四層と似た、赤い線が動く。
弓を引くと線が彼女を追い、引くのをやめると、動きが遅くなる。
俺が盾を出しても、線はすぐには向かなかった。
防御の魔力と、攻撃の魔力を、ここでも分けている。
だが、天井の光は誰へでも落ちる。
狙われにくいことだけで、全て通れるわけではない。
王の右腕が、赤くなる。
リディアの小さい火が、反対の壁へ走った。
目がそちらを追う。
俺は、赤い砲口の前へ入った。
盾を傾け、胸の左の板へ返す。
炎が当たり、赤い円が一つ灯る。
板が、横へ動いた。
次は青。
冷たい一撃が、左腕へ溜まる。
リディアは正面で受け止めず、氷を斜めに置いた。
光の端を削り、一本の細い束にする。
俺が受ける重さを、少し減らした。
盾の上を、冷たい力が滑る。
青を右の板へ返した。
二つ目の円が灯る。
王の肩が、白く光った。
「上!」
ノノの合図で、俺は段へ走った。
彼女は、踏んではいけない板を二つ、糸で示していた。
その間に、リディアの短い氷の階段がある。
砲口の高さへ近づく、必要な三段だけ。
白い光が、天井へ伸びる。
まだ一本の線だった。
広がる前に、俺は盾を上へ出した。
腕が、押された。
足を開き、低い段へ膝を預ける。
光は盾へ触れ、下の胸板へ折れた。
三つ目の円が、白く灯った。
俺は盾を引き、段を下りた。
残る魔力は、半分より少ない。
リディアが俺の背へ手を当て、平らな床へ戻る。
ノノが、最後の矢の束を見た。
三人とも、まだ帰る余力がある。
王の胸の板が、三枚同時に開いた。
淡い金の核が、真ん中へ出る。
俺は、その形を見た。
もう一発を返せば、届く。
そう思った直後だった。
砲口が、全て閉じた。
肩も、腕も、光を出さない。
かわりに、王の腹の奥で、低い音が膨らんだ。
胸へ流れていた赤、青、白の線が、そこへ集まる。
三枚の板で受けた力が、別の道を通っていた。
胸を開いた時の、最後の防衛だ。
腹の砲口が、ゆっくり開いた。
広間の床が振動した。
これまでの一撃とは、重さが違う。
俺は、盾を上げたまま言った。
「そのままなら、返せない」
リディアが俺を見た。
ノノも、足を止めた。
俺は、核と砲口を交互に見た。
「力を使い切ったら、膜より先に俺の腕が折れる。今の量では、足りない」
格好いい返事は、できなかった。
三人で決めた条件なら、ここで出る。
ノノが、扉の方へ手を上げた。
帰る道は、まだ開いている。
リディアも、杖を胸へ引いた。
その時、彼女の目が、さっき青を削った氷へ動いた。
「小さくすれば、どうですか」
俺は、彼女を見た。
「私が三枚、割らせます。威力を受け止めきるのではなく、少しずつ削る。残る力を、あなたへ渡す」
練習場で、小さい炎から始めた形だった。
二十層で、大牛の岩を見てから、何度も試していた。
四十層では、無理に返さず、彼女の攻撃へ任せた。
今回は、二人で一撃を持つ。
俺は、彼女の手を見た。
震えていない。
だが、このあとに大きな氷を出す余力は、残らないだろう。
「ノノ。最後の道を、空けられるか」
彼女が、弓へ一本だけ矢をつがえた。
「一本分なら。何本も頼まないで」
俺は頷いた。
足を、もう一度床へ置いた。




