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第19話 最後の階段へ持っていくもの

探索を始めて、半年近くになった。

四十層から先では、毎回地図が増えた。

四十一層の床は、踏むと横へ滑る。

四十三層には、灯りを消して渡る水辺があった。

四十六層では大きい番人を倒すより、通る時間を選ぶ方が安全だった。


俺たちは、ときどき地上へ戻った。

四十層の昇降門から先に、新しい門はまだない。

下で使う食べ物と油を、戻る分まで持つ必要があった。


四十九層の休息室は、壁に暖かい線が通っていた。

報告にあった部屋だ。

扉を閉め、空気と水を確かめてから、三人で荷を下ろした。


翌朝、最下層へ入る。

ノノは、残る矢を数えた。

リディアは杖の石を磨き、俺は盾の紐を締め直す。

誰か一人が全員の準備をすることは、なかった。


「ここまで来ると、帰るのが惜しくなる」


ノノが言った。

俺は頷いた。


「だから、帰る合図を今決めておこう」


俺の魔力が、大きい反射を二回続けられない量になったら。

リディアが、狭い遮蔽を出せなくなったら。

ノノが、撤退の道を読みきれなくなったら。

どれか一つでも、まず出る。


三人は、いつもの補足契約の紙を見た。

地上で書いた署名は、角が少し擦れている。

ただ、下へ来たからといって、条件を変えるつもりはなかった。


夕飯は、乾いた肉と豆の煮込みだった。

俺が少し塩を入れすぎ、ノノが水を足した。

リディアは、黙って鍋を大きくした。

彼女の氷の器は、火の横へ置かないよう注意が要る。


「工房ができたら、鍋は普通のものを買います」


彼女が真面目に言い、ノノが笑った。


食べ終えると、ノノは先に休んだ。

見張りは、扉の外の音が変わった時だけ交代で確かめる。

無理に全員起きている方が、翌日の動きが悪くなる。


俺とリディアは、階段へ続く扉のそばへ座った。

細い光が、彼女の頬へ当たっている。


「最下層に、何がいると思います?」

「報告に、黒い甲冑が見えたとある。四十八層から、扉の奥を遠くに見た人の話だ」

「それ以外は、まだわからないですね」


俺は頷いた。

知らない敵を、知っているつもりで入るわけにはいかない。


彼女は膝へ両手を置いた。


「レン。終わったら、家を見に行きませんか」


初めて、姓のない名だけで呼ばれた。

俺は、彼女を見た。


「一緒に?」

「はい。工房と、盾の置き場所がある所を」


俺は、少し息を止めた。

明日のために呼吸を整える練習はしたが、この返事の準備はしていなかった。


「行きたい」


それだけ答えると、彼女が笑った。


「では、今日は帰る家の候補を増やした日です」


俺は、彼女の手へ自分の手を重ねた。

彼女は、引かなかった。


好きだという言葉を、危険な階段の前で急いで渡すことはしなかった。

ここから戻って、同じ場所へ座る予定を作れた。

それが、今夜はよかった。


寝床へ戻ると、ノノが目を閉じたまま言った。


「家の話、地図の部屋も忘れないで」


俺たちは、同時に返事をした。

眠っていたのか、聞いていたのかは、最後まで聞かなかった。


盾を、寝床の脇へ置いた。

明日、持っていくものは、もう揃っていた。

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