第16話 借りは、命では払わせない
保守路の最後には、小さい扉があった。
ノノが留め具を動かすと、向こうから熱が流れてくる。
俺は先に盾を出し、身体を横へして入った。
広間には、十二人いた。
暁の剣の五人、リディア、それから先に入っていた二つの隊の六人。
怪我人を、壁の角へ集めている。
赤い番人は、槍を突き出していた。
槍の先から、火弾が飛ぶ。
ガルドが二体を斬り、リディアの氷が、残る二体を一列へ寄せる。
俺は、その列の先へ入った。
「レン、右!」
彼女の声で、盾を向ける。
火弾が戻り、後ろの番人の胸へ入った。
鎧が割れ、残る一体が前へ倒れる。
次の一発は、ガルドへ向かっていた。
俺は横へ動き、盾の角で外へ返した。
槍の穂先が、持ち主の顔へ跳ねる。
ガルドは、こちらを見た。
何か言いかけたが、俺は先に出口を指した。
「保守路へ。今なら通れる」
ノノが扉から人を通した。
最初は歩ける者に、怪我人を支えてもらう。
リディアが氷で通路の穴へ橋を作り、俺は番人を受ける。
ガルドは、その横で剣を振った。
彼の剣は、今も強かった。
三人目の怪我人が戸へ着いた時、ノノの足元の板が割れた。
身体が、膝まで沈む。
彼女は縁を掴み、歯を食いしばった。
「止めて!」
俺は振り返った。
番人の火弾は、もう飛んでいる。
盾を捨てて走れば、ノノへ届く前に、後ろの人へ当たる。
ガルドが、一歩前へ入った。
彼の剣が、番人の腕を斬る。
火弾の向きが、天井へずれた。
俺は盾を下ろし、ノノの腕を掴んだ。
リディアが、彼女の足を支える。
二人で床へ戻した。
ノノの顔が、白かった。
右足を置こうとして、すぐに浮かせる。
「歩けない。足首、捻った」
俺は頷いた。
自分で言ってくれたので、ここからの仕事を変えられる。
後ろの人へ、彼女を支える役を頼んだ。
道の指示は、肩の高さからしてもらう。
最後にガルドと俺が、扉を通った。
彼は後ろの番人を一体斬り、俺は追ってくる火を壁へ返した。
ノノの示した楔を、リディアが氷で固定する。
石戸が閉まり、音が遠くなった。
三十五層へ戻るまでに、救助の隊と合流した。
ノノは担架へ乗った。
ほかの怪我人も、専門の人へ引き継ぐ。
俺は経路と起きたことを話し、ガルドにも、台座を切った理由を話してもらった。
俺が代わりに、知らない事情を足すつもりはない。
地上の診療所で、ノノの足首は一週間ほど休ませる必要があると言われた。
骨に大きな傷はなかったが、無理に歩けば長引く。
俺たちは、次の探索を取り消した。
ガルドが、診療所の入口で待っていた。
「なぜ、戻ってきた」
彼は聞いた。
俺は、汚れた盾を膝へ置いた。
「向こうへリディアがいた。ほかの人もいた」
「俺も、いた」
「知ってる」
ガルドが、目を下げた。
「これで、前のことは」
「それは、別の話だ」
俺は答えた。
「助けた命を使って、清算したことにはしない。支払う金は支払ってくれ。今日壊した物のことも、自分で話してくれ」
彼はしばらく黙り、それから頷いた。
今日、俺の前で剣を振ったことは、事実として報告する。
台座を切ったことも、同じように残す。
リディアが、ノノの部屋から出てきた。
俺の袖の焦げを見て、顔を寄せる。
「ここ、熱くない?」
「もう、冷えた」
彼女は俺の腕へ手を置いた。
その手の方が、温かかった。
部屋の中で、ノノが呼んだ。
「ご飯の時間。診療所の飯、結構おいしいよ」
俺たちは、彼女の卓へ椅子を寄せた。
今日は三人の仕事が、途中で終わった。
三人とも、地上へ戻っていた。




