第13話 俺の攻撃ではないから、狙われない
三十四層へ下りた日、新しい盾の銀が、暗がりでも薄く光った。
通路の壁には、赤い目が並んでいる。
リディアが灯りの術を出すと、一つがこちらを向いた。
「その灯り、切って」
ノノが言った。
光が消える。
赤い目は、動きを止めた。
俺は、油の灯りを持ち上げた。
今度は反応しない。
どうやら明るさだけを見ているわけではなかった。
古い報告には、術を出すたび壁から針が来ると書かれていた。
リディアは、俺たちから離れた場所へ弱い火花を飛ばした。
目がその軌跡を追い、壁へ光の線を送る。
針が、二本落ちた。
ノノが一本を拾い、錆びた先を見た。
「魔力を追う。ここで大きい術を出すと、穴が全部開く」
俺は、盾を出した。
〈返盾〉の膜を薄く張る。
赤い目は、一度光ったが、俺へは向かなかった。
防御の魔力には、違う反応をするらしい。
攻撃の術を向けられた時に、自衛する装置なのだろう。
俺の零が、ここでは静かなままだった。
ただし、足の下の罠は別だった。
ノノが石を押さえ、通っていい場所を白い粉で示した。
俺が狙われなくても、三人で安全に通れる道は要る。
回廊の奥には、甲殻を持つ大きな蟲がいた。
光喰いだ。
近づく術を壁へ散らし、吐く時は自分の眼を閉じる。
攻撃すれば装置も目覚める、面倒な場所だった。
リディアが、俺の背へ手を置いた。
「練習した形、やっていいですか」
俺は頷いた。
通路の左右に、目のない小さな窪みがある。
その向きを、二人で確かめた。
ノノが、向こうの床へ矢を当てた。
蟲が顔を向ける。
俺はその反対側へ立ち、盾を斜めに置いた。
リディアが、俺の盾へ火球を撃った。
合図は、決めた二度の指打ち。
炎を、返す。
蟲の顎の下へ。
魔力はリディアのものだ。
赤い目は彼女のいた場所を向き、針を出した。
彼女は既に、氷の板の後ろへ入っている。
蟲が、火を食べようと口を開けた。
横から入った炎が、殻の隙間へ届く。
頭が床へ落ちた。
ノノの矢が、閉じかけた眼を射抜いた。
蟲は動きを止め、壁の目も暗くなった。
俺は盾を下ろした。
「味方の攻撃を、こっちから回すのは、初めて上手くいったな」
練習場では、角度がずれたこともある。
合図なしで撃たれれば、俺も受けられない。
今日の一発は、撃つ側と返す側が、同じ道を決めていた。
リディアが俺へ近づき、盾の焦げを見た。
「私が撃ったのに、別の場所から当たりました。面白いですね」
声が、少し弾んでいた。
初めて組んだ日に見た、静かな仕事の顔とは違う。
魔術を試すことが好きなのだと、よくわかった。
「もう一つ、試したい角度があるんですが」
「今日は一発だけ、という話だった」
俺が言うと、彼女は唇を結んだ。
それから、笑った。
「そうでした。帰ったら相談します」
ノノが、先の階段から二人を呼んだ。
「二人とも。反射の話してる時、顔が似てるよ」
俺たちは、同時に黙った。
赤い目がもう一度動かないか、確かめるふりをした。
ノノは耳を揺らし、地図へ新しい線を一本引いた。




