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第一標本「可愛げ」ーどんな黒も白に見えるー  作者: 本咲 サクラ


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10/11

No.10 前駆体

 母には、まだ、連絡していない。


 いつかするのか、しないのか、わからない。電話番号は、消していない。けれど、かけようとして、何度も指が止まる。


 わたしは、長いあいだ、こう思って自分を責めていた。母を理解したら、許さなければならない。許せないのは、わたしの心が狭いからだ、と。


 でも、カウンセリングを通して、わたしは、それが間違いだと知った。


 母を理解することと、母を許すことは、別だった。

 わたしは、母を理解しようとは思う。母にも、母なりの事情があったのだろう。母自身、その母――わたしの祖母から、十分に愛されなかったのかもしれない。可愛がられ方を知らない人間は、可愛がり方も知らない。

 毒は、たいてい、上から下へ、何世代もかけて流れてくる。


 けれど、理解しても、許せないものは、許せなくていい。許せない自分を、責めなくていい。それを、わたしは、ようやく自分に許せるようになった。


 わたしは、たぶん、一生、母を許さないかもしれない。あるいは、いつか、許せる日が来るかもしれない。どちらでもいい。それは、わたしが決めることで、誰かに強制されることでも、世間に求められることでもない。


 許さないまま、母とのあいだに距離を置いて生きることを、わたしは、わたし自身に許可した。

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