第22話 帰還と静かな声(前編)
夕暮れの浦波ビレッジ。
オレンジ色の空が海面に長く反射し、波間の湯の煙突から白い湯気が静かに昇っていた。
桟橋に漁船がゆっくりと横付けされると、村人たちのざわめきが広がった。
「燃料、取れたのか……?」
「待てよ、あの男……外国人だぞ?」
村人たちが燃料ドラム缶と、見知らぬ長髪の男を交互に見つめていた。
マイケル・ハリスは船から降りる際、3年ぶりの自然光に強く目を細め、片手で顔を覆った。
瘦せ細った体がわずかに震えていた。
泉透はマイケルの脇を支えながら、落ち着いた声で村人たちに告げた。
「燃料探索は成功しました。
そして、この方はマイケル・ハリス。
米海軍の上等兵曹です。
基地の地下で、3年間一人で生き延びていました」
ざわめきが一瞬大きくなる中、佐伯健一村長が前に出て手を挙げた。
「皆、落ち着け。まずは白峰先生のところへ連れて行く。
詳細は後で説明する」
マイケルは周囲の視線に体を強張らせながらも、泉透の静かな声に少しだけ肩の力を抜いた。
医療棟。
白峰凛はすでに準備を整え、簡易ベッドの上で待機していた。
室内の明かりが比較的柔らかく調整されているにもかかわらず、マイケルは入室した瞬間、強い光過敏の反応を見せた。
マイケル:
「(掠れた声で)It’s…… too bright.」
(眩しい……。)
泉透はすぐに彼の隣に立ち、肩に軽く手を置いた。
泉透:
「It’s okay, Michael. This is our doctor, Dr. Shiramine. She will check on you. I’ll stay right here.」
(大丈夫です、マイケル。こちらは私たちの医師、白峰先生です。診察を受けましょう。私はここにいます。)
白峰凛は冷静に、しかし優しい口調で言った。
「白峰凛です。動かないで。まずは簡単な診察をしますね。
……随分と瘦せています。
栄養状態がかなり悪いわ」
凛が聴診器を当て、瞳孔や皮膚の状態を確認する間、マイケルは何度も泉透の方へ視線を向けた。
泉透は一言も無駄に話さず、ただ静かにそこに立っていた。
その存在が、マイケルにとって唯一の
anchor(錨)のように見えた。
診察の途中で、マイケルが小さく呟いた。
マイケル:
「Your voice…… helped me stay sane down there.
When everything was silent…… I kept remembering calm voices like yours.」
(あなたの声は……地下で僕を正気でいさせてくれました。何もかもが静かになった時……あなたのような落ち着いた声を、ずっと思い出していました。)
泉透は静かに頷き、品のある声で答えた。
泉透:
「You did well to survive, Michael.
Rest now. You are safe here.」
(よく生き延びましたね、マイケル。
今は休んでください。ここは安全です。)
白峰凛がカルテにメモを取りながら、泉透をチラリと見た。
彼女の目には「珍しいわね、泉さんがこんなに近くに寄っているなんて」という驚きが浮かんでいた。




