第五話 小さなルール
こんにちは 作者です!
本作は共依存をテーマにしておりますのでご了承ください!
付き合って一ヶ月が経った頃、ルミナが言った。
「放課後、私より先に帰らないで」
「でも今日は早く帰らないといけないけど」
「なんで?」
「シエルに頼まれたことがあって」
ルミナが少し顔を曇らせた。「シエルって、家の人?」
「うん」
「……なんで家の人の言うことを聞かないといけないの」
私は答えに詰まった。頼まれた、というのは正確ではなかった。シエルが「早めに帰ってきてください」と言っていた理由は、特に深いものではなかったと思う。ただ、シエルがそう言うなら、と思っていた。
「大した用事じゃないかも」
「じゃあ一緒に帰ろう」ルミナが笑った。「ね」
私は頷いた。
帰り道、ルミナと並んで歩きながら、シエルに連絡を入れた。遅くなる、と。シエルからの返信は短かった。
『分かりました』
それだけだった。
ルミナと過ごす時間は、穏やかだった。
放課後に一緒に帰って、途中のベンチで話して、それから別れる。話す内容はいつも他愛のないことで、笑えることも多かった。ルミナはよく笑う人で、私が何か言うたびに声を上げて笑った。私の言葉でそんなに笑える理由がよく分からなかったけれど、笑ってもらえることは嫌ではなかった。
「アイルって、面白いよね」とルミナが言った。
「そう?」
「うん。本人は全然気づいてないところが特に」
意味が分からなかったが、ルミナが楽しそうだったのでそれでよかった。
シエルとの夜の時間も、相変わらず続いていた。
ルミナのことを話すと、シエルはいつも静かに聞いた。相槌を打って、時々短く質問して、でもあまり自分の意見は言わなかった。
「シエルはルミナのこと、どう思う」とある夜、聞いてみた。
シエルが少し間を置いた。
「……楽しそうにしているのは、分かります」
「それだけ?」
「アイルさんが楽しいなら、それでいいです」
またその言葉だった。アイルが楽しいならいい。シエルはよくそう言った。
「シエルは、自分の意見を言わないね」
「そうですか」
「うん。いつも私の話を聞くだけで」
シエルがまた少し黙った。窓の外を見て、それから私を見た。
「……言った方がいいですか」
「別に、強制じゃないけど」
「そうですね」シエルが視線を戻した。「アイルさんが幸せならそれでいいので」
目が、少しだけ逸れた。
私はその仕草の意味を考えかけて、やめた。シエルのことは、長い付き合いのわりによく分からないことが多かった。
ある放課後のことだった。
ルミナが用事で少し遅くなると言ったので、私は先に教室を出た。廊下を歩いていると、前からクラスメイトの女子が来た。以前、みんなで遊ばないかと誘ってくれた子だ。
「アイル、今日時間ある? 何人かで駅前行くんだけど」
一瞬、考えた。ルミナはまだ教室にいる。時間は、あった。
「……少しなら」
「じゃあ行こうよ」女子が笑った。「ルミナも誘う?」
「用事があるって言ってたから」
「そっか。じゃあアイルだけでも来てよ」
私は頷いた。
駅前で、四人でお茶をした。他愛のない話をして、笑って、一時間ほどで解散した。久しぶりに、シエル以外の誰かと時間を過ごした気がした。悪くなかった。
家に帰ると、スマートフォンにルミナからのメッセージが何件か入っていた。
『今どこ?』 『帰った?』 『なんで連絡ないの』 『アイル?』
時間を見ると、一時間ほど前から来ていた。私は返信した。
『ごめん、クラスの子と少し寄り道した』
しばらくして、既読がついた。返信はなかった。
翌朝、教室に入ると、ルミナが窓の外を見ていた。私が来ても振り向かなかった。
「おはよう」と言うと、少し間があってから「おはよう」と返ってきた。声が低かった。
「怒ってる?」
「……別に」
別に、は怒っている時の言葉だと、この頃には分かるようになっていた。
「ごめん、連絡すればよかった」
「うん」
「次からする」
ルミナがようやく振り向いた。目が少し赤かった。泣いていたのかもしれなかった。
「心配したんだよ」
「ごめん」
「アイルは私のこと、心配させていいと思ってるの?」
違う、と思った。でもうまく言葉が出てこなかった。心配させたかったわけではない。ただ、連絡を忘れただけだった。でも、ルミナが心配していたのは本当のことで。
「……思ってない。ごめん」
ルミナが少し息を吐いた。「もういい。でも次はちゃんと連絡して」
「うん」
「約束ね」
また、約束。
私は頷いた。
ホームルームが始まって、ルミナはいつも通りに戻った。笑って、喋って、昼には隣に座った。まるで朝のことがなかったみたいに。
私も、そうした。
ただ、帰り道に一つだけ気づいたことがあった。
クラスメイトの女子と過ごした一時間のことを、ルミナに話せなかった。話さない方がいい、と思っていた。なぜそう思ったのか、うまく説明できなかった。
ただ、そう思っていた。
見てくれた方ありがとうございます!
明日からも毎日投稿(20話までは1日2〜3本投稿するかも)しますのでぜひぜひ〜




