表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

第十五話 秋の終わり

書くことがなにもない作者です!ペンネームはふざけてますが内容はふざけてません!

十一月になった。

朝、目が覚めると、ルミナの部屋の天井があった。それが当たり前になって、どのくらい経つだろうと思った。でも、正確には思い出せなかった。いつの間にか、そうなっていた。

カーテンの隙間から光が入っていた。秋の朝の光は、夏より少し傾いていて、部屋の中に長く伸びた。その光の中に、ほこりが浮かんでいた。ゆっくり、漂っていた。

ルミナはまだ眠っていた。

隣で、穏やかな寝息を立てていた。起こさないように、僕は静かに天井を見ていた。

こういう朝が、続いていた。

ルミナが目を覚ましたのは、それから三十分ほど後だった。

目を開けて、最初に僕を見た。それから、ほっとしたように息を吐いた。毎朝そうだった。目が覚めて、僕がいることを確認して、息を吐く。

「おはよう」とルミナが言った。

「おはよう」

「今日も、いてくれた」

今日も、という言葉が、少し引っかかった。いなくなるとでも思っているのか、と思ったが、言わなかった。言っても、ルミナが不安になるだけだと分かっていたから。

「いるよ」と言った。

「うん」ルミナが目を細めた。「よかった」

よかった。その言葉は、付き合い始めた最初の日から、ずっと変わらなかった。

朝食は、ルミナの母が作ってくれた。

トーストと、スクランブルエッグと、温かいスープ。ルミナの母はいつも「アイルちゃんの分もあるから」と言った。最初は遠慮していたが、今はただ「ありがとうございます」と言って座るようになっていた。

三人でテーブルを囲んで食べた。

ルミナの母が話しかけてきた。学校のこと、好きな食べ物のこと、最近寒くなってきたこと。僕は短く答えた。ルミナが笑いながら補足した。

悪くない朝だった。

ただ、シエルが作る朝食を、ふと思った。トーストと目玉焼きとコーヒー。シンプルで、いつも同じで、でも毎回きちんとしていた。

思っただけで、何も言わなかった。

学校へは、いつも二人で行った。

家から学校まで、徒歩で十五分ほどだった。最初の頃は、ルミナの家から学校へ行くことが不思議な感じがしていた。でも今は、それが普通になっていた。

歩きながら、ルミナが話した。昨日見た夢のこと。今日の授業で嫌いなものがあること。体育の時間に転んで恥ずかしかったこと。

僕は聞きながら、隣を歩いた。

道の途中に、小さな公園があった。ベンチが一つと、枯れかけた花壇があるだけの、小さな公園だった。春に付き合い始めた頃、ここで少し話したことがあった。その頃はまだ、花が咲いていた。今は枯れていた。

「ねえ、この公園、覚えてる?」とルミナが言った。

「覚えてる」

「最初の頃、ここで話したよね」

「うん」

「なんか、懐かしい感じがする」ルミナが笑った。「あの頃は、アイルと毎日話せるとは思ってなかった」

「今は毎日話してるね」

「毎日一緒にいるしね」ルミナが僕の手を握った。「幸せだな」

幸せ。

僕はその言葉を、少し頭の中で転がした。

幸せかどうか、自分ではよく分からなかった。悪くはなかった。でも、幸せと言い切れるかどうか、考えると、よく分からなかった。

ルミナが幸せそうにしているのは、分かった。それで十分だ、と思っていた。

公園を通り過ぎて、学校へ向かった。

昼休み。

いつも通り、ルミナと二人で食べた。

窓から見える空が、青かった。十一月の青空は、夏とは違う青さをしていた。薄くて、遠くて、少し寂しい色だった。

シエルのことを、少し思った。

今頃、家にいるだろう。掃除しているか、本を読んでいるか。メッセージを待っているかもしれなかった。今朝は送っていなかった。昨日も、一昨日も、短いものしか送っていなかった。

「アイル、聞いてる?」

ルミナの声で、考えが途切れた。

「ごめん、聞いてた」

「どこ見てたの」

「空」

ルミナが窓の外を見た。「青いね」と言った。「アイル、最近よく空見てるよね」

「そう?」

「うん。なんか、考えごとしてる時みたいな顔で」ルミナが少し首を傾げた。「何考えてるの」

「……なんとなく」

「なんとなく、じゃ分からないじゃん」

「うまく言えない」

ルミナが少し黙った。それから、「シエルのこと?」と聞いた。

少し、止まった。

「なんで」

「なんとなく」ルミナが笑った。笑っていたが、目は笑っていなかった。「最近、遠くを見てる時、シエルのことを考えてることが多い気がして」

「そんなことないけど」

「本当に?」

「本当に」

嘘だった。

嘘だと気づいていたが、本当にと言った。ルミナが不安になるから。そういう回路が、いつの間にかできていた。

ルミナが「そっか」と言った。「なら、いいんだけど」

弁当の続きを食べた。

窓の外の空が、また目に入った。薄い青。遠い空。

シエルが待っているかもしれない、と思った。でも、すぐに考えないようにした。

放課後、学校の帰り道。

ルミナの家に向かって歩いていると、途中で自分の家の方向への分かれ道があった。

毎日通っていた道だった。以前は毎日ここを曲がっていた。今は、まっすぐ進む。

今日も、まっすぐ進んだ。

でも、一瞬だけ、足が止まりそうになった。

なぜかは、分からなかった。何かが引っかかったような気がして、でも何なのかは言葉にならなかった。

ルミナが「どうしたの?」と聞いた。

「なんでもない」と答えた。

また歩き始めた。

分かれ道が、後ろに遠ざかっていった。

夜、ルミナの部屋で並んで教科書を広げていた。

ルミナが問題集を解いていた。僕も自分の課題をやっていた。静かな時間だった。ルミナが時々「ねえ、これ分かる?」と問題を見せてきた。分かる時は教えて、分からない時は一緒に考えた。

そういう時間は、穏やかだった。

ルミナが机に突っ伏した。「疲れた」と言った。

「もうやめる?」

「もう少しだけ」ルミナが顔を上げた。「アイルがいてくれると、頑張れる」

「勉強と僕は関係なくない?」

「関係あるよ」ルミナが笑った。「アイルがいないと、一人で頑張れない気がする」

一人で頑張れない。

その言葉が、少し引っかかった。いつからそうなったのだろうと思った。付き合う前のルミナのことを、僕はほとんど知らなかった。付き合う前も、こういう人だったのか。それとも、変わったのか。

「ルミナは、一人でいられる?」と聞いた。

ルミナが少し首を傾げた。

「アイルがいなければ、ということ?」

「うん」

「……いられるけど」ルミナがゆっくり言った。「いたくない」

「いたくない?」

「うん。アイルといる方が、ずっといいから」ルミナが問題集に目を戻した。「アイルは、一人でいられる?」

今度は僕が少し止まった。

一人でいられるか。

以前は、一人でいることが当たり前だった。誰もそばにいなくて、それが普通だった。シエルがいたが、シエルはいつも少し離れたところにいた。

今は、一人でいることが、ほとんどなかった。

「……分からない」と答えた。

「分からないって」ルミナが笑った。「アイルらしい答え」

アイルらしい。

その言葉を、今日は少し違う気持ちで聞いた。ルミナが言う「アイルらしい」と、クラスメイトが言っていた「アイルって感じじゃなくなった」が、また頭の中でぶつかった。

どちらが本当のことを言っているのか、今日も分からなかった。

夜遅くなって、ルミナが眠りについた。

僕はしばらく、眠れなかった。

天井を見ていた。ルミナの部屋の天井。傷の位置と、染みの形を、ほとんど覚えてしまっていた。

スマートフォンを手に取った。

シエルへのメッセージの履歴を見た。最後に送ったのは、三日前だった。『今日も遅くなります』という一言だった。シエルからの返信は『分かりました』だけだった。

それ以降、何もなかった。

シエルから連絡が来なくなっていた。いつ頃からか、少しずつ減っていた。以前は『今週帰ってきますか』とか『気をつけてください』とか、短くても何か来ていた。今は、僕が送った時だけ既読がつく。

シエルが何を考えているのか、分からなかった。

諦めたのかもしれない、と思った。連絡しても返ってこないから、諦めた。

その考えが、胸の中で静かに痛んだ。

痛みの理由が分かっていたが、考えないようにした。考えると、どうすればいいかが分からなくなるから。

シエルにメッセージを打とうとして、やめた。

夜中に送る理由が、やはり見つからなかった。眠れないから、だけでは、理由にならない気がした。

スマートフォンを置いた。

天井を見た。

ルミナの寝息が、静かに聞こえていた。

窓の外は、静かだった。秋の夜は、虫の声も少なくなっていた。夏より静かで、少し、寂しかった。

シエルがいる家も、今頃静かだろうと思った。

静かな家で、シエルが一人でいる。

それを思うと、また胸が痛んだ。

でも、明日の朝になったら、また忘れるだろうと思った。

ルミナが起きて、「いてくれた」と言って、息を吐く。そうしたら、また今日みたいな一日が始まる。

そういう毎日が、続いていた。

窓の外で、風が動いた。

木の葉が落ちる音が、かすかに聞こえた。

秋が、終わりに向かっていた。

ルミナの声で、考えが途切れた。

「ごめん、聞いてた」

「どこ見てたの」

「空」

ルミナが窓の外を見た。「青いね」と言った。「アイル、最近よく空見てるよね」

「そう?」

「うん。なんか、考えごとしてる時みたいな顔で」ルミナが少し首を傾げた。「何考えてるの」

「……なんとなく」

「なんとなく、じゃ分からないじゃん」

「うまく言えない」

ルミナが少し黙った。それから、「シエルのこと?」と聞いた。

少し、止まった。

「なんで」

「なんとなく」ルミナが笑った。笑っていたが、目は笑っていなかった。「最近、遠くを見てる時、シエルのことを考えてることが多い気がして」

「そんなことないけど」

「本当に?」

「本当に」

嘘だった。

嘘だと気づいていたが、本当にと言った。ルミナが不安になるから。そういう回路が、いつの間にかできていた。

ルミナが「そっか」と言った。「なら、いいんだけど」

弁当の続きを食べた。

窓の外の空が、また目に入った。薄い青。遠い空。

シエルが待っているかもしれない、と思った。でも、すぐに考えないようにした。

百合っていいよね…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ