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黒剣の退屈  作者: 虎
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レオン・ヴァルモンド 【LEON VALMOND】

朝。


エリックは澄んだ水が流れる川のそばの森に立っていた。

手には、へこんだアーマーのヘルムを持ち、自分の髪の黄色い痕がそこに付着している。


「三日……か。みんなに申し訳ないが……もう、そろそろかな」


彼は手のひらで髪を上から下へと撫でた。

すると、ゆっくりと黄色い髪の一部が白く変わり、手のひらに付着した。


……そして彼はその手のひらを見つめた。


「やはり……色を変える必要があるな……」


エリックはその後、アーマーのヘルメットを川へ投げ捨てた。


人差し指がゆっくりと黒く変わっていく。

根元から先端まで、朝の光を受けて金属のように鈍く輝いている。


やがて彼は、その指を顎の下にあるへこんだ厚いアーマーに引っ掛けた。


そして指をゆっくりと下へ滑らせる。

アーマーは引き裂かれ、擦り切れる金属の耳障りな音が鋭く響いた。


最後に、彼は身につけていたすべてのアーマーを川へ投げ捨てた。


後ろから見ると、重厚な鎧をまとっていたエリックは、今では裸足の、どこにでもいるような青年に見えた。


白い無地の服に、ふくらはぎまでの黒いズボン。

手首には黒い紐のブレスレットが何重にも巻かれている。


エリックは川辺にひざまずき、手をついている。

襟元や袖口はほつれ、これまでに多くのものをくぐり抜けてきたことを物語っていた。


「はぁっ……!」

エリックは深く息を吸い込み、そして……そのまま川に頭を突っ込んだ。


染めていた髪の色が落ち、川の流れに溶けるように広がっていく。


やがてエリックは水から顔を上げ、ゆっくりと立ち上がった。


髪はすべて白に戻り、その色がはっきりと浮かび上がる。

その瞳には、感情のない虚ろな光が宿っていた。

水滴はなおも髪や頬を伝い、静かに流れ落ちていく。


彼はその川を見つめた。まるで、水の流れに乱された鏡に映る自分自身を見ているかのように。


やがて、過去の記憶が蘇る。広大なコロッセオ。

むき出しの大地、観客席は歓声で埋め尽くされていた。


「レオン!レオン!レオン!」


彼の前には、スキンヘッドの剣闘士が剣を構えていた。

エリック——今はレオンとして知られている彼は、先ほど川辺で見せたのと同じ黒髪の姿で立っている。

武器は何も持っていない。


「このコロッセオに立つ人間は、二つに一つ。俺の前で負けるか……それとも、俺の傍で負けるかだ!」

スキンヘッドの剣闘士はそう言い放った。


その瞬間、剣闘士はかすかな残像を残して一気に踏み込む。


片足を強く前へ踏み出した。


次の瞬間、すでにレオンの目の前にいた。足元の地面がわずかにひび割れ、砂埃が煙のようにゆっくりと舞い上がる。


剣が高く振り上げられ、まっすぐレオンへと向けられた。


「お前はどっちだ!」

剣闘士が叫ぶ。


剣がレオンの首筋に斜めに叩きつけられたが、剣は彼に全く傷をつけなかった。


だが男は渾身の力で斬りつけようとしても、レオンの皮膚を貫くことはできない。


「馬鹿な!お前はまさか、俺よりだと!」


「大したことじゃない。僕のマナオーラがあまりにも濃密すぎるから、君の剣では僕を切り裂けない。

ただそれだけだ。」


レオンの手のひらがゆっくりと持ち上がり——

ハゲの頭を叩きつけた。その一撃で、彼は吹き飛び……そのまま気絶した。


レオンは拳を握り、その手を高く掲げた。歓声は再び大きく沸き上がる。


「勝者はレオン・ヴァルモンド!」


『これで五十四勝。』



ハゲ頭の忍びが、コロッセウムでレオンの前に立っていた。

男らしく引き締まった顔立ちとは裏腹に、その目はどこか無垢に見える。


左手の二本指を胸元で立てる。

彼は背中の剣をゆっくりと抜いた。


「私は「FROST」家の貴族。シノビ。そして、Aランクハンターでもある。ここであなたを——」


その瞬間——


彼は地面に崩れ落ち、涎を垂らしながら気絶した。


レオンは拳を高く掲げる。


『これで八十五勝。』


コロッセオの中央で、筋骨隆々とした中年男が大剣を片手で持ち上げ、その切っ先をレオンの前へと向けていた。


「俺はアトランズ・イーストギルドのウドン、ランクCのハンターだ。正直、お兄ちゃんのこと、羨ましかったよ。でも今日は—— 」


——ウドンは仰向けに倒れ、目を閉じたまま空を見上げて微笑んでいた。


レオンは片手を拳に握り上げた……だが、前ほど高くは挙げない。


瞳の光が、わずかに翳り始める。


「99」


その後のある日…。


ロック風の装いをしたハンターがレオンの前に立っていた。背中には大剣がまだ収められている。


親指で自分の顔を指しながら、彼は言った。


「俺はポコ! いつか英雄となる男だ! うどんの仇を取るために……お前を——」


次の瞬間、レオンの姿がポコの横をすり抜けた。そこに残ったのは、元の場所にかすかに揺れる残像だけだった。


レオンは掌をわずかに前へ突き出すように開く。


次の瞬間……


空気が弾けるように広がった。

同時に、ポコの身体は見えない衝撃を受けて宙を回転し、そのまま地面へと崩れ落ち、意識を失った。


レオンは片手の拳をゆっくりと持ち上げた。だが、その動きは途中で止まる。

まるで、半分も届かないうちに力を失ったようだった。彼の表情には迷いが滲む。瞳の光も次第に消えていった。


(これで……何度目……)


次の日…。


観客の叫び声が混ざり合いながら響き始めた。


「カノン! レオン! カノン! レオン!」


「ついに! レオンに挑む八人目のSランク戦士が登場だ!!! レオンの不敗記録はここで破られるのか!?

それともまた彼の勝利となるのか!? さあ!グラディエーターを選びなさ〜い!!!」

魔石を通した実況の声が、コロッセオ全体に響き渡る。


黒装束に身を包み、黒いマスクをつけた金髪の忍がレオンの前に立っていた。背中には刀が背負われている。


鋭い動きで背中の刀を抜き放ち、横に振り払う。


「僕はカノン・アーク。アトランズ・イーストギルドのマスターだ。

どうやら僕の雑魚ハンターたちが貴様に迷惑をかけたようだな。

だが、僕にとって奴らは大切なオモチャだったんだ。」


カノンは真剣な眼差しでレオンを見据えた。


「ここで、貴様に敗北を味わわせてやる—— !」


——カノンはレオンの横を、まるで既に斬り伏せたかのように通り過ぎた。

同時にレオンも、前へ向かって拳を握りしめていた。


互いに背を向けた瞬間、空気が弾け飛ぶ。


そして……


カノンの剣は、粉々に砕け散った。


「この僕が……」


カノンはそのまま地面に崩れ落ちる。


歓声は、さらに熱を帯びていった。


レオンは勝利の後も手を上げなかった。視線は次第に虚ろになっていく。


数日後——


金色の長髪の男がいた。白いローブを身にまとい、背中には大剣を背負っている。


彼はコロッセオで、レオンの前に立ちながら本を読んでいた。


やがてその男は、片手で古びた本を閉じる。表紙にはこう書かれていた。「I AM THE JUSTICE」


「俺はラファエル。《 RAPHAEL 》

闘技場の獅子、レオンよ…… お前の噂はよく知っている。五百人を超える闘士を倒しながら、いまだ一敗も知らない。

その上、多くのSランクハンターまでも蹴散らしたそうだな。」


ラファエルは大剣を持ち上げ、剣先をレオンに向けた。《 GREATSWORD 》


「お前の拳は、悪のために振るわれるのか……それとも正義のために振るわれるのか。ここで…見せろ。」


「……」


「正義?」


レオンは彼を見つめた。


「僕の前に立つ者は、ただ僕を倒すために来る。それが本質だ。

それでも……まだ正義について語るのか?」


レオンは静かに言った。


ゆっくりと風が吹き抜け、レオンの髪が揺れた。


「この場所では、最後まで立ち続けた者が自分を正義だと思い……」


観客席では、すでにレオンに敗れた者たちが彼を見ていた。

カノン、ポコ、ウドンもその中にいる。


「倒れた者は、自分が悪にされたと思うだけだ……」


その中心で、ラファエルの剣に刻まれた“正義”の文字が、ゆっくりと下ろされ、もはやレオンへと向けられていなかった。


「君の正義も、彼らと大して変わらない」レオンは言った


ラファエルは反射的に片手で顔の横を押さえ、わずかにうつむいた。


「フフフフ〜……ハハハハハ〜…!」

肩が震えていた。


……やがて、彼はゆっくりとレオンのほうへ視線だけを上げた。


「もう言ったはずだ……」


そして彼は剣を地面に突き立てる。


ラファエルはレオンへと向かって駆け出し、そのまま姿を消し、かすかな残像だけを残した。


—— 次の瞬間、ラファエルはレオンの目の前に現れ、その顔面を殴りつけようと拳を振るった。


「ただ、お前の拳を見せろ。」


レオンにとって、時間はゆっくりと流れていた。

ラファエルの拳が空気を裂きながら、ゆっくりと彼の目の前――約1メートルの距離に迫っているのが見える。


『勝つたびに、僕の中に残るものは少なくなっていった。』


拳はさらに近づく。


『恐れを感じたい。』


もっと近づく。


『敗北を味わいたい。』


すぐそこまで来ている。


『僕はもう……飽きた。』


ドンッ!


ラファエルの拳がレオンの顔面を捉えた。だが彼の足は後退しない。ただ頭だけが揺れた。


ラファエルはもう片方の手で拳を握りしめる……そして——


重く、しかし徐々に速さを増す連撃がレオンの体に叩き込まれていく。


それでもレオンの両足はその場にしっかりと立ち続け、反撃はしない。


ただ、身体だけが衝撃に合わせて揺れ続けていた。


周囲の空気が、衝突の波で弾け飛ぶ。


ラファエルの拳が地面を踏みしめるたびに、大地がひび割れ、周囲へと空気が吹き飛ばされる。

舞い上がった土埃が、彼らの周囲に広がっていた。


時間がゆっくりと流れる。

レオンの目は、感情の欠片もないまま虚ろだった。

その連撃の最中、彼はゆっくりとラファエルに視線を向けた。


【 MANA VISION 】


ラファエルの頭上に青い炎が一直線に現れたが、次の瞬間にはすぐに消えた。


『忘れていた……このコロッセオの中では、マナオーラは見えないんだったな』


ラファエルは拳をさらに強く握りしめ、手の中に青いオーラを滲ませた。


「さっさと目覚めろ。その虚無の中から、お前の本当の正体を見せろ」


ラファエルの拳が、レオンの額へと鋭く突き刺さるように放たれた。


ドンッ!


レオンの頭が拳の衝撃で後ろにのけぞった瞬間。


レオンにとって時間はゆっくりと流れ始めた。


彼はゆっくりと観客席の右側を横目で見る。そして——


目が少しずつ見開かれ、瞳孔がわずかに縮む。


そこには、いつも自分の勝利を誇らしげに歓声で讃えていた観客たちの顔があった。


だが今は違う。まるで自分たちの“英雄”が敗れようとしているのを目の当たりにしたかのように、彼らは驚愕の表情を浮かべていた。


「敗北を前にしたとき、彼らはそんなふうに見るのか。」


レオンの胸の中で、心がゆっくりとピンク色の炎に焼かれていくようだった。


ドンッ!ドンッ!ドンッ!


ラファエルの拳が、絶え間なくレオンの身体に叩き込まれる。


コロッセオには、観客の叫びが不安と応援の入り混じったまま響き渡っていた。


「レオン!負けないで!」


「レオン!頑張って!」


「戦え!レオン!!」


中には、レオンの無力な姿を見て口元を押さえ、涙を流す女性観客もいた。


時間がゆっくりと流れていた。

レオンはラファエルの一撃を受け、よろめいた。


『みんなが僕を見ている……

恐れ……不安……この敗北の影が……

今はすべて、僕に向けられている……』


レオンの心の中で炎が燃え上がる。レオンの顔は、広がるオレンジ色の美しい夕空を向いている。


『これが……敗北という感情か……?』


ピンク色の炎がレオンの心の中で燃え上がり、全身へと広がっていった。


レオンの目がゆっくりと動き、ラファエルが怒涛のように攻撃してくる姿へと横目を向けた。


『ああ〜……この熱……熱い!』


レオンは連続する打撃によりふらついた。


『みんなが僕を見ているよ〜……見てる見てる…』


地面の上に、血飛沫が何度も飛び散り、広がっていく。


『もっと……もっとだ……敗北をもっと……』


レオンの目は、まぶたに半ば覆われながら、ゆっくりと上へと動いた。


『味わわせてくれ』


……ラファエルは黒い雷を孕んだ霧の息を吐き出した。


青いオーラに覆われた拳が、固く握りしめられる。


「その虚無から、さっさと目覚めろ!」


ドンッ!


拳が再びレオンへと突き刺さるように放たれる。


時間が、まるで遅くなったかのように感じられた。


『目覚める……? 君…何を——』


——崖の上、周囲を鬱蒼とした森に囲まれた場所で、ライオンが激しく咆哮する。その咆哮は森全体に響き渡った。

それがレオンの脳裏に一瞬よぎった光景だった。


ゆっくりとレオンの目が下へと横目で動いた。


『本当に目覚めたのか……』


彼は自分の両足の間を見た。


『獅子の王よ!』


レオンは反射的に防御の構えを取った。両腕を頭の前で交差させる。ラファエルの攻撃から身を守るためだった。


それを見たラファエルは、一瞬で拳を止めた。


『空気が変わった?』ラファエルの心の声。


レオンはラファエルから距離を取るように、二度後ろへ跳んだ。


レオンの顔はボロボロで、口の両端から血が流れていた。


攻撃は止んでいたが、レオンはまだ両腕を交差させ、防御の構えを崩していない。


息は荒く、目は大きく見開かれたまま、まだ下を見ている。


…その状況の中で、レオンはまだライオンの咆哮を聞いていた。


【 ガオォォ……ガオォォ……ガオォォ…… 】


目の血管が赤く浮き上がる。そして素早く、観客席へと視線を横に流した……


『みんなが見ている……見ている……』レオンはひどく取り乱している。


ラファエルは拳を強く握りしめた。


「あと少しだ……正義が立ち上がる!」


そして次の瞬間、レオンの目の前へ一歩踏み込み、拳を振り抜く構えを取る。空気が一気に弾けた。


「さっさと目覚めろ、レオン!」


◆◆◆◆◆◆


—— レオンは素早く前へ踏み出し、その一歩で一気にラファエルの前へ出た。

……そしてすぐさま、ラファエルの顎を狙ってアッパーカットを叩き込む。

その瞬間、赤い雷がレオンの拳の軌跡に沿って走り、鋭く空へと突き抜けた。


ゆっくりと、その赤い稲妻は薄れていき、やがて空中で消えていった。


ラファエルはその攻撃を受けた。鋭い視線で、彼は大きく笑った。


「やっと……目覚めたか!」


そのまま後ろへ吹き飛ばされたが、足はしっかりと地面に立ち、体はわずかに揺れただけだった。


足は地面を引きずりながら、十メートルほど後退した。


レオンはラファエルを真剣な目で見つめた。


『終わらせねばなるまい。これ以上、正気を失う前に。』


「……」


「僕の拳は……悪か、正義か。確かめたいのか?」


「ああ……見せろ!」


「そうか」


レオンは右の拳を握りしめた。

……その瞬間、赤い炎のオーラが拳を包み込む。レオンを中心に空気が弾け飛んだ。

コロッセオの舞台が突然揺れ、観客たちはパニックになって逃げ出した。


「死なないでよ……英雄」


「ふん……俺を誰だと思っている?

第32候補、ラファエルだ!

さあ、かかってこい……闘技場の獅子、レオンよ!」


レオンは一気に駆け抜けた。踏み込みと同時に地面が爆ぜる。


ラファエルは右手を横に差し出した。


【 SOUL WEAPON 】


一瞬、彼の手の中に、剣が影のようにぼんやりと現れた。

ラファエルはすぐに防御の構えを取る。

巨大な剣が正面に構えられ、その刃は大きく左右へと開いていた。中央には「正義」の二文字が刻まれている。


……レオンの拳が「正義」と刻まれた剣の刃に直撃した。空気が爆ぜた。


——周囲の地面がひび割れ崩壊し、衝撃の余波がすべてを薙ぎ払った。


ドン!


ラファエルは遠くへ吹き飛ばされ、足が地面を削りながら滑った。体は揺れながらも、なお立っている。巨大な剣が横で地面を引きずり、刃先から火花と土煙が散った。


ラファエルは剣を地面に突き立て、ブレーキのように踏ん張る。


ゆっくりと……動きが止まる。「正義」と刻まれたその剣から、煙が立ち上っていた。


「ぐは……」


レオンは血を吐き、そのまま地面に崩れ落ちた。


一方で、ラファエルは微笑んだ……そして、口元からゆっくりと血が流れ落ちた。

それでも、彼の体はまったく揺らぐことなく、まっすぐ立っていた。


彼は親指で、何事もなかったかのようにその血を拭う。


「お前の拳は悪ではない。正義でもない。ただ……不快なだけだ。」


その後、彼は剣を背中に収めた。


視線がゆっくりとコロシアム全体を見渡す。そこにはもう、観客は一人も残っていなかった。


「安心しろ。観客は、もう一人もいない」


ラファエルは背を向け、そのまま歩き出す。


「お前はまだ敗北を味わっていないんだ……レオンよ。」


吹き抜ける煙と砂埃が、彼の姿を徐々に曖昧にし、やがてほとんど見えなくしていった。


◆◆◆◆◆◆


今。


ゆっくりと、レオンの記憶が薄れていく。


レオンはまだ、鏡のように自分を映す川の水面を見つめていた。


「君のおかげで、獅子はもう目覚めたよ……英雄」


レオンは川沿いをゆっくりと歩いていた。両手はズボンのポケットに入れたまま。目は静かに落ち着いている。


「そろそろ、新しい髪染めを買わなきゃな。」


ロックホーンの足音が響く。


魔物は横から角を突き出し、レオンに突進した。


しかし衝突した瞬間、その岩の体は粉々に砕け散った。破片が四方に飛び散り、その一部は川へと落ちていく。


レオンはそれを気にも留めず、ただ歩き続けた。


「悪いな……僕は強すぎたみたいだ」


彼の足がマナクリスタルを踏みつけた。無数の石の中に紛れている。


森の中には、大きな木造の店が建っていた。

扉は開いており、入口の近くにはアイスクリームの絵が描かれた看板が吊るされ、その下に「HERCULES」と書かれている。


扉の上のベルが鳴り、レオンが中へ入った。


「いらっしゃい」


店の主人は、ヘラクレスという名の中年の美丈夫だった。


引き締まった筋肉質の体つきをしており、細身ながらも力強さを感じさせる。

髪はやや長めの茶髪で、整った顔立ちによく似合っていた。


彼は白いアイスクリーム店の制服を身にまとい、穏やかな笑みを浮かべている。

「久しぶり…ヘラクレス。」


「がっ……! レオン……!」


彼は驚いて、レオンがすぐに店の扉を閉めるのを見た。


「おいおい、ここは店の中だぞ。客が来たらどうするんだよ! お前、死んだって噂まで出てるんだぞ!」


「悪いな、アイスコーヒー一つお願いだ」


アイスコーヒーがテーブルに置かれた。テーブルは長く伸びている。


ヘラクレスは机の前に立ち、座っているレオンを見つめていた。


「へえ〜、そういうことか。お前の髪染め、もう切れたのか?」 ヘラクレス


「ああ……それでここに来たんだ」


「しょうがないな〜。俺が取ってくるよ。感謝しろよ」


ヘラクレスは背後の段ボール箱を手探りで探りながら、小さな缶を取り出した


「レオン。残ってるのは赤い髪の色だけだけど……どうする?」


レオンはエスコーヒーを飲んでいたが、次の瞬間むせた。

勢いよく口に含んでいたものを、そのまま吹き出す。


「ゴホッ……!」


机に拳を叩きつける。荒い息が漏れた。


一瞬、赤髪に変装してエリックとして仲間に挨拶する自分の姿が頭をよぎる。


「よぉ、みんな……俺が来たぞ」


「誰?この人」

リンーが言う。


「馴れ馴れしいですね……ゴミみたい」

キャシーが静かに言った。


「僕の友達に近づくな……ぶっ飛ばすぞ」

とロナンは言った。


ヘラクレスは無表情で彼をちらりと見た。


「なんちゃって」


「クソジジイめ」レオンは苛立った。


「ほらよ」

テーブルの上、レオンの近くに白い缶が三つ置かれていた。


「銀水は?」とレオンは尋ねた。


「必要か?お前」

______________________


レオンは一瞬、自分がエリックになった姿を想像した。


オークに囲まれ、怯えるキャシーの姿が見えた。


「誰か!!」キャシーの叫び。


「ぼくの観客が危ない!」

エリックはすぐに頭上の水風船を破裂させた。


黄色く染められていた髪の色が、一気に洗い流されていく。

______________________


「まあ……観客が危険なら、僕がレオンとして動くよ」レオンは言った。


「ほらよ!」


テーブルの上に小さな水風船が三つ置かれた。


「そういえば、一年間落ちない髪染めはあるのかな。」

レオンはため息まじりに言った。


「そんなものがあるなら、どの店も潰れちまうんだよ!

それに、髪の色化っていうのは、この王国の天才魔術師ロイ・エスカプリオが作ったものだ。知ってるだろ?」


「ふん〜……」

レオンは缶を顔の前に持ち上げ、刻まれた名前を見た。『Made by Roy Escaprio』


「誰、それ?」


ヘラクレスは長く息を吐いた。


「まあいいや……ところでさ、何か面白い話あるか?」


レオンはアイスコーヒーの残りが半分になったそれを見つめていた。


「あるんだ。新しい観客の候補を見つけたよ…僕」


◆◆◆◆◆◆


エリックに変装したレオンは、アイアンモンキーとの戦いを思い出していた。


ロナンが魔法を発動する。


【 HELL FIRE !】


巨大な炎がエリックの目の前で爆発した。


エリックの目がすぐに見開かれる。


「今だ!」


彼はアイアンモンキーを一体つかみ取り、木の幹へと投げつけた。


そして、彼は地面に突き刺さっていた剣を引き抜き、目の前の魔物を切り伏せんとばかりに高く掲げた。


兜アーマーの奥で、エリックはニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、その目を大きく見開いた。


振り下ろされた白刃は木に深く突き刺さり、剣は抜けなくなる。その予想外の光景にアイアンモンキーは恐怖に慄いた。


それでもエリックは、鋭い眼光を崩さぬまま、不敵な笑みを浮かべ続けている。


「本能に任せるといい。殺すか、殺されるかは……お前次第だ。今、動け!」


エリックはアイアンモンキーに何度も叩きつけられていた。


やがて彼の目がゆっくりと動き、驚いた様子のパーティーの方へと視線を向ける。


『みんなが僕を見ているよ〜……見ているよ〜……』


心の中で、ピンク色の炎が燃え上がる。


『観客の前で敗北……こんな素敵なショー、久しぶりの夢だよ〜』


「MINI HELL FIRE」──ロナンの魔法。


アイアンモンキーの足元に炎が現れた。


『この楽しみを……絶対に終わらせねえ!』


エリックはアイアンモンキーを殴り、その位置を入れ替えた。


バンッ


エリックは炎の爆発を受けた。それでも彼は立っていた。息を切らしながら、アイアンモンキーがまだ無事な様子を見つめる。


『よかった……無事でいてくれて』


そして、アイアンモンキーが再び攻撃してくる。


『ああ〜……みんなの目がまだ僕を離さない〜』


彼の心の中で炎が燃え上がり、全身を駆け巡った……


そしてついに、一瞬だけエリックは、崖の上で何度も激しく咆哮するライオンの姿を思い描いた。


チン!…チン!…チン!


そのライオンが吠えるたび、両足の間から鎧が擦れ合う金属音が響いた。


『なぜこの時だ!…獅子の王よ!』


エリックはアイアンモンキーの拳を無視し、そのままパーティの方へ視線を向けた。血走った目で。


『みんな、まだ僕を見ている……見ている……!

やめろ!……それ以上、僕を見るな……こんな見せるべき姿を……』


「危ない!」俺は叫んだ。


俺はアイアンモンキーの両腕を背後からロックする。


「エリック!今だ!」


その声を聞き、エリックは一瞬だけ、さっき咆哮していたライオンが崖の上を歩き去る姿を思い浮かべた。


「は?」


『君……僕の獅子王を止めたのか……!?

まさか、虎の魂を持つ者なのか……!?』


エリックが木の幹に刺さった剣を取ろうとした、その瞬間——


「そうじゃない!!」鉄猿をロックしながら叫んだ。


——瞬、エリックの手が迷ったように止まる。


「目には目を!お前の拳で、この魔物をぶっ倒せ!……お前、ハンターだろ!」

俺は叫んだ。


エリックは拳を握りしめ、肩を震わせながら感情を抑え込んでいた。


『いい言葉だ。つまり、僕に喜びを与えた魔物を痛ぶり、最後に殺せということか。

やっぱり、君の中には虎の魂が眠っているな。

獲物を殺す前に遊ぶ……

弱いくせに、僕の前で強いと思ったんじゃねえよ!』


バンッ!


エリックの拳がその魔物に叩き込まれた。


一撃を放つたび、彼は心の中で繰り返していた。


「ごめん! ごめん! ごめん!」


アイアンモンキーが地面に倒れて動かなくなった後、俺はエリックの前に手のひらを差し出した。


「お前の気持ち、わかるよ。」


パンッ


彼も手を合わせた。ハイタッチした。


「お前にはわかんねえ〜よ。」


◆◆◆◆◆◆


レオンは店の扉を開け、外へ出ようとしていた。


「じゃ、僕、行ってくるよ」


「待て、レオン」


レオンはヘラクレスの方へ振り返った。


「カノンはお前のギルドのマスターだろ? 俺と戦ったときさ、お前に何回も負けたって話してたぜ。

ならさ、もう一回あいつと勝負してみたらどうだ?」


レオンはただ笑った。


「そうか……彼は僕の過去を知っているわけか。ありがとう。面白い話を聞いたよ」


そして扉を閉めて去っていった。


「カノンと戦ったことまで忘れてしまったのか? あいつ……」

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