立つ者
ロナンは数歩前に出て、キャシーと並ぶ位置に立った。
彼の魔導書は胸の前に浮かび、ページがかすかに震えている。
右手には短い魔法杖を握り、前方へと構えを取っていた。
彼の周囲の空気がわずかに振動し、魔導書と杖の間には淡いマナの光が流れている
。詠唱準備が整っていることを示していた。
キャシーは魔法の杖を構え、真剣な表情で前を見据えていた。
リンは腰の後ろから二本の大きな短剣を抜き、戦闘態勢に入る。
両手の短剣は刃を下に向けて構えられていた。
「NOITRAMA…… 後ろをリンと一緒に守ってくれ」 とエリックが、振り返らずに後ろの俺に目を向けて言った。
「…わかった」
魔物たちは地面へと飛び降り、乾いた葉を四方へと散らした。そしてそのまま、全力でこちらへと突進してくる。
「ハァァァァ!!」
エリックの低く重い戦闘の叫びが響き、彼は重い足取りで前へ走り出した。
盾を前衛の守りとして使いながら。
その動きは、敵を他の者たちから引き離そうとしているようだった。
ガキン! ガキン!
二匹の魔物が鉄の拳をエリックの盾に叩きつけた。
でも、盾にはほとんどダメージがなかった。
逆に、彼らは盾に押されて挟まれてしまった。
エリックはそのまま押し続け、魔物を木に叩きつけた。
ドスッ!
上から葉っぱがどさっと降ってきた。
二匹とも、強い衝撃を受けて、ぼんやりしていた。その隙に、エリックはすぐに盾を下げ、剣を高く振りかざし、そのまま振り下ろした。
ザシュッ!
二匹の血が吹き出し、エリックの腕に飛び散った。
反対側… 襲いかかる魔物の中から、一匹の鉄猿が素早く飛び出してロナンに飛びかかった。
でも、近づくよりも先に、リンの右の短剣が先に動き、その首を切り裂いた。
ザシュッ!
傷口から血が噴き出した。魔物の体はバランスを崩し、リンの近くの空中から落ち始めた。
地面に触れるより先に、リンは攻撃を続けた。
左手の短剣を素早く回転させ、しっかりと握りしめると、彼女は前に突進し、それを魔物の胸深くに突き立てた。
一瞬で、鉄猿の体が地面から浮き上がり、リンの左手に吊り下げられた。あっという間の出来事だった。
彼女たちが戦っている間、一匹の魔物が後ろから走ってきた。
俺は後衛で魔法使いを守っていた。
振り返らずに左をチラッと見た。そしたら魔物が両拳を上げて飛びかかり、鉄の拳を俺に向かって振り下ろそうとしてた。
(俺のマナオーラはロナンと同じくらいに抑えている。今できるのは……)
俺の体がバランスを崩したみたいにちょっと揺れて、ゆっくり後ろに倒れた。
隙間。わざと作った隙間だ。
魔物が近づいてくる。
その拳が俺の間合いに入ろうとした瞬間……俺の体は素早く回転した。
俺の左手は水の流れのように滑らかに動き、鉄の拳の軌道を一瞬で逸らした。
その一撃は突然コースを外れ、空を切る。
空中で体勢が崩れた。
俺は一歩踏み込む。それだけで距離は一気に詰まった。
魔物の足が地面に触れるよりも早く――
俺の左手が前へと素早く伸びた、その喉元を荒々しく掴み上げた。
ガシッ!
俺が押し下げた。
膝を無理やり地面に叩きつけられ、俺の掴みのせいで顔は空を向いていた。
鉄猿の両手が必死に俺の腕に爪を立てて、逃れようとしてる。
( 遅い。)
握りを強めて、ぐいっと上に引き上げた。
ザシュッ!
喉が裂けて、血が吹き出した。
体がぐったりとして……そのまま倒れた。
指先は血で赤く染まっていた。
俺はパーティに背を向けたまま、動かずに立っていた。
表情が、わずかに引き締まる。
体は背を向けたまま、俺はキャシーへと視線を向けた。
視界の端で、左後方から彼女へ飛びかかる魔物を捉えた。
《適当流》
「危ない!!」 叫んで飛び込み、横からキャシーを襲おうとしていた鉄猿にぶつかった。そのはずみで二人とも転がった。
「あっ!」うっかり俺の体が彼女の肩に当たって、彼女はうつ伏せに倒れた。
魔物の両腕を押さえ込んで、地面に伏せてた。鉄猿は俺の上で暴れながら逃げようとしてた。
ロナンのすぐ後ろで、リンが見えた。リンはまるで練習台みたいに、軽々と魔物を斬ってた。
突然、一つのアイデアが頭に浮かんだ。
( この魔物をリンに向かって投げて、斬ってもらおう。……決めた!)
俺の手のひらは魔物の腕をしっかりと掴み、固定した。
両足を曲げてその背中に押し当て、鋭い爆発的な蹴り一つで、その体を空中へと打ち上げた。
シュッ――!
(くそっ!投げすぎた。)
「リン!」 俺は必死に叫んだ。'
彼女が振り返った。
「はっ?!」 驚いた顔をした。
日差しが魔物の影をリンの体の上にゆっくりと落とし、近づくにつれて大きく膨らんでいった。
ドスッ!
鉄猿がリンの上に落ちてきて、その拍子に両足が彼女の体に絡まり、地面に倒れ込んだ。
一瞬で、リンの手から短剣が二本とも飛んで、左右に落ちた。
ボゴボゴボゴ!
鉄猿は容赦ない鉄拳の連打をリンに浴びせた。リンはまだ仰向けに倒れたままだった。
リンは素早く両腕を交差させ、拳をぎゅっと握りしめ、次々とくる攻撃を防いで身を守った。
俺はまだ地面に伏せたままだった。
(なぜこうなる!)
俺は驚いて見てた。リンがボコボコに殴られてる。全然想像してたのと違う。
ロナンはパニックになって、杖をリンに向けた。
【 FI-FIRE……BA―】
「やめてください、ロン。あなたもリンを傷つけます」キャシーが、まだうつ伏せに倒れたまま言った。
キャシーは素早く魔法の杖を、まだ鉄猿に殴られているリンへ向ける。リンの周囲に一瞬、青い魔法の光がまとった。
【 DEFEND UP ! 】
俺は半身になって、普通の速さでリンに向かって走った。
(まだ間に合う!助ける!……自分が鍛えた中で一番弱い技で!)
《適当流》
「危ない!」叫んで、体を横にしてリンに飛びかかった。
カキン!
盾に剣が当たる音。
【 DECOY 】 エリックの盾が光った。
リンの上にいた鉄猿は、俺がぶつかる前に飛び退いて、エリックに向かって突進した。
同時に、襲ってきていた魔物が全部エリックの方へ殺到した。
「うぐっ…」リンと俺が一緒にうめいた。俺の腹がリンの腹の上に斜めに倒れ込んだ。
リンの息は荒かった。黒い服の下で、お腹の白い肌が丸見えだった。
俺の下で、彼女の温かい呼吸の上下を感じた。
彼女の顔を見た。青白くて汗で光ってる。まだ防御の姿勢のままだった。
右手で目を覆い、左手は地面に伸ばしてた。
彼女の黒い髪は地面に広がっていた。
(まさか今日だけで、適当流を三回も使うことになるとは)
「ごめん……」と俺は彼女を見た。
「だ、大丈夫……むしろありが……いや、ごめんなさい」彼女は息を整えながら言った。
「なぜだ?」
「あたし、まだ弱いから」
(何か重要なことを見落としていたようだ……)
鉄猿の鉄拳がエリックの盾を次々と叩きつけ、そのたびに火花が散る。
エリックは一歩ずつ後退しながらも体勢を崩さず、攻撃を巧みに横へ受け流し、その反動すら利用していた。
「キャシー!今だ!」エリックが叫んだ。
キャシーは背筋を伸ばし、魔法の杖を掲げる。
【 ICE BIND!】
ピキ…ピキ――
地面から氷が一気に広がり、魔物の足を一体ずつ凍らせていく。
やがてその動きは、霜の層の中に完全に封じ込められた。
エリックは即座に後方へ飛び退き、魔物の群れとの距離を取った。
ロナンの魔導書がパラパラとページをめくり始めた。杖を魔物たちに向けて。
【 HELL FIRE! 】
凍りついていた地面が一気に溶け、燃えるような橙色へと変わった。
ドオオオン!
地面が下から爆ぜ上がり、巨大な火柱が立ち上る。その炎は周囲を焼き尽くし続けていた。
「うぐっ……」ロナンは膝をつき、全身汗だくで荒い呼吸を繰り返す。
「ぼ、僕のマナ…もうほとんどない。」
「私…もです。」
隣にいたキャシーも同じように消耗しきっていた。
両手で魔法の杖を握り、まるで杖に体を預けて倒れないようにしている。
俺はまだ燃え盛る大火を見つめながら、無表情のままでいた。
リンがちらりと俺を見た。
「ところで……いつまで私の上に乗っているつもり?」 鋭い視線でそう言う。
「ご、ごめん……」
俺はリンの体に押し付けていた自分の体を素早く離し、そのまま座って炎を見つめた。
リンも隣で同じように腰を下ろし、同じ光景を見ている。
炎は激しく燃え上がったあと、まるで燃料が尽きたかのようにゆっくりと勢いを失っていく。
そのとき、消えかけた炎の向こうにエリックの姿が現れた。
ガキン!
大人の男性ほどの大きさの鉄猿が、その鉄の拳をエリックの兜の顔面に直接叩き込んだ。
時間がゆっくりと流れるように感じられた。
枯れ葉が朝の風に舞い落ち、彼らの間を回りながら漂った。
エリックはよろめいた。彼の手から盾が滑り落ちた。
剣は鉄猿の後ろの木の幹に刺さったままだった。
ガキン! ガキン! ガキン!
鉄の拳が容赦なくエリックの体に叩き込まれた。
一撃ごとに火花が散り、鋭い音が響き、彼の体は大きく揺れた。
エリックは一歩も下がらず、打たれ続けた。
攻撃は全部腹と頭を狙っていて、鎧はボコボコに凹んだ。
金属がギシギシと悲鳴をあげながら曲がった。
彼の体は連打でふらふらだった。
盾も剣もない。
完全に無力だった。反撃も防御も全然できなかった。




