鏡に映る笑み
キャシーの手から柔らかい青い光が出て、俺の胸の上で浮かんでいた。
その温かい光は、冷たい水が体の中を優しく流れるみたいで、すごく気持ちよかった。
その感覚は、ヴェドラの森で川に寝転んでいたのを思い出させた。マナエッセンスはまだちょっと弱いけど。
黒竜の攻撃の疲れと痛みが、だんだん消えていった。
近くで焚き火がパチパチ鳴っていて、鍋が火の上に掛けてあった。
タッ……タッ……タッ……
誰かが近づく足音が聞こえた。
「死んだのか?」 と太った男が近づきながら、まだ気絶したふりを続ける僕を見下ろして尋ねた。
「ロン、もう起きたのか?」
鎧の男が火に小枝をくべると、炎がより明るく燃え上がった。
「ううん、まだ生きてる。彼のマナオーラがゆっくり戻ってきてる。もうすぐ目を覚ます」 とCASSEY が答えた。
彼女の手はまだ俺の胸の上に浮かんでおり、その表情は心配でいっぱいだった。
(いつ起きようか…?)
( 心の準備がまだできてない。)
「ずっと死んだふりしてるつもりだったんじゃない、ロン」リンがそう言って、俺の隣に座った。
彼女は片足をだらりと伸ばし、小さな木の幹にもたれて、腕を組みながら太った男を見た。
「ごめん、ちょっと寝てた」 とロンが気まずそうに頭をかきながら言った。
CASSEYはようやく回復魔法を止め、疲れたため息をついた。
「応急処置は済ませました。もうすぐ目を開けるはずです。深刻な怪我はありません。」
鎧の男が木のスプーンで鍋をかき混ぜていると、CASSEYの言葉を聞いて手を止め、驚いた顔で彼女を見た。
「鎧なしで《ROCK HORN》の直撃を受けて、重傷がない?」
CASSEYは真剣に一度うなずいた。
リンは同じ真剣な顔で彼女を見た。
「どこかの有名なハンターかもしれない」 とロンが軽く言った。彼は焚き火の前に木の器を持って座っていた。
鍋の湯気が俺の顔に当たり、俺はまだ気絶したふりを続けてた。
(この匂い…初めてだ。)
反射的に目を見開いた。
(間違いない!これが外の世界の本物の食べ物だ!)
「起きた」 とリンがちらっと俺を見て言った。
「うぅ…」
まだ仰向けに寝転がったまま、ゆっくりと体を起こして座り、苦しそうな顔をした。
無垢で何もしらない顔で、みんなを見回した。鎧の男はもう兜を脱いでいた。
木の器に食べ物を入れて、スプーンを付けた。
「気分はどうだ? よかったら食べろ。」
両手でそれを受け取った。見たことない食材が入った、温かい黄色いスープをじっと見た。
食べたくてたまらないって顔がはっきり出てた。
ピンク色の髪の美しい女性が近づき、優雅に俺の横に膝をついた。
「私、CASSEY 《 キャシー 》。ロックホーンの攻撃から助けてくれてありがとう。本当に恩があります。」
彼女は優しく自己紹介した。
俺はぼんやりと彼女をじっと見つめてた。彼女が恥ずかしそうに目をそらすまで、長い間。
「あたしリン。よろしく」 とリンが焚き火の近くで立って、自分の器に食べ物を入れながら、ちらっと俺を見た。
「僕ロナン。それいらないなら…代わりに僕が食べる」と太った男が、もう口いっぱいに食べながら、期待した目で俺を見た。
その後、鎧を着た金髪の男が、器を持ったまま俺を見た。
「俺はERICK 《 エリック 》。パーティーリーダーの『THE LOST WING』だ。お前の名前は?」
俺は黙ったままだった。
間近で見ると、一つだけはっきりわかったことがある。
(彼らは弱すぎる。でも…)
自己紹介が終わるのを見てから、手の中のいい香りのする器を見下ろした。
(この退屈は…)
スープの表面が鏡みたいに、自分の口元の笑みを映していた。
(もう消えていた。)
◆◆◆
空の器がきれいに積まれ、みんな食べ終わった後、俺たちは焚き火の周りに座っていた。
「NOITRAMA、お前を『ATLANZ』の首都のギルドで見たことない。ハンターとしてどの地域の出身だ?」 とエリックが聞いた。
ロナンは焚き火のそばで早々に眠り込んでいたが、それ以外の全員が俺のほうを向き、答えを待っていた。
本で読んだ知識によれば、ギルドとは依頼を受ける場所であり、ハンターは自分のランクや実力に応じた報酬付きの任務を与えられるらしい。
(どう言えばいい……?)
(黒竜に襲われて、ヴェドラの森から来たなんて……本当に言うのか?)
俺は彼らを見渡しながら、一人ひとりの顔を冷静に見極めた。
彼らは純粋な好奇心で俺を見返してきた。
(連中の実力から見て……信じるはずがない。最悪の場合、面倒な疑いをかけられるかもしれない。)
後ろで寝てるロナンをチラッと見た。
(今も、自分のマナオーラを彼にピッタリ合わせてある。よし…プランB。)
俺はあぐらをかき、左手のひらを右手の上に置き、月を見上げた。
「どのギルドの地域に所属していたのか、もう覚えていない。魔物を狩りながら長い間さまよっていて……気づけば、こうなっていた。」
月を見ながら、涙がにじんできた。
( そうだ、俺は今、自分の運命を嘆いている。)
俺の答えを聞いたエリックは、右手で目元を覆い、表情を隠すようにして鼻をすする。
キャシーは両手で口元を押さえ、心配そうな目で俺を見つめていた。
「それは大変ですね」キャシーは静かに言った。
リンは信じられないというように片手で口元を覆い、呆然と俺を見つめていた。
『こいつ……嘘ついてる。』 リンは信じられないという表情を浮かべていた。
俺は月から視線を外し、まだ呆然としているリンへと向けた。
「そういえば、リン……さっきのロックホーンとの戦いで、エリックが叫んでいたのを聞いた。“俺たちを見捨てるな!!”……あの時、何があったんだ?」
俺の質問を聞いて、リンは慌てて冷や汗が出た。
「そ、それは…あ、あたしが…」 と緊張しながらどもった。
彼女がそこまで慌てているのを見て、エリックは目をこすりながら、すぐにそれを遮った。
「代わりに俺が話す…あの時は…」
リンの耳に、話の声が遠くなっていった。
彼女は俺から視線をそらし、焚き火を見つめた。顔は青ざめ、冷や汗に濡れている。
俺の声も、エリックの声も、そしてキャシーの笑い声も、談笑する音すべてが遠く、くぐもって聞こえていた。
『なぜ気づかなかった……あたし、半径30メートルの『マナ感知』スキル持ってるのに。
彼はエリックの叫びを聞いていたのに、あたしは彼の存在をぜんぜん感知できなかった。
熟練した暗殺者でさえ、あたしが感知できるかすかな痕跡を残す。
彼がキャシーを救ったから、あたしはこのことをすっかり忘れてしまったのだろうか?
しかし、一つだけ確かなことがある……』
その視線は、エリックやキャシーと笑い合う俺へと密かに向けられている。
彼女の耳には、その笑い声はまるで音のないもののように感じられていた。
『この男……強い。』




