死にかけの蟻
俺は両手で地面を強く掴み、ブラックドラゴンのスキル動作を真似て、バネのような加速を引き出す。
赤い雷が全身を走った。
【 JET...】
赤い電光と共に、オーラが爆ぜる。
【DRAGON... 】
周囲の地面がわずかに揺れ始めた。鳥たちが一斉に逃げ出す。
【SPEED 】
次の瞬間、俺は弾けるように前へ飛んだ。
バンッ!
地面が爆ぜ、上へと跳ね上がった。
一歩の踏み込みで、俺は紅い稲妻のような超高速で前方へと駆け抜ける。
行く手を塞ぐ木々は、気にも留めずに倒れていった。
そして俺は目を閉じる。6キロ先から届く彼らの声に耳を澄ませながら。
「ERICK…そろそろ限界かも……」
「しっかりしろ、リン! 俺たちを見捨てるな!!」 と必死な声が響いた。
それを聞いて、俺は思わず叫び返した。
「死ぬな、リン! 今すぐ助けに行く!! お前は、俺が外の世界へ行くための夢の一つなんだ!… リン…!!!」
(くそ…もっと速くならなきゃ。ああっ!!!もうこんなダッシュ、どうでもいい!)
【 MANUAL SPRINT!】
額の血管が浮かび上がり、顔にまでその鼓動が現れた。
俺は全力で前へ駆けた。わずかに身をかがめ、空気を裂きながら何度も前方を突破する。
木々を次々と粉砕し、そのまま吹き飛ばしていった。
ドカーン!
戦いの中から爆発音が聞こえてきた。
「今の爆発は何だ?」
俺は驚いて不安になり、彼らの戦いの爆発音を聞いて冷や汗が出た。
「ERICK、どうやら僕たちは勝ったみたいだ…へへっ。帰ろう。」
それを聞いて、俺は走りながら思わず叫んだ。
「まだ勝つな!俺を待てろ!」 俺は焦り始めた。
「ありえない…あ、あの化け物、また立ち上がった!」
それを聞いて、俺はホッとして思わず目を開けた。
「よかった。」
今や俺と彼らの声の間の距離は、わずか500メートルほどだった。
「俺はただのアリ… ただただのアリ…」
【 SILENT 】
シュッ――
俺はマナオーラを放った。まるでランナーが、赤い雷のパチパチと鳴る黒い霧の領域を後ろに残していくように。
俺は、体全体を包む暗い赤色のオーラの輪が縮んで小さくなるイメージをした。
そうすれば、誰が俺のオーラを見ても、蟻みたいに小さくしか見えない。
つまり、戦闘力1ってわけだ。
俺は音を抑えて走り、茂みの後ろに静かに忍び寄った。
そして、隠れている崖の端から下を覗き込んだ。
崖の高さはわずか10メートルで、状況を観察することができた。
(四人いる。匂いからすると、みんな無事みたいだ。相手は…石の水牛か?)
四人は疲れてるけど、誰も怪我はなかった。
石の水牛は片方の角が折れて、体中が剣の傷だらけで、ひび割れたり砕けたりしていた。
魔物が一瞬、麻痺攻撃を受けたみたいに頭を振った。
高さは約2メートル、長さは約3メートル。
周りには、火の爆発の跡、凍った地面、そして激しい戦いの跡が残ってた。
「………」
俺は目の前の光景に驚いた。
水色の服と魔法使いの帽子をかぶった人、それとちょっと露出の多い服を着た黒い髪の人が、木の後ろに隠れていた。
その姿はすごく目立っていた。初めて見た。
「あれが女ってやつか?」
(その特徴は、本に書いてあった通りだった。女を見るのは初めてだった。)
全身鎧の勇敢な男も見えた。盾と剣を持って、前線で戦う準備をしている。
顔まで鎧で覆われていた。
「かっこいい…俺もあれを着てみたい…」
視線を移すと、鎧の男の後ろに、短い杖を持って胸の横に本を浮かべている人が立っていた。
体は太っていて、服が入りきらずにお腹が出ていた。
髪は短い巻き毛だった。
(こういう太った人間もいるのか。『外の世界』という本にも、彼の特徴は書かれていなかった。いい勉強になる。)
「次は…」
俺の顔が少し真剣になり、目つきが少し冷たくなった。
日が暮れ始めて、森の中は暗くなった。
「もう一回、陣形をやり直すぞ!」 と鎧の男が叫んだ。
カランッ!
盾を上げて、石の水牛に向かいながら剣で盾を叩いた。
【 DECOY 】
盾が透明な白い光を放った。
「モ、モォォォ!!!」
石の水牛が轟音と共に咆哮し、鎧の男に向かって一直線に突進してきた。
角でものすごい勢いで襲いかかった。。鎧の男は盾を掲げ、その攻撃を真正面から受け止めた。
衝突の瞬間、激しく火花が散り、彼は巨大な獣を力づくで押し止め、そのまま盾で頭を地面に叩きつけた。
バキッ!!
盾にぶつかったバッファローの顔がひび割れる音がした。鎧の男の戦闘力は3400。
突然、その後ろの帽子の女が杖を緑に光らせた。
【 DEFEND UP 】 と水色の帽子の女が言った。
その女の戦闘力は2300。緑の光が鎧の男を包んで、俺はびっくりした。
(おっ!…あの人の戦闘力が4100に上がった。すげえ!)
ドスッ!
鎧の男は容赦なく石の水牛の頭を地面に押し付け、両方の前足が崩れ落ちるまで押し続けた。
後ろ足はまだ半分立ち上がったままだが。
(石の水牛... 6700。ヴェドラの森で一番弱い捕食者の『 KILLER BUNNY』と比べても、このバッファローはまだまだ弱かった。)
「今だ!! リン!」 と鎧の男が叫んだ。
木の陰に隠れていた女が素早く前方へ飛び出した。
彼女は軽業師のように跳び、ストーンバッファローの背中を勢いよく踏みつけ、上から強く圧力をかけた。
ドスッ!
バッファローの後ろ足が地面に崩れ落ち、完全に動けなくなった。
【 STRENGTH UP 】 後列の女の声が聞こえた。
4500…
(リン?…この女…もう死んだと思ってた。無駄に焦らせやがって。)
リンの体が一瞬、赤く光った。両手で同時に短剣をくるくる回して、ぎゅっと握った。
まだ魔物の背中にしゃがんだまま。
「BRUTAL STABS」《 ブルータル・スタブ!》
カキン! カキン! カキン!
短剣が次々と突き刺さる音が響き、火花が散った。
短剣は、石の水牛の背中のひび割れたところを何度も何度も突き続けた。
それを見て、俺はごくりと息を飲んだ。
( こ、この女…怖い。)
彼女の残忍な動きを見て、俺は焦りさえした。
バキッ!… バキッ!!… バキッ!
石の水牛の背中が割れる音。
「くそっ…硬すぎる!」 リンは悔しがっていた。
「ロン、まだなのか?!」
鎧の男は、バッファローの頭を必死に押さえながら、太った男に叫んだ。
「あと少し待って! まだマナを集めてるから!」
太った男が返事をした。彼の頭上には、3700という数字が見えた。
俺は膝を立てて座り、肘を膝の上に乗せ、手のひらで頭を支えていた。
まるで景色を楽しんでいるかのような眼差しだった。
(どうやら俺が助けなくても勝てそうだ…)
「………」
(そう思ったところだが…)
キィン!!
盾から火花が散った。
石の水牛は折れた角を使って滑るような方向転換の軌道を作り、押さえつけていた鎧の男はバランスを崩し、横に倒れそうになった。
「くそっ!…」 と鎧の男が呟いた。
盾の圧力から抜け出した石の水牛は、反抗的に立ち上がった。
「モォォ!!」
「くそっ!!」 リンはイライラしていた。
リンは素早く猛る石の水牛から飛びのいた。
すると石の水牛は、一番後ろの列に向かって突進していった。
ドスッ! ドスッ! ドスッ!
石の水牛の一歩一歩が、巨大なハンマーが地面を打ち付けるような音を響かせた。
「うおっ!!」
太った男はすぐに横へ飛びのき、地面を転がって回避した。
「CASSEY!! 逃げろ!!」
突然のことに固まってしまった水色の帽子の女に向かって、鎧の男がパニックになって叫んだ。
【 伝説奥義 】
反射的に、俺の体は一瞬消えたかのような速さで横へ動いた。俺の体は瞬時に空中を駆け抜けた。
音もなく、予告もなく、俺はすでに薄い青色の帽子の女のすぐ隣にいた。
《適当流》!!
「危ない!!」 と俺は叫んだ。
右手で女を押し、彼女を後ろへ約2メートル飛ばした。
ドスッ!
俺が着地する前に、石の水牛はその角を俺の腹に叩きつけた。
一瞬のうちに、石の水牛の頭が俺の体に押し付けられた瞬間、俺の指はその首の下側をたたいた。
石の水牛は、まるで役立たずのゴミでも捨てるかのように、俺を無造作に横へ投げ飛ばした。
「うわああ!!」体が投げられる中、俺は叫んだ。
「うぐっ!!」地面にぶつかって転がり、俺はうめいた。
「バキッ。」背中が大きく反って、木に叩きつけられた。死んだふりして、そっと目を閉じた。
片目をちょっと開けて、彼らの反応をこっそり見た。
太った男以外は、みんな驚いた顔で俺を見てた。
太った男も、魔物を避けて飛んだ後、死んだふりしてた。その顔を見てから、また目を閉じた。
( 完璧!)
バキッ! バキッ! ドスッ!!
俺が死んだふりをしたら、石の水牛が急に倒れた。
紫色の結晶が地面に転がり出た。
「お前、大丈夫か?!」
「脈はまだある! CASSEY、あんた彼を治して! マナオーラがめっちゃ低い! 死んじゃうかも!」 とリンがパニックになって言った。
「わかった…」
( は?…死ぬ?――ああ…そういえば、俺はまだマナオーラを“あり”みたいなレベルに抑えてたっけ。
今の彼らには、俺は死にかけの蟻にしか見えていない……か。)
目を閉じていても、マナオーラを通して彼らが見えた。
魔物の攻撃をかわした太った男は、まだうつ伏せに倒れたままで起き上がっていなかった。
他の三人がパニックになる中、俺は目を閉じたまま、ちょっと笑った。
(あの太った男は、いつまで死んだふりを続けるつもりだろう?)




