14話 事故る 6/6
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私は次々と当てていき――
気づけば、あと一人を残すのみになった。
会場のみんなの仮面が、きらびやかでミステリアスなものから、動物を用いた可愛らしいものに変わっている。なかなか可愛らしい空間で、私は大満足だ。
最後の一人は、あえて放置してやった。あのこんちくしょうには、一発カマしてやると決めているからな。
お腹に力を入れて、大きく指を差し出し――最後に一人にこう宣言する。
「さて、狼牙。お前が秘密裏に私の大好きなみんなを決闘でボコしていると分かってから、むしゃくしゃしてるんだ。さあ、歯あ食いしばれ!」
狼牙が私のことを心配していることは、会場に入った瞬間、一目で分かった。
だって、今日のこの第二部のダンスパーティーで、狼牙の視線はずっと私に注がれていたもん。
それを分かっていながら、私はずっと気づいていないふりをしていた。狼牙は明らかに寂しそうだったが……私だってお姉様と狼牙が秘密裏にコソコソやっている時、寂しかったんだからな!ちょっとは私の気持ち、分かったか!
そんな気持ちを込めて、私は狼牙を睨みつける。
そして、肩を揺らしてずんずんと狼牙の元へ歩いていき……
目の前まで来ると、ぎゅっと拳に力を入れながら、私は、少し上を向いて背伸びした――
会場は、やけに静まり返っている。演奏をしてくれていたさくらですら、指が止まっている。
狼牙も立ち尽くしたまま、まるで時が止まったかのように、動かない。
しばらくすると、私によってほんのり濡らされた唇を、指でゆっくり触って……やはり、立ち尽くしたまま。
「あー!せいせいした!」
気づけば、ほころぶような最高の笑顔で、私は笑っていた。
唇と唇を合わせ、濡らしてやる。狼牙の気持ちが分かった瞬間、絶対に今日カマしてやろうと決めていた。
これで、この胸のむしゃくしゃも収まると思っていたが……予想とは違い、少しだけ頬が熱くなっただけだ。
でも、とっても満足!
「狼牙には狼の仮面を与えて……よし!これで全員当たったな!」
あー、楽しかった。私と同じくらい、みんなも楽しんでくれたらいいな。
さて、そろそろ今宵のダンスパーティーも締めに入ろう。
さくらが気を取り直し、結婚式で流れるような祝福の曲を奏で出した。
そのせいか、会場は微笑ましい空気に包まれている。そんな空気の中、達成感に身を任せ、大きく背伸びをした、その瞬間。
びりっ!
背中のファスナーの辺りから嫌な音がしたと思えば……
ストン――。
着ていたドレスが、ぼとり、と地面に落ちた。
もう一度、しんと会場は静まり返ってしまった。
「……ああ、えっと……ま、カルバン・クラインの下着をつけてたから、セーフ!」
自分で何を言っているのか、自分でもよく分からない。
今の私には、ドレスも、靴すらない。
それなのに、不思議と恥ずかしくなかった。
テンションが上がっているからなのか、やっちゃったことによる軽い絶望のせいで、麻痺しているのか……
なんなら開き直って、美少女の下着姿が見られるなんて良かったな、みたいな考えが、頭を支配していた。
ふと、私に向かって一直線に走ってくる大きな足音が聞こえてきた。
狼牙だ。
……あの目は、確実に私を捕まえようとしているな。問題を起こした私を、狼牙は今まで何度も捕まえてきた。その時の狩人のような目と全く同じだ。
きっとこの会場から強制退場させるつもりなのだろう。
でも、まだダンスパーティーの締めをしていない。鍋とダンスパーティーの締めは、一番美味しい時間だ。まだいなくなるわけにはいかない。
ダンスパーティーの締めには、投票タイムがある。それがなくなれば、ダンスパーティーを開催したメリットがほとんどなくなってしまう。たとえ進級に必要な票は第一部で稼いだとは言え、カリスマレベルはあればあるだけいい。
要は、今ここで強制退場させられると、困るのだ!私は投票用の花がいっぱい欲しい!
……そうだ。下着姿でも、別に減るもんじゃないでしょ。そう、減るもんじゃないのだ!
ということで、この状況でも最後までやり切るからな!
「ふっ、狼牙であろうが、今の私は捕まらないぞ!かかってこい!」
なにせ、私は柔道の天才から逃げ切った女だぞ。今更狼牙になんて捕まるわけが……
あれ……?
「ちょ、なっ離せ!狼牙!まだ票をもらってない!卒業できる分まで稼いじゃいたいのに!」
問答無用。狼牙は私をお姫様だっこして、会場から飛び出していった。
「くそっ離せ!最後の票を集めるのがまだ……ぢがら゛がづよ゛い゛! お姉様!仕方ないので、私の代理人として締めを頼みます!あと、みんな!みんなのこと、私はちゃんと見てるから!これからも目一杯活躍してね!先生も生徒もOBも、みんな、大好きだぞおおおぉぉ……」
会場を抜け出す時、視界の隅に大量の赤いバラが空を舞っていた。
それから。
その足で狼牙に自宅に連れ帰られ、ベッドへ放り出され、
「あの時みたいに、最初は、かなからして」
狼牙に押し倒され、迫られた。
ダークグレーの瞳が、熱っぽく光っている。自分の鼓動がうるさいくらい鳴り響いている。狼牙の熱が、私にも伝わってきて、熱い。
強烈に惹かれるように、無意識に狼牙の唇に視線を向けてしまった。
そんな私に向かって、狼牙は余裕たっぷりに笑う。
……ムカつく!
私がこの後しようとしていることを、全て見抜かれているような状況を癪に触った私は、ぷいっ、と横を向いた。
「まだ、一度もちゃんと好きって言ってもらってないもん……」
これが、私のできた唯一にして、最後の抵抗だった。
その後、死ぬほど愛を囁かれ――無事私は陥落したのだった。
一通りゴニョゴニョっとされた後のこと。
「俺と結婚するよね?」
なんで確認疑問文? と思いながら、徹底的に退路を断つ狼牙らしいなと、ちょっと笑った。
「しゃあないから結婚してやる!わがまま放題するから、覚悟しておけよ!」
私からの通算三回目のキスをくれてやった。
よし!さっきまではやられっぱなしだったが、こっからは私のターンだ!私のお嬢様力で、攻めて攻めて、腰砕けにしてやるからな!
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