最終話
「ねえ、かな。かなって人を動物と連想させてイメージしてるじゃない?好きな人は動物、嫌いな人は虫って分けて」
「え?そういう法則があるのですか?」
「……自分で気づいてなかったのね」
三馬鹿の一番下、腹黒の家が所有する美術館。備え付けのおしゃれなカフェのテラス席で、お姉様はため息をついた。
私はただ、人の顔と性格を覚える時、何となくなにか連想させたほうが楽しいので、そうやっていただけなんだけど……
「実はその法則、幼い頃からの知り合いには適用されないのよ。三馬鹿とか、私や両親なんかはそんなイメージしていないでしょ?あのダンスパーティーの夜も、私の仮面は動物ではなくて、おしゃれな花と宝石をふんだんにあしらった仮面を貰ったしね」
「そうですね。確か私が小学校低学年の時に動物に激ハマりしてから、自然とそうイメージするようになった気がしますね」
「ねえ、かな。私にもなにか動物を当てはめてくれないかしら?実はあの日、私にどんな動物が当てはめられるのか、ちょっとだけ楽しみにしていたのよ」
「お姉様を例える……うーん、氷の名刀、フェニックス、九尾の狐、災害レベル・神、S級妖怪、特級呪霊、鬼舞辻無惨……」
「ちょ、ちょっと。途中から化け物ばっかじゃない」
「ふふふっ、冗談です。お姉様は私にとって、お姉様なんです。それっぽいものを考えてみましたが、どれもしっくりきませんでした」
「……そう、それもまあ、良いかもしれないわね。私って、あなたの姉って立場をすっごく大事にしているから」
今日はお姉様とのダブルデート。お互い向かいに彼氏が座っているのに、お姉様とばかりラブコメしている。
お姉様の横顔は、相変わらずゾッとするほど美しかった。目の前に彼氏がいるってのに、全然余裕でちゅーしたい。
狼牙と付き合っても、お姉様やお母様にムラつくのは変わらないところをみると、どうやら私は恋多き女みたいだ。
ああ、法律が憎い。法律のあんちきしょうがいなければ、全員と付き合って「かなちゃんハーレム王国」を築いてやるのに……
ああ、そうそう、もうとっくに察しているかもだけど、私、狼牙と付き合い始めたんだ。これはもう、いいよね。
そんなことより!だよ!
なんと、お姉様はミズクラゲと付き合い始めたのだ!
お姉様が交際を始めたのは、私と狼牙が付き合うとなってから、2日後だった。
あれは、朝の時間の、ちょっとした雑談――
『ねえ、かな?もし私が男と付き合うのなら、かなは誰をおすすめする?』
『んんー……強いて言うなら、ミズクラゲかなあ……』
『そう、分かったわ。一撃で仕留めてくるわね』
『んえ?』
この日、お姉様は宣言通り、ミズクラゲの心を仕留めてきた。
何をしたのかは「二人だけの秘密♡」と教えてくれないが……あの誰にでも態度を変えないミズクラゲが、お姉様を見て頬を赤らめるようになったのだ。
お姉様に彼氏ができたこと自体には少し寂しさを覚えるが、ミズクラゲは人のサポートをさせると、とんでもない力を発揮する男だ。これからはお姉様を支えていってほしい。
「あーあ。せっかくなら、さくらやよーことも一緒にデートできればよかったのに」
「きっとあの四人は今、海外で楽しくダブルデート中よ」
私の周りでは、怒涛の恋愛ラッシュが起きている。
さくらは今まで、三馬鹿の真ん中、不憫と、付き合っているのか付き合っていないのかよく分からないような関係だった。
かなり幼い頃に不憫からやんわりと告白されたらしいが、正式に付き合うとはなっていなかった。その関係のまま、ずるずるとここまで幼馴染としてやってきたのだそうだ。
それを、最近になって、
『あの人にもそろそろ覚悟を決めさせてくるね~』
と、舌なめずりをしながら、さくらは不憫を引きずっていった。
後で話を聞くと、どうやらその日、不憫は散々焦らされた後、ベッドに押し倒されて「別れるか、責任を取るか、選んで」と迫られたらしい。
不憫ぇ……最後まで不憫なやつだぜ……
よーこに関しては、私と狼牙のいちゃつきっぷりを見て、「なんだか私も恋したくなっちゃった」と思うようになったらしく、積極的に恋愛活動に精を出そうと動き出した。
色々一人でブツブツ呟きつつ、
『……さて、色々考えた結果、三馬鹿のあいつ辺りが一番私の役に立ちそうね……そろそろ狩りましょうか』
と、獰猛に笑いながら、魔王様に猛アタックを始めた。
私の親友は、二人とも超肉食獣だ。
と、愛すべき二人の親友のことを頭に浮かべていたら、ダークグレーの優しい瞳が、寂しそうに私を見ていることに気づいた。
「ねえ、狼牙」
「なんだ?」
「私のこと、好き?」
「ああ、好きだ。愛してる」
「えへへ~。私もだよ」
私と狼牙は、机の上で手を絡ませた。狼牙の手のひらの熱さが、心地良い。
ただ二人の体温が違うというだけ。それだけで、天にも昇る気持ちになってしまう。
こう、私の本能を受け止めてくれる相手がいるっていうのは、いいものだなあ……
狼牙と付き合ってから、今まで知っていても魅力に感じなかった狼牙の細かな部分が、どうもキュンと来るようになった。
少し筋張ったゴツくて大きな手や、指が長いところ。頭を軽くかく癖や、口角を上げたあとに見えるエクボなんかまで。全てが私をドキドキさせる。
かなちゃんの綺麗な身体を汚したのだから、ちゃんと最後まで責任をとってもらわなきゃね。
二人での幸せな将来を思い描きながら、同時に心の中の大切な人にも語りかける。
……ねえ、オジサマ?
(ん?なんだい?)
あの日狼牙と愛し合った時、オジサマと私が一体化するような感覚があった。
『君がちゃんと人を愛して、愛され、女性として幸せを掴んだ時。その時は僕も安心して君の一部だってことを認めるよ』
幼い頃に交わしたオジサマとの約束通り、オジサマはやっと安心したようだ。
正直、私はオジサマが私の一部だと完全に認めることで、私の心から消えてしまうのではないかと、少し心配していた。
ただ、幸いなことに、そんなことは起こらなかった。
……まあ、何も変化がなかったわけではないんだけどね。
私の心の一番中心……そう、核……かな。
私の心が球だとすると、今までオジサマがいた場所は、私の「心の外装部分」の一部だった。
それが、あの日以降、オジサマは私の「心の核」の部分に、すっぽりとハマるように移動したのだ。まさに、あるべき場所へと戻るように……
これが、私が「一体化した」と感じた原因だ。
今の形が一番自然な形だと、私たちは確信している。
私の核はオジサマだし、オジサマも私だ。私たちは別の存在であり、一緒の存在なのだ。
「あ、何か落ちてるじゃん」
ふと、テラス席の机の下のとても見えにくいところに、光るものが見えた気がした。覗き込み、それを手に取って汚れを払い、空に透かして見る。
小さくて瑠璃色の、綺麗な鳥の羽だ。
私はこれをそっとハンカチに包み、持ち帰ることにした。
これはきっと、スタッフや、他のマナーの良いお客さんに見つけられると、ゴミとして捨てられてしまうだろう。
落ちているゴミは、拾う。それが普通のことであり、マナー。
でも、この羽の綺麗さに気づいてしまった私の中では、これはもう決してゴミではないのだ。
これは、私の生き方においても同じことが言える。
世の中には、本当に色んな人がいる。私のように心にオジサマがいたり、逆に男が乙女な部分を持っている人だってたくさんいるだろう。
こういう時、男なのにとか、女なのにとか、「普通」に囚われている人は案外気づかない。そういう部分が、その人のチャームポイントということに。
みんなが気づかなくても、私はそういう輝きを見つけ出すのが得意だ。
気づいたら、拾う。そして、ずっと大事にする。それは「特別」という宝物だから。
それが、心にオジサマを持つ、私なりのマナーだ。
「ふふふっ」
静かに幸せを噛み締める私を、周りのみんなが優しく見守っていた。
心に「オジサマ」を飼うお嬢様のマナー
完!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
次回作は【笑ってはいけない貞操逆転世界】です。明日から投稿予定です。
タイトルで気になった人はリンクをコピペして飛んでみて下さい。
以下リンク↓
【笑え】笑ってはいけない貞操逆転世界!【おもんなくとも】
https://ncode.syosetu.com/n1984mc/
また、カクヨムのサポーター限定公開の近況ノートに、【白佐藤ゆり 秘密の日記】を公開しました。無料ではないし、おまけ的なちょっとした一話なので、どうしてもタイトルで気になったお金に余裕のある人はサポーターとなって読んでみて下さい。
それでは、また次の物語で。




