13話 連れ去られる 5/6
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私には、全てがスローモーションに見えていた。頭の中は熱いのに、頭の芯は冷静だ。
今の私は完璧なコンディションなのではないだろうか。心の中のオジサマと私が、何も言わずとも完全に息ぴったりだからかな。
そんな風に考える余裕すらある。
いつになく視野が広い。周りの様子が手に取るように分かる。
お姉様は私の指示通り、撮影に専念してくれている。
よーこは私の盾となり、そこまで運動が得意でない有象無象を惹きつけてくれている。
ただ、一人。
彼女だけは、よーこに釣られない。射殺すような目で私を捉え続けている。
柔道の天才。えりちゃん。
えりちゃんだけは、どうあっても私の力だけで超えなければいけないようだ。
でも、今の私は、誰にも負ける気がしない。
――この戦いは、私のものだ。
えりちゃんが私を捕まえようと構えている。彼女はイグアナみたいに可愛い顔をしているのに、とんでもなく度胸がある。
でも、構うもんか。一秒たりとも私は無駄にしない。
真正面から全速力でツッコんでいく。
『ダメだと思った時、意外と一歩なら前に進めるやつもいるんだ。だから、私は二歩進む』
思い出すのは、三女様の言葉。
そう、二歩だ。相手の想定を超えて、二歩前に進んだ時、相手は怯むのだ。
相手の射程圏内に入ろうが、スピードは緩めない。
……もう、ダメだ!捕まる――!
心に弱音がかすめても、スピードは緩めない。
一歩、ぐんと前へ。
えりちゃんがかすかに息を飲んだ。
それでも一瞬で立て直し、私のドレスを、小指で引っ掛けた。そこを起点に力を入れ、しっかり私を捕まえようとした、その寸前。
もう一歩、ぐんと前へ。
頭突きをしてしまうくらい、前へ前へ。
流石の彼女も怯んだのだろう。ほんの僅かに後ろへ身体を引き、回避行動をとった。
その僅かな隙。そこに付け入り、私は急にぐんと身体を小さくして小指を振り払い、えりちゃんの股下をスライディングしてくぐり抜ける。
激しい動きのせいか、ドレスのどこかから、ビリっと、嫌な音がした。裸足でスライディングしたことにより、足に、痛み未満のヒリヒリが襲ってくる。
でも、気にしない。
後は、もう彼女を置き去りにするだけだ。単純に、私の方がちょっとだけ足が速い。
全速力で走りながら、
「えりちゃん!後、他のみんなも!この後、絶対に私のダンスパーティーに来てね!みんな、私の大好きな人なんだからね!絶対だよ!」
そう言い残し、どんどん進んでいった。
走り、走る――!
さあ、もう会場は目の前だ。
会場の重い扉はすでに開かれていた。優しい誰かが私に協力してくれたのだろう。
ありがたい。美少女ドロップキックで扉を開くつもりだったが、その必要がなくなった。
会場に入ると、人の熱気と共に、大量の視線が私に集まる。
「タイムは……残り約20秒!ギリギリセーフ!」
開口一番のこんなセリフに、少し笑いが巻き起こった。会場が温かい空気に包まれていて、幸いだ。
「……コホン。では、白佐藤かな主催、ダンスパーティーの第二部。“和風仮面舞踏会”の開催だ――!ウェルカム・トゥー・かなちゃんワールド!」
❀❀❀❀❀❀
強めの和風テイストに、仮面舞踏会らしいヨーロッパの雰囲気を調和させたこの空間。私が作り上げた、私の世界。
この会場には、私の好きなものばかり詰め込んだ。
まず、和風と夜。この二つの相性って最高だと思うんだよね。
他にも、さくらの奏でるゲームBGMや、小さく置いてある塊根植物のパキポディウムとか。白佐藤家流の華道ではあまり使わないけど、塊根植物ってすごく好き。あのずんぐりむっくりさがすっごくツボ。
そして、会場には私の大好きな人たちが、私と遊んでくれる。
こんなの、テンションが上がらないわけがない!
「さあ!さくらの奏でる音に合わせて、自由に踊れ!どんどん私も乱入するから、覚悟しておけよ!」
突然嘘みたいなことを言うが、私は人を見ると、その人の胸の内から打ち鳴らす鼓動で、どんな人なのかが何となく分かる。
いくら私の聴覚が優れているからといって、実際に人の鼓動が聞こえているわけではないはずだ。これはきっと、ただの直感に、私なりのイメージを結びつけただけのものなのだろう。
でも、この特技が私は妙に気に入っているし、私は本気で鼓動が聞こえていると信じている。
「あなたは……うん、すぐ分かった。ゆうき君でしょ? ほら、正解。雀みたいに可愛い顔してるから、君にはこの雀お面を与えよう」
「君は、簡単簡単。ひなたちゃんでしょ? はい、正解。ナマケモノみたいな可愛い君には、ナマケモノお面を授けよう」
踊りながら、ダンスパートナーの仮面の下が誰なのか、次々当てていく。
みんな制服を着用し、仮面で顔の上半分を隠している。人も本当にたくさん来ている。
普通なら、全員が誰かを当てるなんて、不可能だろう。
ただし、私なら絶対にできる。鼓動を聞けば誰が誰なのか一目瞭然だ。
そう、私はこの会場にいる人、全員の名前を当てるつもりなのだ。
「うん。来鈴木先生でしょ? せいかーい!先生はサメみたいなかっこいい雰囲気をまとっているから、このホオジロザメお面を与えましょう」
「んだよ。三馬鹿は簡単すぎる。三馬鹿はみんな、自分がさも特別だっていう雰囲気をまとっているからな。三馬鹿の長男は、この魔王仮面でも身につけてろ。なんてね」
くるくる踊りながら、どんどん当てて、私のイメージとぴったりな仮面を配っていく。人数が多いので、踊りは優雅さより、勢い優先だ。
……ああ、楽しいなあ。みんなの弾むようなドキドキが、私にも伝わってくる。みんなと踊っているだけで、自然と口角が上がってしまう。
鼓動を感じるという特技があるからか、私は人の「らしさ」を見抜くことが得意だ。
誰一人同じビートではないし、音色も違う。どんな音も私は大好きだ。一人ひとり、それぞれ素敵な魅力がある。
このダンスパーティーを通じて、私は否定したい。みんなは、決してありふれた存在じゃないってことを。
私の世界に「普通」は存在しない。だって、全員が普通だったら、見分けられるわけがないでしょ?
私にとって、みんな特別で、大好きだってこと。この当てっ子ゲームを通じて、みんなに伝わるといいな。
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