12話 走る 4/6
気に入っていただけたら、★やブックマークで応援してもらえると嬉しいです。
「カウント・ダウンTVをご覧の皆さん。こんばんは。今宵のダンスパーティーの主催者、白佐藤かなです」
私は少しおちゃらけながら、お姉様のスマホのカメラに向かって語りかける。
そんな私を見て、ヒカリちゃんはフレーメン反応の時の猫みたいな顔をしたのち、「えっ、えっ」と、慌てふためく。
「こういうトラブルがあり、私は今現在全く準備ができてない!でも、必ず間に合わせるから、私の勇姿でも見ながら、会場でのんびり待っててくれ!」
実は今、この場所がお姉様によって撮影され、ライブ配信のように映像が会場に映し出されている。
遅れてその事実を理解したヒカリちゃんは、顔から血の気が引いていった。
大丈夫だよ、ヒカリちゃん。私がヒカリちゃんを悪者にはさせないから。
――さあ、全力でこのピンチを楽しもう!
「一応言っておくが、この状況は今本当に起こっていることだけど、演出でもあるからな!」
もちろん演出なんて大嘘だ。お姉様は遅れても大丈夫なように保身として撮影してくれていたのだろうが……私はそれだけで決して終わらせない。
いくら疑わしかろうが、主催者の私が演出と言うのならば、それがルール。
長女様は言っていた。ルールは守るものじゃなく、自ら作り出すものだと。
「あと、会場に居るさくら。今からあなたのことを私の代理人と認めるから、もし間に合わなかったら、私の代わりにしきっておいてくれ!」
ダンスパーティーの主催者は、必ずしも本人が参加しなければならないわけではない。急病や事故等、やむを得ない事情がある場合、代理人を立てることを認められている。
これはほとんど使われることのないルールではあるが、ちゃんと生徒手帳にも載っている正式なものだ。
次女様は言っていた。ルールは守るものではなく、利用するものなのだと。
「つっても、それはただの保険だ。ちゃんと間に合わせるつもりだからな。でも……こほん。ちょっとだけ遅れても、許してにゃん♡」
よし、これだけ可愛くお願いしておけば、大丈夫だろう。
ちゃんと「時間通りに開催しなければならない」なんていうルールは、生徒手帳には銘記されていない。ただの当たり前のマナーが、あたかも正式なルールとして受け取られているだけだ。
三女様は言っていた。この世には破っても良いルールがある、それを見極めろと。
これであとは私が会場にさえ間に合えば、全てが丸く収まるはずだ。
ここまでしてもまだ、ヒカリちゃんはどうしても私を会場に行かせたくないらしい。未だ私の腰を正面からぎゅっと掴んで離さない。
そんなヒカリちゃんの頭を、私は優しく撫でた。
「馬鹿だなあ、ヒカリちゃんは。たとえ私が誰かのものになろうと、私の人生にヒカリちゃんは必須なのに。だって、ヒカリちゃんは私の大好きな人の一人なんだからね」
耳元で、ヒカリちゃんにだけ聞こえるように、囁いた。
そもそもヒカリちゃんは見落としていることがある。
以前、私とヒカリちゃんとの関係を占った時、顔をほころばせてこう言ってたじゃん。
『私とかなちゃんは、お互いが死ぬまで、ずっと縁が切れることないんだって!』
私は縁というものをとても大事にする。たとえ学校が変わろうと、海外に移住しようと、私の大好きな人には、私から積極的に連絡をとってきた。
そんな私が、これだけ私のことを思ってくれている人を、捨て置くわけないでしょうに。
そんな私の気持ちが届いたのか……ヒカリちゃんの全身から力が抜け、地面に膝をついた。
さあ、これで私を止めるものはいなくなった。
私は次々と指示を出していく。
「会場にいるさくら!そっちはもう準備おっけーだよね?じゃあ、今からそっちへ向かうから、私の好きなエレクトリックサウンドでも演奏しておいて!」
とにかく会場のみんなのテンションがぶち上がるの、頼むな。
「お姉様!引き続き撮影お願いします!少しお転婆な“お嬢様ルート”を通りますが、お姉様ならついてこられますよね?」
お姉様は不敵に笑う。
「よーこ。全体的なサポートよろしく!」
「指示が雑なのよ!でも、任せておきなさい!私は世界に羽ばたく女よ!この程度、なんてことないわ!」
私はダッシュでハイヒールに履き替え、いざ走ろうとすると……
「――ッ!」
あぶねえ!
なんと、オーダーメイドで、丈夫に作っているはずのハイヒールが、ポキっと折れてしまった。
「かなちゃん!今日の運勢が最悪で、死相が出ているのは間違いないのですから、安全面だけは本当に気をつけて下さい!」
……なるほど。流石占いの天才だ。本当に今日はついていないらしい。
「私のスニーカー、いる?」
よーこがそう言ってくれるが、
「大丈夫、お嬢様らしく、裸足で行く」
折れたハイヒールを投げ捨て、ベランダの方向へ走り出した。
凶運のやつめ、かかってきやがれ。私の隣には二人の幸運の女神がいるんだからな!
緊急時用の避難はしごを取り出し、スルスルッと地面へ。
私の計算では、ちゃんと入口から出たんじゃ、絶対に間に合わない。5分でたどり着くには、このルートしかない。
ああ、身体が羽のように軽い。空気は澄んでいるし、月が綺麗だ。運が悪いはずなのに、気分は最高にいい。
隣を見れば、お姉様やよーこがしっかりついてきていた。このお嬢様ルートでもちゃんとついてこられる辺り、流石だ。
「――ッ!」
っと、危ない。
さっきから、新聞紙は風で飛んでくるわ、足元の花壇が急に崩れるわ、夜霧のせいで地面の大理石がツルツルだったり、街灯が不自然に消えていたり……びっくりするくらい不運が続く。
でも、現状では怪我をする気がしない。
さっきからよーこが飛んでくる新聞紙をはたき落としたりなど、完璧に不運を叩き潰してくれているからね。流石世界に羽ばたく予定のよーこだ。身体能力が化け物じみてやがる。
と、順調に全速力で走っていると、私の前方に十人ほどの女子生徒が現れた。おそらく彼女たちがヒカリちゃんと志を同じくした妨害部隊だろう。
「しゃあ!お嬢様らしく、いっちょ喧嘩と洒落込みますか!!」
喧嘩なら得意だ。実践こそしたことはないが、オジサマの記憶にある三女様の動きを、私は何度も反復している。柔道の天才だろうが、喧嘩なら負けない。
感想、ツッコミ等、じゃんじゃんお待ちしています。




