11話 通じ合う 3/6
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『文句があるやつは、まず俺を倒せ。俺はどんな勝負だろうが、受けて立つ』
そうか……あの言葉の意味は、そういうことだったんだ。
その真意に気づき、私は今まで動いたことのない胸の奥の奥が、トクンと、少し動いた。
狼牙は今まできっと、たくさん勝負してきた。それは全て、私のために。
それが意味することは……
もう!ほんともう!ばか狼牙!
だって狼牙は、幼稚園のときから、小学校、中学、高校と今に至るまで、ずっと変わらないじゃん!
白佐藤家のご令嬢であるかなちゃんは、相手が演技しているかどうかとか、しっかり見抜けるんだぞ?嘘に敏感なんだぞ?
それでも変わらないってことは、狼牙にとっての普通が、「私のこと好き」ってことじゃん!
ムカつく!ムカつく!
どれだけ狼牙は私のこと好きなんだよ!!!!!
狼牙とは長い付き合いなので、私のダメなところもいっぱい知っているはず。いくらかなちゃんが美少女とはいえ、一度も幻滅しないなんてことある!?
はームカつく。狼牙はきっと会場にいるはずだし、あっちに着いたら一発カマしてやろう。美少女からの照れ隠しパンチだ。喜んで受けろ。
そしてだ。
狼牙が行った全ての決闘に勝たせたサポート役であり、影の実力者。
『かな、しばらくのあいだ、少し狼牙を借りるわね。ちょっと二人で秘密の会議があるの』
ようやく繋がった。狼牙と二人で、お姉様が何をしていたか。
――お姉様は、ドレスよりスニーカーのキャラから、もっともかけ離れたキャラだと私は思う。
原作でのお姉様も、非の打ち所のない完璧な令嬢だ。そのうえで、上流階級では決して経験しないような庶民の新鮮な遊びが好きで、特別扱いより「普通」を好むという、いわば「あるある」のようなチャームポイントを兼ね備えたキャラクターだった。
こう説明すると、今とそこまで違いはない。実際に私たちが通っていた普通を何よりも大事にする中学ですら、お姉様は常に特別であったし、私とは違い、「セール」や「コスパ」などの言葉を聞いてもピンとこないような、れっきとした本物のお嬢様だ。
でも、絶対に違う。原作のお姉様に、ここまでの“凄み”はない。世界で一番お姉様のことが好きな私が言うのだから、間違いない。
熱。 ……そう、熱だ。今のお姉様には、熱がある。
お姉様は一見優雅で育ちのよいお嬢様に見えるが、その中身は灼熱に燃える炎だ。
ちょっと度を超えた負けず嫌いで、修行ジャンキー。それが、お姉様という天才の正体。
こんな風に育ったのは、お姉様の人生が「挑戦」の日々だったからだろう。
常にお母様という高すぎる壁を越えようと努力するお姉様。そんなお姉様は、もはや同級生には敵はいなくなっていた。
だからこそ、私はお姉様のライバルになろうと思った。私はいつだって全力でお姉様に挑んだ。たとえ相手がお姉様という正真正銘の天才であろうが、私の培ってきた全てを使い、全力で越えようと挑み続けた。
下からは私が肉薄し、上にはお母様が鎮座する。そんな自らを鍛え上げるための最高な環境を、お姉様は何よりも楽しんでいた。
勝負により、ひりつきが極限まで高まった瞬間、お姉様は笑う。おそらく、無意識に。
その瞬間の笑みが、私はたまらなく好きだ。
一切の無駄がない、恐ろしいほどの機能美。空気すら切り裂くように研ぎ澄まされた、鋼鉄の刃。
その笑顔は、そんな刀みたいで――
私はそれを、何よりも美しいと思ってしまう。
全ては、自らをより深く、鋭く研ぎ澄ますため。それが、お姉様の生き様だ。
「……なるほど。今は多くは語りませんが、それでこそ私のお姉様ですね!」
私が一瞬の間に導き出した結論を察したお姉様は、ただ静かに微笑むのみ。
突如そんなことを言い出した私に、ヒカリちゃんも困惑中だ。
思わず、私はヒカリちゃんの頭を優しくなでた。
ヒカリちゃん。ヒカリちゃんはね、狼牙だけと戦っていたわけではないんだよ。狼牙とお姉様、二人を相手にしてたんだ。
そのオカルト知識早押し対決とやらも、お姉様が決闘内容を決めたはずでしょ?
そもそも、狼牙とオカルト知識で勝負して、天才である彼女が負けるわけがない。それでも負けたと思い込んでいる理由は、お姉様に自分の得意なフィールドで戦っていると錯覚させられたからだ。
早押しでなければ、絶対に負けなかったはずだよ。おそらくオカルトの範疇ではあるが、深い知識を必要とはせず、浅い知識でも解ける問題も多かったんじゃないかな。
ここまでは確実に正解なはず。
そして、ここからは私の勝手な予想。
きっとお姉様は、自らの「力試し」をしたかったんじゃないかな。
ただ真っ向から勝負しても、天才たちには絶対に勝てない。さらに、何度も何度も勝負を挑むのも、格式高い名家の令嬢としてはみっともない。
そこで利用されたのが、狼牙だ。
どんな手段でもいいから天才たちに勝ちたかったお姉様は、己の培ってきた全てを使い、全力で狼牙に協力することにした。天才たちと力試しをする場を設け、狼牙を勝たせるように訓練し、実質的に決闘をコントロールする。
全ては、自らをもっと鍛え上げるため。おそらく、そんなところだろう。
……まあでも、狼牙に寄り添った気持ちだって、本心からくるものだろう。以前からお姉様は、「私は恋をして輝くあなたを見るのが楽しみなの」みたいなことを何度も言っていたしね。
その鍛錬のついでに、私と狼牙が結ばれれば、まさに一石二鳥というわけだ。
「お姉様のおせっかい。お姉様だって絶望的にモテないことを気にしてる癖に……」
「かなちゃん?何か言った?」
お姉様が私のことを「かなちゃん」という時は、やばい。激おこだ。
「いえ!何でもありません!さー!」
こんな状況で姉妹仲良くじゃれ合っていると、よーこが心配そうに声をかけてきた。
「ねえ、かな。もう第二部が始まるまで、あと5分しかないわよ。それに、ヒカリちゃんはこうやって種明かししながら、あなたの時間をしれっと稼いでいるけど……いいの?」
「ぎくっ!な、なんのことカナー?」
ヒカリちゃんが私の腰をより一層ぎゅっと強く掴みこむ。
「ここから先は一歩も通しません!何があろうと、第二部には行かせません!今日さえ乗り越えれば、また恋愛運が絶望的にダメダメに戻ります!この日だけは、絶対に私たちが会場に行かせることを阻止します!」
「……面白い」
残り5分か……さて、そろそろ動き出しますか。
感想、ツッコミ等、じゃんじゃんお待ちしています。




