10話 つながる 2/6
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ふわふわとした意識の中、扉の外でざわざわしている音が耳に入ってくる。まどろみの中にいるせいか、うまく音が情報として入ってこない。
――かな!かな!
……うるさいなあ。今、私は最高にリラックスしてるんだ。邪魔しないで。
――ここから先は通しません!
――かな!もう時間よ?何をしているの!?
……ん?お姉様の声?すごく私を心配しているような……お姉様を心配させるとは、夢であろうが許されざる行為だな。
あれ、これ、夢だっけ?なんか違うような……
窓から何者かが侵入する気配がして、足音が迫ってくるのが聞こえる。
……いやいや、やっぱりこれ、夢だな。だってここ、3階だもん。窓から誰かが入ってくるわけな――
「いい加減起きろ!ハゲ!」
「い゛って゛え゛!」
頭から伝わってくる強烈な痛みにより、私の意識は現実に戻された。
いや、目を覚ましたというより、リラックスしすぎてポワポワしていたというのが正しいか。
なんかあのストロベリーティーを飲んでから、やたら気持ちよくなったんだけど……あれ、なんだったんだろう?
「え?よーこ?なんで室内に?」
「あなたのことが心配になって、侵入したの!この程度のセキュリティなら、私にとって何の弊害にもならないわ!」
(……ハハハ)
オジサマが力なく笑っている。私はよーこらしいなと、笑う。
「かな!起きたようね!準備を手伝うから、とりあえず開けなさい!」
扉の外から、お姉様の声。
扉を開くと、お姉様と、小学生くらいにしか見えない小さい女の子が、全力でお姉様を止めようと腰に抱きついていた。
ただ、ちっこすぎてあまり効果はないようだ。お姉様は女の子を引きずりながら、ズカズカとこの部屋に入ってきた。
「って、かな!すっぴんだし、髪型もボサボサじゃない!」
と、さも慌てたように言いながら、お姉様は私にアイコンタクトを送ってきた。
…………超速理解!
流石お姉様。世界一頼れる自慢の姉だ。
今から第二部の幕開けってことだね!
「どうやら、私の特性ブレンドが、しっかり効いたようですね!」
お姉様の腰に抱きついていた小さな女の子が私の前に姿を現した。
その隙に、するりとお姉様は後方に下がり、存在感を消しながら、スマートフォンをこちらに向ける。
「あれ?ヒカリちゃんじゃん。ここ一週間学校に来てなかったけど、大丈夫だった?」
ヒカリちゃんは私と中学校が一緒だった。
ヒカリちゃんは大のオカルト好きで、その当時はながーい髪の毛と、「フヒヒッ……」という不気味な笑い方のせいで、明らかにクラスで浮いていた。特にあの学校は「普通」を大事にする校風だ。風当たりが強いのも仕方のないことかもしれない。
でも、私はヒカリちゃんのことが黒猫みたいに可愛くて、魅力的だと思ったから、いっぱい頼み込んで「放浪娘クラブ」に入ってもらったんだ。
放浪娘クラブ。それは、放課後にみんなで集まって、私の行きたいところや、やってみたいことを一緒にやってもらうというクラブ活動だ。
競馬場に行ってみたり、10時間耐久バスケをしたり、オリジナルボードゲームでお菓子をかけたギャンブル大会を開いたり、テレビ番組「帰れま10」の真似をしたり……
もちろん、学校には無許可だ。許可なんて取れるわけないからね。
放浪娘クラブは、ヒカリちゃんのような少し浮いていて、突然消え入りそうな雰囲気を持つ人などを集めて行っていた。他にも、無理して普通を演じている人、人を傷つけるのなら、一人でいる方がマシと考える人、家に居場所がない人なども、私はスカウトした。
最初は小さなグループだったが、私たちの楽しそうな様子から、メンバーはどんどん増え、クラブの規模はどんどん大きくなり……そのうち部活動をやめてまで放浪娘クラブに入る人も現れ、とうとう学校も問題視し、教師陣との全面戦争に……うん、懐かしい。全てがいい思い出だ。
「……なるほど。私はヒカリちゃんに妨害されたってわけか」
この状況を見て、なんとなく今の状況が分かってきた。
「柔らかな白昼夢を見せる特性を持つストロベリーティーを完成させるため、この一週間ずっと研究していたのです!ああ、もちろん合法ですよ! ……ギリギリですけど」
ヒカリちゃんは、「占い」の天才だ。本当に彼女の占いは、未来予知かってくらい的中率が高い。その能力は、この学校にも認められるほどだ。
そんな彼女は、黒魔術、風水、呪詛、陰陽道などなど……あらゆるオカルトに精通している。占いが当たるのなんて、彼女にとっては副次効果でしかないらしい。
オカルト知識の造詣がとんでもなく深い彼女なら、私にも効くオリジナルの睡眠薬のようなものを仕込めるのかもしれない。
……ああ、私って睡眠薬の対処法を、お母様に「教養」として教えられているんだよ。漫画みたいに耐性があるわけではないが、睡眠薬が効く前に違和感を感じ取り、助けを呼ぶ方法をしっかり身に付けさせられている。
「全ては、今日の夕方以降かなちゃんを出歩かせないようにするため!その甲斐あって、もう第二部が始まるまで、あと10分程度しかありません!これなら、どうやっても間に合いません!」
「え!?あと10分!?急がなきゃ!」
「急いでも無駄です。メイクと髪型を整えるのに、どうやっても30分はかかりますよね?それに、私がリーダーの集団、“かなちゃん強火FC”の女子メンバーが、外に十人ほど控えています。その中の一人は柔道の天才です。妨害部隊がいるかぎり、どうやっても間に合わせません」
「一体どうしてそんなことをするの?ヒカリちゃんに恨まれるようなことをした覚えはないんだけど……」
「それはっ、かなちゃんが大切だからです。いつもキラキラ輝いて、私たちに勇気を与えてくれるかなちゃんのことが、大好きだからです!」
そう叫んだヒカリちゃんは、私の腰にぎゅっと抱きつきながら、動機を話し出した――
ヒカリちゃんの占いによると、私の今日の夕方以降の運勢は最悪だそうだ。死相が見えるほど、怪我のリスクが高い日らしい。
一方で、恋愛運だけは100年に一度の最高の日でもあるらしい。
FCのメンバーは、その結果をもとに、何が起こるか予測できてしまった。その未来を変えるため、とにかく夕方以降外に出歩かせないように、今日まで計画を練ってきたのだそうだ。
「かなちゃんは私たちにとって、憧れなんです!かなちゃんが通うっていうから、私はこの学校に挑戦したんです!他のみんなだって、そういう人はいっぱいいます!かなちゃんには、怪我をして欲しくないし、誰のものにもなって欲しくありません!」
悪いことをしていると分かっているのだろう。ヒカリちゃんは目を潤ませ、叫ぶように続ける。
「オカルト知識早押し問題で狼牙くんに負けようが、どうしても私たちは、かなちゃんを諦めきれなかったんです!」
「……んえ?なんでこの話で、狼牙が出てくるんだ?」
オカルト知識早押し問題?一体何を言ってるんだ?
「だって!かなちゃんの隣にいることに文句があるなら、狼牙くんに挑戦しろって言ってたもん!だから、真っ向から私の得意分野で叩き潰してやろうと思ってたのに!決闘では一度負けてしまったけれど、どうしても諦めきれなかったんです……ううう、ばかな私たちを許して下さい!」
そう答えるヒカリちゃんと、その後ろでほんのりと微笑むお姉様。
その笑みを見て、急にピンときた。
私の頭の中で、散りばめられた点と点が、きらめくように線になっていく――
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