9話 巡らせる 1/6
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毎日が巡るのは早く、今日は私が主催するダンスパーティの日だ。
学校の敷地内の別館、「グランドホール」で、基本的にどの生徒もダンスパーティーは開催する。
この日は午後9時まで学校にいることが許されるので、みんなお祭りを楽しむかのようにワクワクしている。そんな空気が、私は案外好きだ。
「ふぃー。ちかれた」
さっき私も、グランドホールで立食パーティーを開いてきたばかりだ。これでようやく「第一部」が終わり、一安心といったところかな。
そう、私のダンスパーティーは2部制だ。今のグランドホールは、私が呼んだ業者によって、第二部のための舞台を作り上げている真っ最中だろう。
私は学校の備品である高級感あふれるソファーに、どかっと寝転がる。
ここは休憩室。事前に予約していた生徒が使うことができる部屋だ。ホテルの一室のようなプライベートな空間なので、多少お嬢様らしくないことをしても問題はない。
だから今も、完璧なお嬢様としての仮面を脱ぎ捨て、衣装を脱ぎ捨て、メイクすら落とさず、ドカ寝。
こうして第二部のための英気を養っているというわけだ。
(お疲れ様。最高の出来だったよ)
心の中のオジサマも褒めてくれる。
うん、我ながら、なかなか一部は頑張ったんじゃないかな。私の培ってきた中での「正解」は、第一部で全て出し切っただろう。
人の心を動かすのには、ある一種の正解がある。そうお母様に教わってきた。
完璧な令嬢の佇まい、白佐藤家らしい雰囲気づくり、ベストタイミングでの登場、ライトアップのタイミング……会話の回し方や、笑顔の作り方まで、全て計算通りに行った。
数学が得意な私は、計算通り行うことも、正解を引っ張り出すことも得意だ。それに、私だって一応白佐藤家の教育を受けてきたのだ。この程度のことができないと、お母様に失望されてしまう。
問題児である私の思わぬお嬢様っぷりに、みんな度肝を抜かれていた。庶民科のみんなは、かなちゃんのお嬢様レベルを舐めているから、余計に驚きが大きかったのだろう。
……それにしても、みんなの私を見る目を思い出すと、自然と口角が上がってしまうな。ある人は目をひん剥いていたし、ある人は目をゴシゴシとしていた。自分の頬をつねっている人までいて、つい「夢じゃねえよ」ってツッコミそうになったくらいだ。
その甲斐あって、第一部だけで大量に投票をもらい、私のカリスマレベルはすでに進級ができる数値にまで達している。
これなら、学校もお母様も、誰も文句は言わないだろう。私は白佐藤家の令嬢として、正解の道を進んだのだ。
ただ……
正解をなぞるだけでは、私は満足できない。
――正解があるのなんて、高校レベルまでの話。
これは数学でも同じだ。数学は答えが決まっている学問だと思われがちだが、決してそうではない。大学では、「そもそも答えが存在するか分からない問題」や、「真偽すら証明できない命題」が普通に出てくる。
数学は“確実な世界”じゃなくて、“不確実さと向き合う学問”だ。
そのおぞましいほどの底知れなさ。宇宙のような果てしなさ。そういう学問に私はハマったのだ。
だから私は、第二部で「白佐藤かな」の全てを出し切る。私らしさを全力で詰め込み、確実な正解ではない、不確実な道へと進むつもりだ。
たとえそれが正解でなくても、その方が「私らしい」って思うんだよね。
私らしさを意識するうえで、私は私のことを、頭が沸騰するくらいたくさん考えた。
例えば、そうだなあ。これはどちらかと言えばの話だけど、私は学んだものをそのまま使うよりも、アレンジして、自分独自のものにするのが得意だってこととか。
これはきっと、オジサマの前世のお姉様方や、私の出会ってきた素敵な人たちに影響されて育ったからだろう。
みんな、独自の哲学を持っている。そこに良い悪いはなく、お姉様にはお姉様の、さくらにはさくらの、よーこにはよーこの哲学がある。
その哲学には、そこに至るまでの人生の過程が絶対にある。
私はその人独自の考え方から人生が垣間見えた時、すっごく幸せだなあと感じる。だから、ちょっと尖った人や、人と違う考えを持つ人が好きなのだ。
ただ、独特であればあるほど、にっぽんという国では浮いてしまうことも多々ある。にっぽん人は和を乱さないことを良しとしてきたので、それは文化といっても過言ではないだろう。
それがにっぽんの良いところでもあるが、悪いところでもあるんだよね……
だから私は、そういう独特な人に寄り添う。考えに同調はできなくても、決して孤独だけは感じさせないように、小中学時代を過ごしてきたつもりだ。
第二部では、私のそういうところを詰め込んだ、自分独自のダンスパーティーを披露する予定だ。
テーマは「白佐藤家が誇るにっぽんの美しい文化と、海外の文化の融合」
この回で、私は私なりの哲学を披露する。
「よし!黙祷終わり!」
さて、第二部が始まるまで、あと2時間ほどある。そろそろ準備しよう。
私はメイクを落とし、シャワー室で軽くさっぱりしてから、用意していたドレスに着替えた。
「ん?」
ふと、入口側の扉のところに一通の手紙が落ちているのに気がついた。
手紙を拾い上げ、読んでみる。差出人は不明だ。内容を大まかに要約すると、「第一部が良かった」という感想と「扉の外に差し入れを置いておきます」とのことだ。
「おほー、ありがてぇ! ……でも、よく私がこの部屋に居るって分かったなあ。お姉様にしか言ってないし、セキュリティの関係で部屋の特定は難しくなってるはずだけど……ま、いいか」
扉を開けてみると、たしかにそこには紙袋にたくさんの駄菓子や、スイーツ、ガム、グミなどの市販品、あとは「水筒」が一つ入っていた。
差し入れのラインナップは、好きなものばっかりだ。どうやら、私のことにかなり詳しい人が差し入れをしてくれたみたいだ。
これは一つだけ浮いている水筒も期待できると、ウキウキしながら水筒を開ける。
湯気とともに、ほんのり甘酸っぱい香りが広がった。
ストロベリーティーだ!私、結構好きなんだよね。
「誰か知らないけど、なんにも食べてないからお腹ペコペコだったんだよ。いただきまーす!」
この時、もっと心の中のオジサマの「なんか怪しい」という小さな声に、耳を傾けるべきだった。
ストロベリーティーを飲んだ直後、突然身体がリラックスモードに入り……
まどろみのような気持ちよさに身を任せているうちに、意識がゆっくりと遠のいていった。
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