7話 思い出す 前編
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「おい。いい加減お嬢様モードになれ」
「へいへーい。分かってますよ。ちゃんと会場についたら真面目にやりますよ。魔王様」
「……俺を魔王と呼ぶなと言っているだろうが」
今日私は、お姉様の代理で生徒会の仕事を手伝っている。今は学校から会場へ車で移動中だ。
この日は、いわゆる「行商」の日。
行商とは、学校に通う天才共の能力や個性をプレゼンし、企業の社長や財閥の人たちに投資してもらうための会だ。
一応、「私立カリスマ学園・ネクストジェネレーションズ・フォーラム」みたいな長ったらしい名前があるが……長すぎるので、庶民科のみんなは行商と呼んでいる。
車内で揺られながら、私は食べていたベビースターラーメンの残りを、小袋から直接口にぶちこんだ。
あ゛あ゛あ゛キマるー。この喉にこびりつくようなしょっぱさが最高だ。普段あっさりとした和食が多い分、たまに食う油と塩分がたまんねえ。
そんな私を生徒会のファビュラスな奴らが呆れた目で見ている気がするが……まあ、かなちゃんはそんなことは気にしない。ゴーイング・マイ・うぇ~い。
今の生徒会のメンバーは、「ドレスよりスニーカー」のヒーロー共5人、お姉様、よーこの7人からなる組織だ。ただ、メンバーの狼牙とお姉様が「秘密の諸事情」により休み、よーこは今、マグロ漁船に乗っているとかで休みなので、穴埋めとして私が来た。
ちなみに、ヒーロー共5人の内訳は、三馬鹿である魔王様、不憫、腹黒と、転校生のカイコ……じゃなくて、ミズクラゲ、後は狼牙だ。もちろん狼牙以外は私が勝手につけたあだ名ね。
相変わらず三者三様、いや、今は男が四人いるから、四者四様か?
今日もコイツらは無駄に顔が整っている。想像力豊かな思春期の女性には、コイツらって刺激が強すぎるんじゃないかな? と、いつも思う。
例えば、今私に声をかけてきた魔王様は、視線だけで女を孕ませそうなほど色気がある男だ。今も車に揺られているだけだというのに、長いおみ足を偉そうに組んでいる。
魔王様のセンターパートに分けたワインみたいな暗い赤色の髪が揺れた。その隙間から覗く赤茶色の目が、無駄に前を睨みつけていた。
幼い頃、魔王様を始めとする三馬鹿とは一悶着あったが、今では軽口を叩く程度に上手くやっている。家どうしのつながりが深いし、こいつらも成長したからな。クソガキだったあいつらも、今や立派に家を背負う青年だ。
関わる機会が多い分、三馬鹿と私は本当に紆余曲折あったんだよね。
そうだなあ……暇だし、魔王様との思い出でも振り返ってみるか――
魔王様とは乗馬のお稽古が一緒だった。
私が中学一年の頃、魔王様の顔色が悪い時があった。いち早くそのことに気がついた私は、手を引っ張って無理やり休ませ、魔王様の家に連絡し、飲み物を与えた。
迎えの車に手を引いて連れていく道中、何故か私は壁に追い詰められ、熱っぽい目でこう迫られた。
『お前、俺のものになれよ』
『おととい来やがれ』
その直後、気絶した魔王様を車に運んだのだが……その日以降、なぜか妙に距離を取られたんだよな。あれ、なんだったんだろう。
魔王様の思い出を振り返りながら、足をぶらぶらさせるのにも飽きた私は、隣の不憫に話しかける。
「なあ、不憫は相変わらずさくらの尻に敷かれてるのか?」
「…………不憫と呼ぶな。そんなことより、またお前は庶民科で迷惑をかけていただろう。いいか、淑女と言うものはだな――」
「あーあー。聞こえなーい」
不憫は堅物風紀委員長といった男だ。細身で高身長、乾いたオリーブみたいな緑がかったブラウンの髪を、いつもきっちり七三分けにしている。
目元で鈍く光る濃いグレーのメガネを几帳面に直しながら私に説教を続けるところなんて、いかにも真面目そのものだろう。
ただし。
コイツは幼馴染であるさくらと、実の姉の強烈さのせいで女に弱いという弱点がある。
女性と目を合わせるのすら不得意らしく、よく女子生徒と相対して、モスグリーンの瞳が面白いくらい泳いでいるところを、本当によく目にする。
その割に、私とはしっかり目が合う気がするが……ま、それはいいや。
さて、ついでに不憫との印象的な思い出でも振り返ってやるか。
確かあれは、私が小学校高学年の頃――
不憫とは言語教育のお稽古で一緒のクラスだった。
不憫の家はにっぽん最大級の法律グループを束ねる名門だ。家の方針でルールに厳しく、家では落ち着く暇もないらしい。
ある日、家での教育が辛く、本当に限界そうだったので、息抜きに二人でお稽古をサボってカラオケに行ったことがある。
不憫は音痴だったが、なかなか楽しいひとときだった。
時間いっぱい歌い終え、その帰りのこと。カラオケ施設から出ようとする私の手を引いて、不憫は真剣な目で私にこう言おうとした。
『お前のような女となら――』
ただ、その言葉は最後まで言い終えることはなかった。
『あら?あらあらあらあらぁ?』
突如現れたさくらによって、まるで家畜市場に連れて行かれる子牛のように、ズルズルと引きずられていったからだ。
あれ、何を言おうとしてたんだろう。
さて、ついでに三馬鹿の一番下にもかまってやるか。
「もーらい!」
「ああああああ!!!僕のマカロンが!!!」
「隙を見せるほうが悪いんだよ。勉強になったな、腹黒」
「腹黒って呼ぶな。バカ。ボケ。ハゲ。クソ。節操なし――」
腹黒からの恨めしげな目を受け流し、悪口の羅列を聞き流しながら、奪ったマカロンを味わう。軽くて口当たりがよく、甘すぎない。高級なマカロンってやっぱり美味しいわ。
腹黒は、中性的で可愛い王子様系の男だ。
ふわふわの亜麻色の髪、蜂蜜色のタレ目と、泣きぼくろと、普段の立ち振る舞いのせいで、一見優しそうな美少年に見える。ただ、コイツは腹黒くて、策士だ。
一人っ子で親からの愛情をたっぷり注がれたからか、今でもわがままなのが気に食わないので、このようにちょくちょく「この世にはどうにもならない理不尽がある」ということを教えてあげている。
ここまで来たら、腹黒との印象的な思い出も振り返ってあげるか。
確かあれは私が中学二年の頃の話――
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