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心に「オジサマ」を飼うお嬢様のマナー~とんでもない名家のお嬢様なのに、気づけばクソボケ扱いされていました~  作者: ながつき おつ
第三章

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6話 白佐藤ゆり

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 姉 白佐藤ゆり視点



 かなは宝石だ。


 あの頃から明確に、かなのことを宝石だと思い始めた。


 それは、小学生時代、お母様の品格の授業で、白佐藤家流の基本の心を教えてもらったときのこと。


『深く、鋭く。研ぎ澄ませ。何をするにも、これが基本よ。さあ、ゆっくり目を閉じて』 


 黙想、瞑想、内省。


 黙想とは、信念や目的を確認すること。

 瞑想とは、心を空にすること。

 内省とは、自分の欠点を洗い出すこと。


 白佐藤家流は、これを繰り返し、自らを研ぎ澄ましていくらしい。


 私は自然と「刀」をイメージしていた。


 職人によって何度も何度も叩かれた、機能美に溢れ、強く美しい鋼鉄。白佐藤家流とは、自らという強い刀を作り上げるための教えだと、私は解釈したのだ。


 授業終わりにそのイメージを話すと、お母様に「流石ね」と褒められた。漠然と取り組むだけでなく、具体的なイメージを持っておいたほうが、何をするにも効果が出やすいのだそうだ。現にお母様自身も、刀をイメージして取り組んでいるらしい。


 表情には出さなかったが、私は心の中で得意げに笑っていた。


『お姉様は刀をイメージしたんだ!かっこいい!』


 山の向こうから朝日が顔を出した景色みたいな、太陽色の瞳が輝く。


 かなはいつも私をまっすぐ褒めてくれる。劣等感を持とうが、常に私を目指し、追いついて、追い越そうとしてくれる。


 かなが背中を追いかけてくれるから、私はいつだって天才でいられる。勉強も運動もお稽古も、かなが褒めてくれるから頑張れる。


 私はこれからもかなのお姉様として、可愛い妹の先を行こう。私はかなほどキラキラしていないから、せめてそれくらいできるはずだ。


 この時の私は、呑気にそう思っていた。


『……ちょっと待ちなさい。かな、あなたは何をイメージしたの?』


 お母様がいつもより半音ほど低い声で、かなに問う。


「えっとねえ。私は“宝石”をイメージしたよ!」


 星屑をちらしたようなキラキラした目で、かなは具体的なイメージを語っていった。


 宝石の原石を、削って、磨き上げる。丁寧に丁寧に、とにかく角を削って、丸くなるように研ぎ澄ましていく。

 


――背筋がぞっと冷えた。


 私はこの日初めて、かなに底しれない末恐ろしさを感じた。


 同じことを教えられても、こんなに解釈が違う……


 私たちは双子でも、ぜんぜん違う別の生き物だったのだ。


(そっか……私がかなよりも先に進んでいたと勘違いしていただけで、かなは独自の道を進んでいたんだ)



 この日以降、私はかなに対し、一本の線を引いて接することにした。かなのことを、自分の一部のように考えていたことに気づいたのだ。


 かなは自分と同じではなく、違う生き物。


 そう考えるようになったからだろうか? 私はかなにどんどん夢中になっていった。


 かなはただそこにある宝石じゃなくて、自分のことを好いてくれる宝石だ。そんなの、心惹かれるのは当然だろう。


 かなも私のことをもっと好いてくれるようになった。案外かなは宝石よりも、刀のような「機能美」あふれる物が好きだったりする。かながお母様や私に惹かれるのは、そのせいだろう。


 お互いのことが好きである限り、私たちは間違っていない。


 そう信じて、私たちは今に至るまで自分を研ぎ澄ましてきた――



 そんなある日、一人の宝石泥棒が現れた。


 そいつは明らかに、かなのことを目で追っていた。


 何となく気に食わなくて、私もそいつのことをずっと見ていた。


 ただ、どうやらそいつは自分の気持ちには無頓着なようだった。明らかにかなに恋しているのに、自分の気持ちを全く理解していない。


 ただ気になるというだけで、そいつは何年も、何年も、何年……ずっとかなと共にあり続けた。


 そいつの気持ちが分かっていても、私だってかなの一番になりたかったので、そいつにはなんにも伝えなかった。無駄にライバルを増やす必要なんてない。


 現状、一番のライバルはお母様だ。かなは私のこともお母様のことも好いているけれど、比べるならば、まだちょっとだけお母様のほうが好きだ。


 打倒、お母様。毎日あの高すぎる壁を越えようと、私は必死だった。



 ただ、もどかしさが積もり積もって、ある日、我慢の限界が来てしまう。


『ねえ、狼牙。あなたってかなのこと、好きよね?』


『……??!!??』


 私がつい漏らした言葉に、狼牙は明らかに混乱していた。


 あれだけかなに執着しているのに、恋をしているとは微塵も思っていなかったようだ。


『僕が……かなのことが好き……? ほ、保留!』


 そう言って、狼牙は走り去ってしまう。


 そうそう、この時は、狼牙はまだ自分のことを僕と呼んでいたっけ。


 やっちゃったなあと後悔しつつ、少しだけ爽快感があった。これからは、一緒にかなのことを語れる仲間ができるんだろうなあと、おぼろげに思っていた。



 ただ……


『師匠。どうすればかなは僕と結婚してくれますか?』


『師匠って呼ばないでくれる?』


 なぜか、この日から、狼牙が私の弟子となっていた。



『……うん、そうね』


 少し頭を悩ませた上で、結局私は「狼牙がかなを手に入れるための師匠」という立場を受け入れた。


 よく考えれば、私にもメリットがあると判断したのだ。


 そしてその師弟関係は、今でも続いている。



「いい?かなの心を手に入れるのは、相当難しいわよ。あの子は恋愛に疎いし、ああ見えて案外貞操観念も固い。それに、私やお母様という、好き過ぎる存在までいるわ。私達より好感度を稼ぐのは無理と、きっぱり諦めなさい」


「ッス。かなの一番は、師匠と師匠のお母さんってこと、ちゃんと分かってます」


「それに、かなはちょっと考えられないくらいモテるわ。男の子も、女の子だろうが、ライバルは山程いる。それこそ、私だってかなと一生を共に過ごすつもりよ。だから、独占することは許さないわ」


「ッス。俺はただ、かなの帰る場所になりたいだけです」


「……そうね。分かっているならいいわ。では、そろそろ計画も詰めの段階ね。これまで通り、とにかく行動よ。あなたは言葉でのコミュニケーションが下手くそなんだから、行動で示すしかないわ。今まで通り外堀を埋めて、言い訳を完全に潰してからが勝負ね。あとは――」


 かなは「恋に憧れる」という感覚がないうえに、恋愛観もまともに育っていない。今までは、心身共に、恋愛をする準備ができていなかったはずだ。

 

 ただ、最近かなの纏う香りが、少し女性らしいものに変わった。きっと、身体が成熟した女性へと至ったのだろう。

 

 後は心の問題。関わる人全てが魅力的に見えてしまうかなにとって、恋愛という一人に絞る選択は、とても難しい行為のはずだ。

 

 そこはもう、狼牙の頑張りどころね。これまで私と、狼牙のお母様との協力のもと、必死に努力してきた狼牙なら、ギリギリなんとかなるのではないでしょうか。


 逃げ道を完全に塞いで、退路を断ち、言い訳を完全に潰して、本能に訴えかければあるいは……といった予想ね。



 恋愛という概念が持つ力は、疑いようのないくらい強い、と私は思う。だからこそ、かなには恋愛を経験してほしい。そして、今まで経験してこなかった恋愛ですら自分の生きた知識・経験にして、自らの武器として振る舞うかなの姿が、私は見たいの。



 かな……そろそろあなたも、収まるところに収まりなさい。きっとこのままじゃ、一生あなたは独り身よ。


 それでも私がずっと面倒を見るからいいのだけど……かなの場合、安心できる異性と両想いになって、色気を手にした時、あなたの輝きに艶が出ると思うの。


 そんな目一杯輝くあなたの一番になるのが、私の目的。狼牙にも、お母様にも負けるつもりはない。


 かな、好きよ。色んな刺激を受けて、日を追うごとにキラキラが増していくあなたのことが、世界で一番大好き。


 あなたのピンクダイヤモンドに光る長髪が揺れるだけ。それだけで、私は心を奪われる。あなたとDNA配列が同じということが、私の密かな自慢なの。


 あなたは私の宝物よ。


 私のためにも、あなたはもっと幸せになりなさい。あなたの幸せを、誰よりも願っているわ。



感想、ツッコミ等、じゃんじゃんお待ちしています。


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