5話 たわむれる
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「アイシャドウよし、ハーフツインよし。うん、今日もマジ機密事項」
「機密、漏れる……ああ、“マジ盛れてる”ってこと?今日のはちょっと無理があるんじゃない?」
「自分で言っててなんだけど、よくこんな意味不明のボケを拾えたね。流石お母様。愛してるぜ!」
「はいはい、行ってらっしゃい。あんまり問題を起こさないようにね」
「はーい」
いつものようにメイクもばっちり決まっている。天気もいい。お手伝いさんの作る塩鮭と松茸の炊き込みご飯も、お味噌汁も絶品だった。
爺やの運転も快適だし、今朝私の豊満なおっぱいに隠しておいたハッピーターンもおいしい。お気に入りのヘッドフォンからクリアに聞こえてくる大好きなゲーム音楽も最高だ。
一週間ほど前、学校の休憩時間に缶蹴りをしてて、先生の頭に缶を当ててしまった事故のことも、お母様にバレていなかった。
それなのに……
「はぁー」
なんともまあ、今日はテンションが乗り切らない。
(それにしても、お姉様は何をしているんだろうね)
そんな様子を見て、オジサマが私に声をかけてくれた。
「お姉様……」
思わず声が出る。
いつも隣に座るお姉様が、今日はいない。昨日も、一昨日もだし、多分明日もいないと思う。
お姉様は剣道の試合の次の日、こう言った。
『かな、しばらくのあいだ、少し狼牙を借りるわね。ちょっと二人で秘密の会議があるの』
あの日からずっと、お姉様は狼牙の家に泊まっている。
私は別に、常にお姉様と一緒じゃなきゃ調子が出ないってわけではない。小中学校の時は双子ということで同じクラスになることはなかったが、その時はこんな感じではなかった。
私の今の感情を一言で表すのなら……
「つまんなーい!」
私はいつものように庶民科の教室に行き、さくらとよーこにそう話していた。
「うざい!くっつくな!腰に抱きつくな!はげ!」
「ほら、かな、よしよし。うふふ~」
「えへへ~。流石さくら。よしよしスキルがとんでもないね。ごちゃごちゃっとした気持ちがとろけていくわ。ほら、よーこもさくらを見習って、撫でて?」
「……ほんと、金持ちどもはパーソナルスペースって言葉を知らないのかしら。ほら、もう授業始まるわよ。かいさーん」
「い゛て゛っ」「いったーい」
私たちのダル絡みは、よーこのデコピンにより解散させられた。
こうやってどんな名家のお嬢様や御子息にだって容赦ないから、よーこは問題児なんだよね。
ふふっ、そういうところ、だーいすき。
「さて、今日もせっせと授業に励みますかね……あっ、そうだ。私と同じ数学の授業を取ってる庶民共。次のテストで私より低い点数を取ったなら、煽りちらしてやるから覚悟しておけよ。じゃーな!」
私の宣言によって、この教室は騒がしくなった。
庶民科の人間はセレブ科よりも、圧倒的に数が多い。それは、色んな才能の持ち主だけでなく、「勉学」が著しく得意な才能の持ち主も、かなりの数入学しているからだ。
特によーこの居るこのクラスは、超有名大学を目指すレベルの者が集められているので、学力には自信がある猛者ばかり。
そんな高偏差値の奴らが、お姉様や三馬鹿どもに負けるのならまだしも、私のような「クソボケ問題児お嬢様」に負けるなんて絶対に嫌なことだろう。
庶民科の野郎どもめ、私をクソボケ扱いしたこと、後悔させてやるからな!
「はあ……かなって数学だけじゃない。こっちは全科目で戦ってるっていうのに、ほんと……」
教室を去りながらも、よーこのため息混じりのつぶやきはしっかりと聞こえていたが、都合が悪いことは聞こえないことにするのが、かなちゃん流だ。
「ねえ、かな?」
「なんだ?」
セレブ科の廊下を優雅に歩きながら、さくらと二人で話す。
「寂しい?」
さくらの大きなオレンジの瞳が、私を見透かすように光る。
さくらはいつも、マイペースで、放っておくとどこかへ行ってしまうくらい、常にふわふわしている。
たくさんの男性を所構わず恋愛沼に落としたり、先生から生徒、少年からおじいちゃん、挙句の果てには家庭を持っている旦那さんまで、いろんな疑似彼氏がいる。さくらが一言指示を出せば、命を削ってまで言うことを聞く男も数多く存在するだろう。
そんな問題児でも、彼女の観察眼は本物だ。
誰よりも周りを見て、誰よりも人の気持ちに敏感なさくらがそう言うのなら、本当は少しさみしいのかもしれない。
「だって、今までお姉様が私に秘密なんて持つことはなかったんだよ。むぅ……私が最高に幸せになるためには、お姉様と狼牙が絶対に必要なのに……」
「狼牙君は今、時の人だからね。私の情報網によると、忙しい狼牙君の秘書みたいなことをしてるんだって~」
そう、狼牙は今、かなり忙しくしている。
あの剣道の試合の一件以降、狼牙は大量に挑戦状を叩きつけられるようになったそうだ。
『文句があるやつは、まず俺を倒せ。俺はどんな勝負だろうが、受けて立つ』
その言葉を受け、本気で狼牙を倒そうとする者や、狼牙の実力を確かめたい血気盛んな天才共、果ては私のことが好きな女の子まで、全ての挑戦を受けているらしい。
「でも、それだけなら私に秘密にすることなんてなくない?」
「そうなんだよね。うふふ~」
「……なんでさくらはそんな楽しそうなんだよ。もしかして、何を秘密にしているのか、だいたい察してる?」
「さくらちゃんは何でも知ってるのです!でも、かなには教えてあげなーい」
さくらはアイドル顔負けの綺麗なウインクをして、いたずらっぽく笑った。
「もう、可愛いなあ、このこの!」
「やめてよ~、さくらの自慢のツーサイドアップが崩れちゃうじゃん!」
私たちが廊下で戯れていると、お行儀に口うるさいセレブ科の教師が、深いため息を吐いた。
「そこのツインテーズ。さっさと教室に戻りなさい。いつも言ってるでしょ、授業が始まる5分前には準備を済ませておきなさいって」
「「はーい」」
もう授業が始まるまで1分くらいしかないので、「ツインテじゃない!」という反論はせず、さっさと教室に戻っていった。
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