表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

第2話 「光の序列、影の教室」

 朝の光が、薄いカーテンを透かして部屋に差し込んでいた。

 天城蒼はベッドの上で静かに息をつく。

 ここに来て三日――まだ、この学園の“現実”を掴みきれていなかった。


 《アカデミア・ルミア》。

 序列によってすべてが決まる学園都市の中枢。

 入学時点で、すでにSystem:∞によって各生徒の序列は定められ、

 その序列に応じて五つのクラス――α、β、γ、δ、ε――へと分けられる。


 蒼が配属されたのは、最下位のεクラス。

 それが何を意味するのか、まだ理解できていなかった。


 制服の襟を整え、タブレットを起動する。

 画面には冷たい数値が浮かぶ。

 > 【Rank Node:0.01】


 この学園では、すべての生徒に「Rank Node」と呼ばれる数値が与えられる。

 行動、発言、成績、他者との関わり――

 System:∞はそれらを自動的に解析し、数値を変動させる。


 ただし、その数値は本人以外には見えない。

 誰がどれほどの値を持っているのか、誰も知らない。

 だからこそ、誰もが互いを疑い、探り合う。

 序列という“見えない鎖”が、学園全体に張り巡らされていた。


 寮を出ると、朝の通路はすでに無数の光で満ちていた。

 ガラス張りの廊下を歩くたび、頭上のスキャナーが反応音を鳴らす。

 Systemは、すべてを見ている。

 そう思うだけで、肩の力が自然と強張った。


 教室の扉を開けると、既に数人の生徒が席に着いていた。

 皆、一様に無言で、自分の端末と向き合っている。

 窓際に一人、少し気さくそうな少年が手を振った。


 「……ここ、空いてるぞ」


 蒼がうなずいて隣の席に座ると、少年は軽く笑った。

 「俺、御影湊。よろしく」

 「……天城蒼」

 「なんか、全員静かすぎないか? 入学したばっかだろ、みんな」

 「たぶん、緊張してるんだと思う」

 「緊張っていうか……監視されてる感じだよな。目に見えない誰かに」


 その言葉に、蒼は小さく反応した。

 System:∞――その名を、彼はまだ恐る恐るしか思い浮かべられなかった。


 やがてチャイムが鳴り、空間が淡く光を放つ。

 教壇の上に立体映像が現れ、Systemの無機質な声が教室に響いた。


 > 《クラスε、初回講義を開始します。

 > あなた方のRank Nodeは、学園生活のすべてを通じて変動します。

 > 半年後のクラス再編において、この値が最も重要な指標となります。

 > 他者の値は閲覧できません。推測は非推奨です。》


 淡々とした声が、静まり返った空間を支配する。

 誰もが息を潜めるように聞き入っていた。

 だが蒼には、その言葉の一つひとつが胸に突き刺さった。


 ――半年後の再編。

 上がれる者と、下がる者。

 そして“下がりきった者”は……。


 Systemは説明を続けた。

 > 《Rank Nodeは、学園内の行動、課題、活動への貢献度、

 > そしてSystemからの特別指令により変動します。

 > 不正行為が検知された場合、減点対象となります。》


 教室の空気が少しずつ重くなっていく。

 誰もが“何をどうすれば評価されるのか”を理解できずにいる。

 見えない評価基準。

 それが、静かな恐怖を生み出していた。


 授業が終わると、湊が机に頬杖をつきながら言った。

 「なぁ、これ……本当に、勉強するための学校なんだよな?」

 蒼は曖昧に笑って返すしかなかった。

 「そうだといいけどな」


 廊下に出ると、上位クラスの生徒たちが談笑する声が聞こえた。

 彼らの歩く姿にはどこか余裕があり、周囲の空気までも明るく見える。

 ――きっと、彼らのRank Nodeは高い。

 そう思った瞬間、自分の胸の奥がひどく小さく感じられた。


 教室に戻る途中、蒼の耳に微かなノイズが走った。

 電子音が歪み、誰にも聞こえない声が混ざる。


 > 『……観測、拒否。……起動、LUX……』


 足が止まる。

 周囲を見渡しても、誰も異変に気づいていない。

 Systemの音声なのか、それとも……。


 光の都市リュミエールは、今日も完璧に輝いていた。

 だがその光の奥に、確かに“何か”が潜んでいる気がした。


 ――そして、それが蒼を見ている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ