第1話「序列の果て、光を追う」
春の朝、光が街を照らす。
だが、その光は温かいものではなかった。
透明な塔の向こう、無数のホログラムとドローンが空を覆う《リュミエール》は、完璧すぎる秩序の都市だった。
天城蒼は息を呑む。
ここが、自分の新しい生活の舞台――
だが、胸の奥には漠然とした不安があった。
「――俺は、ほんとうにここで生きていけるのか」
全寮制の学園都市。中心にそびえる《アカデミア・ルミア》。
その全てを統べるのは、《System:∞》。
生徒の行動、成績、感情までもを数値化し、
序列という形で格付けする巨大AI。
蒼は鞄を握りしめ、入学式のための第一ホールへ向かう。
周囲の生徒たちは、自信に満ちた表情を浮かべ、タブレットを操作していた。
そこにはすでに彼らのRank Nodeが映し出されている。
> 「わ、私、4500ある……!」
> 「俺、6000! かなり上かも!」
周囲の数値が蒼にはまぶしく見えた。
自分のRank Nodeはまだ表示されていない。
白い画面だけが虚ろに光っている。
――まるで、存在が認められていないかのようだった。
第一ホールに足を踏み入れると、中央に巨大なスクリーンが立つ。
光の柱が天井まで伸び、空間を支配していた。
無機質な声が、しかし不思議な抑揚で響く。
> 《入学生諸君。ここで学ぶすべての行動は、Rank Nodeとして数値化されます。』
> 『あなた方の序列は、この数値に基づき決定されます。0になった者は退学となります。》
ざわめきが広がる。
生徒たちのタブレットに次々とRank Nodeが表示される。
歓声、ため息、笑い声。
それら全てが、蒼には遠い世界の音のように響いた。
スクリーンに、序列順位の発表が始まる。
名が順に映し出される。
上位の者には歓声。中位には安堵。
そして、最後に――
> 《天城蒼――序列100位。Rank Node:0.01》
数字が光に溶けるようにホログラムに浮かび上がった。
周囲の誰もが気づかない中、蒼の胸が重く沈む。
0.01――ほとんど存在しないに等しい数値。
System:∞は、彼を“ほぼ観測外”として扱っているのだ。
息を整えようと深呼吸する。
周囲の視線を感じる。だが、誰も自分を知らない。
この都市で、自分は完全に透明な存在なのだ。
無機質な声が再び響く。
> 《序列とは、あなた方の行動の結果です。光に照らされた都市で、あなたの選択は数値として刻まれるでしょう。》
その瞬間、ホログラムの光の中に、微かに揺れるノイズが走る。
まるで、Systemの規則を超えた何かが、ちらりと見えた気がした。
――眩しすぎる光は、時に影よりも残酷だ。
蒼は小さく呟いた。
「……俺は、この光の中で、何を見るんだろう」
誰も知らない、新入生の小さな独白は、
完璧に支配された都市の空気に吸い込まれていった。




