コード079 悪運ーsideレクスー
表から見れば、ただの中古端末とジャンクパーツの仲介店。
半分ほど光の死んだホログラム看板が、店名もまともに読めないまま明滅している。
ガラス張りのショーケースには型落ちの携帯端末や認証チップ、用途不明の基板に片方だけのギア用コネクタなんかが雑多に並べられていた。ミドルズとは思えないほどのボロ屋だ。
俺は店内に入り、ぐるりと見渡す。まず目につくのは壁一面の棚だった。
店内は狭く、規格もメーカーもバラバラな箱が隙間なく積まれ、ところどころに手書きのタグがぶら下がっている。
中央には傷だらけのカウンター。表面には何度も端末を置いた跡と、消しきれなかった焦げ跡が残っていた。
カウンターの端には飲みかけの合成コーヒーと、開封済みのスナック。壁際では古い音楽プレイヤーがノイズ混じりの曲を垂れ流していた。
その向こうには椅子が一脚。そこに目的の男が座っている。
俺はそのカウンターに近づき、ポケットからチップを取り出して雑に置いた。
「依頼品だ」
「おっ」
男は胡散臭い笑みを浮かべながら、チップを裏返して眺める。
「へへ。やっぱ旦那に頼むと仕事が早いねぇ」
「そりゃどーも」
「えり……じゃねぇな。今はレクスだったか。いやぁ、あんまりにも雰囲気が違うんで心配しやしたけど、腕はお変わりないようで安心しましたぜ」
「お前は相変わらずだな。悪運」
俺が呆れながら言うと、ラックはわざとらしく頭を掻いた。
「そんなに褒めんでくだせぇよぉ」
「で、お前はどうなんだ?」
「勿論! あっしが旦那の頼みを蔑ろにするわけないじゃないっスかぁ」
ラックは近くの中古端末を操作しながら、俺に画面を見せる。
「予備ルート、車列編成、護衛の数と装備、ダミーまで全部ここにありやすぜ!」
「助かる」
「任せてくだせぇよ」
俺は奴の端末から抜かれたチップを受け取ると、嫌な予感がして自分のギアポートへは挿さず、ヴィクから借りた検疫スキャナへ差し込んだ。すると、不愉快な電子音が鳴った。
無言で奴の額に銃口を押し付ける。
「じょ、冗談ですや〜ん! 本気にせんでくださいよぉ」
「…………」
「あっしと旦那の仲じゃないっスかぁ。ここは一つ、穏便に──」
「ニックに告げ口されてぇようだな」
「それだけは勘弁してくだせぇ!!」
ラックは額を割らんばかりの勢いで頭を下げ、そのままカウンターにぶつける。
「ほ、ほら! 本物はこっちでっせ!」
そして懐から別のチップを取り出し、こちらへ放った。
俺は検疫スキャナから最初のチップを抜き、受け取った方を差し込む。今度は何も鳴らない。
……ったく、油断も隙もありゃしねぇ。
「いやぁ、すんません。変なのが混じってたみてぇで」
「雑な商売だな」
「なんだったらサービスしやすぜ。案内なら任せてくだせぇ」
「野郎二人でか? 勘弁してくれ」
「いい女なら?」
「間に合ってる」
俺は銃をホルスターに戻しながら背を向けた。
「そんなつれねぇ事言わずぅ。土地勘ある方が何かと便利ですって」
「現地調達のが速い」
「ひゅうっ! 相変わらず羨ましい限りで!」
コイツの軽口に付き合うのも疲れる。さっさと予備ルートを確認してホテルで休みたいもんだ。
「そういや旦那ぁ。雰囲気だけじゃなく、女の趣味も変わったようで」
「……何の話だ」
俺は足を止めて振り返る。
「銀髪の……たいそう可愛らしい女の子」
……この野郎。
「どういう関係か教えてくだせぇよ」
「ただの依頼人だ」
「依頼人、ねぇ」
ラックの笑みが深くなる。
「その割には……随分とまぁ、大事にしてるみてぇで」
「勘違いも甚だしいな」
「こっちも商売なんで。裏は取ってますぜ?」
「なら腕が鈍ったな」
……どういうつもりだ?
俺はいつもの表情を貼り付けてラックを見る。
殺すか? いや、わざわざ俺に言うって事は奴にも何か意図があるはずだ。
「そう殺気立たんでくだせぇ。あっしは旦那の味方ですぜ」
どの口が言いやがる。
「あっしらの業界じゃあアンタは有名人だ。旦那の情報だけでも知りたいって奴はごまんといる」
「お前も含めて?」
「それは冗談って言ったじゃないっスかぁ。ただのお茶目っスよぉ」
「どうだか」
俺がさっきのチップを指で潰すと、ラックはあからさまに視線を逸らした。
「あ、あっしが言いてぇのは、どんな理由にせよ、誰ともつるまなかった旦那が連れ歩いてるってだけで目立つって話ですぜい」
「……」
「アンタは恨みを買いすぎてる。この意味が分からない訳じゃねぇでしょう」
……知ってんだよ。そんな事。
「簡潔に言え」
「アンタがミドルズに来んのは大歓迎だ。あっしの仕事が捗る。だからこそ、お荷物と共倒れは困るんですよぉ」
「余計な世話だ」
こちとらそれも織り込み済みだっての。
「そのお喋り癖は直しとけよ。じゃねぇと……次の標的はお前になる」
「それは警告ですかい?」
「いや」
「──ただの事実だ」
暫くラックと睨み合っていると、ラックは参りましたと言わんばかりに肩をすくめた。
「分かりやした。もう首は突っ込みません」
「賢明だな」
「賢明ついでに、忠告もしときやす」
「まだあんのか?」
早く帰りてぇんだけど。
「最近、行方不明が相次いでるのは、アンタなら既に知ってんでしょう?」
「らしいな」
ヴィクも気にしてたやつだとすぐに察する。
「今は無差別にやられてやすが……あれ、元々は裸身ばかり狙われてた事件なんスよ」
「何……?」
「連れのお嬢ちゃん。気ぃつけた方がいいんじゃないですかい?」
「っ!」
くっそ。アイツ、今どこほっつき歩いてやがる。
足早に店の外へ出ると──
「またのご来店を」
扉が閉まる寸前に聞こえた声に舌打ちをした。




