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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第3章 同期編

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コード078 重なる景色

 作戦決行まで残り3日。


 どうせ朝食を食いっぱぐれているだろうレクスに合成サンドイッチを渡すため、ホテルの部屋の扉を思い切り叩いた。


「レクス! 起きろレクス!」

「……朝っぱらから元気ね、お前」


 私は眠そうなレクスにクイックストアの袋を押し付け、そのまま部屋の中へ入る。


「これを見てくれ!!」

「何? またなんか作って──」

「トランスフォーム!!」

『ガジコ……マ、リ』

「……は?」


 私の言葉を合図に、側を飛んでいた直径十センチほどの球体ロボットが動き出した。


『ギ、ガ……ゴゴ』

「え? 何これ怖い怖い怖い」


 ロボットは次々とパーツを展開し、あっという間にホバーボードの姿へ変形した。


「な! 凄いだろ!?」

「ギリキモいが勝つ」

「はぁ!?」


 どういう意味だと睨むと、私の自信作を見るレクスの目は明らかに引いていた。


 ……なんだよその目は。


「どこがだよ! かっこいいだろ!」

「ディスポのゴミが脱皮してるみてぇ」

「変形はロマンだろ!」

「お前のセンスの問題だよ」


 レクスのあんまりな言い分に、ますます腹が立つ。


「ゼヴィも壊そうとするし……何が悪いってんだよ」

「猟犬もビビるなんざ相当だぞ」


 ビビってねぇよ! ちょっと動きに反応しただけだっての!


 私は何がいけないんだと眉間に皺を寄せながら考え込む。


 各部の可動域にも、パーツの展開や収納にも問題はないはずだ。


 ……変形プログラムを適当にコピペしたのが不味かったのか? やっぱ少しぐらい勉強しなおした方が……いや、付け焼き刃よりもプロにお願いした方が早いな。アンダーズに戻ったらカムイに依頼しよ。


 そうだ。動きの問題なら後で直せばいい。それより、コイツはスーパーホバーくんの凄さを何も分かってない。


 私は腰に手を当て、今度こそ分からせてやると口を開いた。


「ホバーボードって地味に重いし、持ち歩くには邪魔だし、毎回出して起動すんのも面倒だろ。でも、このスーパーホバーくんなら普段は自律追従してくれるから手ぶらでいいし、必要な時だけ変形させることができる優れものだぞ! しかも、ノヴァテックの旧式多層フレームって本来はギアの収納補助に使うやつなんだけど、あれ可動軸が多いわりに軽いから逆組みすればこのサイズまで畳めるんだ。ただ制御系までノヴァテックで揃えると高いからシンセスの廃棄モジュール噛ませて、変形シーケンスは互換コードを適当に引っ張ってきて、追従制御には障害物回避と所有者識別も入れたし、電源もヘリオスの旧型セルなら小さいくせに出力余るくらいだから航続時間も──」

「あー、おーけい。分かった。便利なのはよぉく分かった。とりあえずお前さ、名前にスーパーつければかっこいいと思ってね?」

「かっこいいだろ」

「その発想がダセェ」

「もういい!!」


 なんだよなんだよ。せっかく自信作できたから見せようと思ったのに……。


「調査行ってくる!!」

「おー、行ってこい。行ってこい」

「レクスなんて知らないからな!!」


 私は部屋の前に待機させていたゼヴィを呼び、そのままホテルの外へ飛び出した。


 そして、通りに出たところで足を止める。


「……見る目なさすぎだろ」


 こんなにかっこいいのに……センスないのはレクスの方だろ。


『ガ、ギギ……?』

「お前は悪くない。悪いのは見る目のない奴らだ」

「……ヴィク?」


 私はスーパーホバーくんを変形させ、その上に飛び乗った。


「行くぞ。今日は画像の場所、絶対見つけるからな」

「ヴィク、怒ってる?」

「怒ってない」

「怒ってる」

「怒ってないって言ってんだろ!」


 まずは昨日までに潰したブロックを除外して、残っている候補を順に回る。手掛かりになりそうなものは少ないが、片っ端から見比べればそのうち引っかかるはずだ。


 私はゴーグルの位置を直してからフードを目深にかぶる。


 ……レクスのばーか。女遊びでもなんでも勝手にしてろ。


 私は少し強めにアクセルを踏み込んだ。




 そうして調査すること暫く。このブロックのクイックカフェ24を全て見回ったが、画像と一致する場所はなかった。


「全っっっ然見つかんない……」


 私はゼヴィと並んでベンチに座り、クイックカフェ24でテイクアウトしたカフェラテを飲みながら、目の前を絶え間なく行き交う人の流れを眺めた。


「どこにあんだよ……」


 思わず項垂れていると、隣で合成ホットサンドを食べていたゼヴィが、それを半分こちらへ差し出してくる。


「……いらない」

「そうか」


 私の返答に、ゼヴィは少しだけ首を傾げてからまた自分で食べ始めた。


「闇雲に探すのも限界なのかなぁ……」


 やはり、画像の場所を探すのは市民権を手に入れてからにするべきか?


 けど、今だからこそ多少無茶ができるってのもある。


 今使っているのは、所詮は偽装チップだ。そもそも今の私には、犯罪歴を紐づけられる正式な市民データすら存在しない。正規の未登録チップを手に入れて、新しく市民として登録してしまえばそれで終わりだ。


 だからこそ、ミドルズでも荒っぽい手を使える今のうちに、調べられるだけ調べておきたかった。


 とはいえ、偽装チップを取り替えながら何度も出入りするのも危険だ。


 認証のたびに照合されるのはチップだけじゃない。顔や体格、ギアの構成なんかも見られている。同じ人間が別々の市民情報を使って何度も認証網を通れば、いくらチップを変えたところでそのうち不正を疑われる。


 そうなれば詳細検査に回される可能性も高くなるし、本命の識別チップを奪うどころじゃない。


 この偽装身分で自由に動けるのも、今回限りに近いと考えた方がいいだろう。


 かといって、識別チップを奪った後にのんびり調査する余裕もない。向こうに止められる前に情報を書き換えて、登録まで済ませなきゃ全部パァだ。


「……やっぱ、時間足んないよなぁ」


 そうぼやきながらカフェラテを口へ運んだところで、ふと昨日聞いた言葉が頭を過った。


 ──『この前もあったでしょ。三つ向こうのブロックで』──


「……三つ向こう」


 何日も連絡がつかなくなって、その後帰ってきた奴がいるって言ってたな。


「……」


 別に、首を突っ込むつもりはない。第一優先すべきことも分かっている。でも──


「ちょっとだけなら……」



   ◇ ◇ ◇



 スーパーホバーくんをぶっ飛ばして着いたブロック。


 相変わらずシンセスらしい技術が使われたホログラムによって、美しい景観が作られている。


「さて、カフェの位置はっと……」


 私はホログラム掲示板に記載されたバーコードを端末で読み取り、地図データをインストールする。


「うげ、めっちゃある」


 分かっていたこととはいえ、確認するたびに気が滅入る。


 けれど文句を言っている暇はない。最適ルートを割り出し、ナビ機能を起動して自身のゴーグルに反映させた。


「行くぞ、ゼヴィ」

「何するんだ?」

「カフェ巡りだ」


 そんな軽口を叩きながら最初に表示されたクイックカフェ24へ向かう。


 一軒目、二軒目と見て回るがやはり一致する場所はなかった。


 三軒目へ向かう途中で画像に似た看板を見つけて期待したが、隣の建物の形がまるで違った。


「……次だな」


 そうして四軒目へ向かうため、スーパーホバーくんで大通りを曲がった時だった。


「……ん?」


 視界の端に映った景色に違和感を覚え、アクセルから足を離す。そのまま数メートル進んでから停止し、ゆっくりと後ろを振り返った。


「ヴィク?」

「ちょっと待て」


 ナビ表示を閉じ、代わりに保存していた映像をゴーグル上へ呼び出す。


 ザイラスもどきの脳から辛うじて取り出せた映像。


 数枚しかないうえ、どれも鮮明とは言い難い。人の顔も文字も潰れ、場所を特定できそうな情報はほとんど残っていなかった。


 そのうちの一枚を表示し、目の前の景色と見比べる。


「……これ」


 さらに比較しやすいよう、数歩ずつ横へずれながら景色と重ねていく。


 道路を挟んだ向こう側にクイックカフェ24。その隣には、壁面の大半をホログラム広告に覆われた細長いビル。さらに奥には、歩道へ大きく張り出した半円形の連絡通路が見える。


「……ゼヴィ、そこ立ってろ」

「?」


 画像が記録されたと思われる場所まで移動し、体の角度も合わせる。


「……マジかよ」


 クイックカフェ24の看板。隣のビル。連絡通路。道路脇に並ぶ街路灯まで全てが重なった。


「ここだ」


 思わず声が漏れる。


「ここだよ、ゼヴィ!」

「! 壊していいのか!?」

「まだ早いって!!」


 興奮して身を乗り出すゼヴィを押し戻しながら、私は急いで別の画像を開いた。


 一枚だけじゃ偶然かもしれない。


 次の画像には建物の外壁と、その手前に設置された縦長のホログラム広告。それから端の方に、特徴的な三本柱の街灯が写っている。


「……あれだ」


 少し離れた場所に同じ街灯が見えた。


 私は画像を確認しながら歩き、角を一つ曲がる。


 ……あった。


 ホログラム広告の位置も、外壁の継ぎ目も一致している。


 三枚目も続けて表示させると、今度は細い路地の向こうに、紫色のよく知らないロゴが半分だけ映っている。


「こっちか?」


 画像の角度を頼りに辺りを見回し、さらに一本隣の道へ入って確信する。


「……全部、この辺じゃん」


 数枚の画像はそれぞれ別の場所を写していた。


 けれど、離れてはいない。歩いて数分程度の範囲。少なくともザイラスもどきは、この一帯を移動していた。


「……なんだよ」


 昨日、何気なく聞いた話。


 三つ向こうのブロックで人が消えた。その人間は記憶の一部を失い、なぜか以前よりギアの調子が良くなって帰ってきた。


 そして今、そのブロックでザイラスもどきの脳に残されていた景色が見つかった。


「……出来すぎだろ」


 まだ関係があると決まったわけじゃないし、何の証拠もない。


 ここがただの通り道だった可能性だってある。


 でも──。


「ゼヴィ」

「なんだ?」

「ちょっと、この辺調べるぞ」


 首を突っ込むつもりはなかった。本当に、ちょっと見るだけのつもりだった。けど……。


「……見つけちまったもんは、仕方ないよな」




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