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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第3章 同期編

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80/80

コード80 第七ブロック

 ブロック内を歩き回ること一時間。画像の場所こそ見つけたものの、それ以外に目ぼしいものはなかった。


「……まぁ、分かりやすく怪しいわけないか」


 私たちが違法滞在しているホテルだって、外から見れば何の変哲もないホテルだ。


 ザイラスもどきを作れるような連中が、わざわざ目立つ真似をするはずもない。そんな分かりやすい奴らなら、とっくの昔に尻尾を掴まれてる。


「いい線いってると思うんだけどなぁ」


 地図上の画像と合致する場所に点を打っても、法則性は見えてこない。


 唯一気になったのは、市警(メカドッグ)が多く配置されてることぐらいか。


 二日間見回ったブロックの中では、ここがダントツで多い。今も一台の市警巡察車(センチネル)が通り過ぎていった。


「お前の鼻も反応しないしなぁ」

「?」


 ゼヴィは首を傾げながらくっついてくる。


「呼んだわけじゃない。離れろ」


 全く、行き詰まってばかりだ。


「かくなるうえは──」



   ◇ ◇ ◇



 私は大通りから一本外れた路地脇のベンチに腰掛け、何食わぬ顔で携帯端末を弄っていた。


 画面に表示しているのは、この辺りのマップデータ。傍から見れば、道でも調べているようにしか見えないだろう。


 ゼヴィにも大人しく隣へ座るよう言いつけ、適当に買った合成スナックの袋を開けて持たせた。


「食ってていいぞ」

「?」

「こう食うんだ」

「!」


 私が一個取って口に含むと、ゼヴィも真似して口へ運び、目を輝かせた。そのまま夢中になってスナックを頬張り始める。


 よし。これなら誤魔化せるだろ。


 私はフードを少し深く被り、端末の音量をぎりぎりまで落とした。


『巡回の……ザザッ……状況はどうだ?』

『異常なし。第七ブロック全域を確認した』

『行方不明者の痕跡は?』

『なし。監視ログも前と同じだ。第七ブロック西側の連絡通路に入ったところで途切れてる』

『またそこか』


 第七ブロック……ここのことか。


『シンセス側には照会したのか?』

『とっくに。設備にも監視網にも異常はないって回答だ』

『人間が突然消えたとでも?』

『俺に聞くなよ』


 ……ご立派なことで。技術は雲の上でも、臭いものに蓋する腕は下と変わらないらしい。


『上からは?』

『現状維持。指定区域の巡回だけ続けろ。それ以上は調べるな、だと』

『……またそれか』

『仕方ねぇだろ。命令だ』

『もう何人消えたと思ってる』

『分かってる』


 そこで一度、通信が大きく乱れた。


『……ザッ……それと、昨日戻ってきた奴の件は?』

『病院から連絡があった。外傷なし。本人も何も覚えてないってよ』

『ギアは?』

『……まただ(・・・)。前より適合値が上がってる』

『マジかよ』

『ほんと、気味悪ぃよな』


 私は無意識に端末を握る手に力を込めた。


『とにかく、第七ブロック西側には近づくな。巡回ルートからも外せってよ』

『理由は?』

『いつものやつ』

『……それ、うちのリーダーが納得するかねぇ』

『そう願うしかないな』


 第七ブロック西側ね。りょーかい。


 隣を見ると、スナックがなくなって肩を落としているゼヴィの姿があった。


「ゼヴィ」

「!」

「とってこい(・・・・・)」

「分かった!」


 私が命令すると、さっきまで名残惜しそうに抱えていたスナックの袋をあっさり放り出し、勢いよく駆けていくゼヴィ。


 私は落ちた袋を拾い、近くのゴミ箱へ捨ててから再びベンチに腰を下ろす。


 数分後、戻ってきたゼヴィが指先で摘んだ小型盗聴器を差し出してきた。


「見つからなかったか?」

「う」

「よくやった」


 そう言って頭を撫でてやる。


「よし。じゃあ西側行くぞ」

「う!」


 この調査も、ようやく報われそうだな。

 



 シンセス区画。第七ブロック西側の路地裏。


 スーパーホバーくんから降りると、ホバーくんは自動で小型ロボットへ変形した。


 私は変形が終わったのを確認してから、周囲を警戒する。


「ゼヴィ、どうだ」

「……」


 ゼヴィは鼻を鳴らしながら、頭を左右に動かした。


「ゼヴィ?」

「……」


 ゼヴィは答えないまま地面に顔を近づけ、匂いを嗅ぎ続ける。


「何かあるのか?」

「分かんねぇ」

「……分からない?」


 ゼヴィは四つ這いのまま、くるくるとその場を回った。


「匂いがするのか、しないのか?」

「分かんねぇ」

「……」


 難しいことを聞いてるわけじゃないのに、返ってくるのが分からない、か。


「じゃあ、変な(・・)匂いでもするのか?」

「する」

「どんな匂いだ?」

「旨くねぇ……のに、旨そうな匂い」


 旨くないのに旨そうな匂いか……。


 おそらくは気になる匂いと言いたいのかもしれない。


「場所は分かるか?」

「下」

「下?」

「下からする」


 足で地面を叩いてみるが、空洞があるような音はしない。


 あたりを見渡しても下に降りられそうな入口はない。ダストBOXみたいなのもなし。


 ……市警(メカドッグ)は連絡通路って言っていたな。


 普通に考えれば、複数の高層ビルを繋ぐ半透明の空中通路とか、歩行者用の大型連絡デッキとかなんだけど。


 頭上を見れば、建物同士を繋ぐ似たような通路が何本も横切っている。


「っぽいのが多すぎるな」


 もう少し聞いとけばよかったか? いやでも欲張りすぎて盗聴器バレたら意味ないしなぁ。


「……インフラ点検用の保守通路とか?」


 ゼヴィは下に反応してるし、可能性としてはありだ。


 それに、ミドルズの下には都市インフラが詰まってる。表でやるより、そっちを使った方が人目にもつきにくい。


 何より、実際に境界の店はあった。あそこだって、うまいことミドルズの監視を抜けてたんだ。同じような抜け道があってもおかしくない。


 私は周囲の監視用ドローンの位置を確認する。


 見られないことに越したことはない。慎重に行動しよう。


 私は自分のフードを直したあと、ゼヴィのフードも顔が隠れるくらい目深に被らせた。


「ゼヴィ。匂い、追えるか?」


 ゼヴィは無言で頷き、もう一度地面へ鼻を近づけると、ゆっくりと路地の奥へ歩き始めた。


 私もドローンの位置を気にしながら、その後を追った。


 そうして、何度か立ち止まり、そのたびに鼻を鳴らしていたゼヴィが、とある建物の壁際で足を止めた。


「ここか?」

「……下」


 ……また下か。


 ゼヴィが示した場所へ視線を落とす。


 一見すると、何の変哲もない壁際だった。配管が数本通り、その横には街の景観に溶け込むように灰色のパネルが並んでいる。


「……ん?」


 ……ただの外装にしては妙だな。僅かに隙間がある。


 しゃがみ込み、表面の汚れを手で拭う。すると、小さな認証端末と、その横に薄く表示された文字が見えた。


『都市インフラ保守設備』

「……ビンゴ」


 これで下に行けそうだ。


 端末に触れてみるが、当然のように赤い光が返ってきた。


『認証できません。関係者以外立入禁止』

「だろうね」


 私は立ち上がり、改めて周囲を確認する。


「ゼヴィ。この向こうからするのか?」

「する」

「……そうか」


 市警(メカドッグ)が調べるなと言われていた第七ブロック西側。監視ログが途切れる連絡通路。


 その近くにある、都市インフラへ続く保守設備。そして、その奥からするゼヴィの気になる(・・・・)匂い。


 ここがその連絡通路かどうかは知らないが、ゼヴィが反応するってのがデカすぎる。


「……見つけたかもな」


 さて、どう突破したものか。


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