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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第3章 同期編

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コード076 余計な揉め事

 朝起きて、部屋に備え付けられたシャワーを軽く浴びた後、ゼヴィを呼んで一階の食堂へ向かった。


 従業員ドローンへカードをかざすと、朝食の乗ったプレートが差し出される。


 食事を受け取り、ゼヴィにも真似するよう促すと、素直にカードをかざして自分の朝食を受け取った。


 そのまま適当な場所へ座って食事を始めるが、レクスの姿はない。


 一応、食堂へ来る前に部屋をノックしたが返事はなかった。先に行っているのかと思ったが、どうやら違ったらしい。


 ……アイツ、寝てんな。


 食事を口へ運びつつ、食べかすの付いたゼヴィの口元を拭く。ついでにレクスの携帯デバイスへメッセージも送ってみたが、返信はなかった。


「……はぁ」


 これは起きないなと判断した私は、最後の一口を放り込み、それを飲み込んでからゼヴィへ顔を向けた。


「ゼヴィ、クイックストアに行くぞ」


 仕方がない。朝食ぐらいは買ってやるか。




「はいはいはい。……ふわぁ」

「だらしないな」


 鬼電とノックのおかげか、レクスは気だるそうに扉を開けた。大あくびも隠さないまま、半目で私たちを迎え入れる。


 促されるまま部屋へ入ると、内装は私のところとほとんど変わらなかった。


 壁際には一人用のベッドと小さなテーブルが置かれ、その向かいには壁掛け式のモニター、奥には洗面所へ続く扉がある。


 違うのはシングルなぶん少し狭いくらいだが、脱ぎ捨てた上着や空になったボトルが転がっているせいで、私の部屋よりも窮屈に感じた。


「どうせ食いっぱぐれてんだろ」

「お、さんきゅ」


 レクスは袋を受け取るなりシンセ水を脇へ置き、合成サンドイッチの包装を雑に開けてモサモサと頬張り始めた。


「夜遊びもほどほどにしろよ」

「ただ遊んでんじゃねぇよ。ちゃんと仕事してるっての」

「どうだか」


 いまいち信用ならないレクスの言葉を聞き流していると、ふと昨日の市警(メカドッグ)とのことを思い出した。


「そういやレクス、気をつけろよ」

「何が?」

「昨日、市警(メカドッグ)に職質されたんだよ」

「犬がなんかやらかしたか?」

「ゼヴィじゃない。なんでも、不正な識別チップを使った不法侵入者がいるんだと。私たちじゃなかったみたいだけど」

「……あー、なるほど」


 呑気に頷くレクスに、眉を顰める。


「知ってたのか?」

「知ってたつぅよりも、だろうなって思っただけだ」

「?」


 意味が分からず首を傾げる。


「大規模な抗争なんざ、好き好んで巻き込まれたがる奴はいねぇよ。だから上に逃げてきてんの」

「……避難民って事か」

「そ。かといって、偽造識別チップなんざそう簡単に用意できねぇからな。無理して潜り込む奴が見つかって、警備が厳しくなってんだろ」

「なら今後も増えるってわけか」

「そゆこと」


 レクスの話を聞きながら顎へ手を当て、私たちへの影響を考える。


「……チップも難しくなりそうだな」

「いや、逆だ」


 レクスはニヤリと口角を上げる。


「逃げてくる奴が増えりゃ、それだけ紛れやすくなる。今みてぇな時期のが動きやすいんだよ」

「それならいいんだけど……」

「勿論、その分予定日までは動きにくくなる。目立つ行為はすんなよ」

「わかってるよ」

「じゃあ、その手に持ってるのはなんだ?」

「うぐっ」


 レクスに指差された先にあるのは、朝、クイックストアへ向かう途中で見つけ、足代わりになればと買ったホバーボードだ。


「ミドルズを……満喫したくて……」

「本音は?」

「……例の映像の場所を見つけたくて」

「素直でよろしい」


 レクスは左手で私の頭を雑に撫でてくる。それが妙に居心地悪くて、私はその手を振り払った。


「無免許で走り回られるよりかマシだが、変なことに首突っ込むなよ」

「するわけないだろ」

「どうだか」


 今度は私の台詞を、そのままレクスに返された。


「流石にそこまでバカじゃねぇよ」

「ならいい」


 そう言うと、レクスは私のフードへ手を伸ばす。


「区画歩くんなら、その犬に引っ付いとくかそれ被っとけ」

「うわっ」


 思い切りフードを被せられ、私は何なんだと顔を上げた。


「余計な揉め事起こしたくなきゃそうしてろ」

「何だよそれ」

「お前にゃ早い」

「はぁ?」


 問い詰めるように聞き返しても、レクスはそれ以上答える気はないらしい。そのまま洗面所の扉を開ける。


「ほら、探しに行くんならいってこい。それともレクスさんのお着替えをみた──」

「ゼヴィ、行くぞ」

「おう!」

「無視は酷くない?」


 レクスの言葉を最後まで聞くことなく、私は部屋を後にした。



   ◇ ◇ ◇



「おおっ!」


 全身で風を切り裂きながら、区画内を突っ切る。


 車と違って車道という制限もないし、若者の間ではホバーボードが主流なのか、私以外にも乗っている人がいて周囲から浮くこともない。


 ……ライドくんとはまた違って、これはこれで楽しいな。


 私はレクスの言いつけ通り、しっかりとフードを押さえながら横を見る。


 うん。ゼヴィもちゃんと着いてきてるな。


 ゼヴィはいつもの四足歩行ではなく、両足のギアだけで走っているせいか少し走りにくそうだったが、問題はなさそうだ。それを確認してから、私はもう一段階スピードを上げた。


 これなら思ったより早くこのブロックを回れそうだな。明日は別のブロックを見て回るのもありかもしれない。


 ある程度見回ったところでボードから降りて地面へ着地し、そのまま裏返して背面を見る。


 帰ったら手持ちの部品で弄ってみようかな。思ったより単純な作りだし、改良の幅も広そうだ。


「お姉さん」


 まずはエンジンだな。それから浮力も上げたい。もっと高く飛べたら探索も楽に──


「ねぇ、お姉さんってば」

「…………私か?」


 ホバーボードの構造を考えていると横から声を掛けられた。視線を向けると、チャラそうな男二人組の姿。


「ひとり?」

「いや、連れがいる」


 そう言いながら振り返るが、ゼヴィはいなかった。


 ……やべ、飛ばしすぎた。


「……ちょうど席外してるけど」

「えー? 本当にぃ?」

「降りた時ひとりだったじゃん?」

「もうすぐ合流する予定だから」


 まぁ、ゼヴィなら私の匂いを追ってこれるだろ。


 そのまま立ち去ろうとしたところで腕を掴まれる。


「ちょっと……って、何すんだ!」


 しかもフードまで取られ、二人組は私の顔を見ながらコソコソと何か話していた。


「ほら、やっぱ昨日の子じゃん」

「マジか。ナイス」

「何なんだよ、お前ら」


 腕を引いても全く離そうとしない二人に苛立ちが込み上げる。


 くっそ。面倒臭いな。アンダーズだったらEMP手榴弾で黙らせられるのに。


「君、ここの区画じゃないよね。どっから来たの?」

「俺ら詳しいし、案内してあげようか?」

「別にしなくて──」


 そこまで言いかけたところで、画像のことが頭をよぎる。


「……じゃあ、この場所知ってる?」


 そう言って画像を見せると、二人組は顔を見合わせてにっこりと笑った。


「知ってる知ってる」

「あー、はいはいはい。ここねここ!」


 ……怪しいな。


「……本当に知ってるんだな?」

「うんうん。任せて」

「こっち来なよ」

「そうか」


 二人に肩を組まれたまま、背後から近づいてくる気配へ意識を向け、小さく口を開く。


「……ゼヴィ」

「ん?」

「へ?」

「バレないようにな」


 そう言った次の瞬間、二人組の姿が視界から消えた。


 私は何事もなかったように後ろの細い路地へ体を向け、ゆっくりと歩いていく。


 監視ドローンの死角へ入ると、ゼヴィが二人の頭を掴んだまま壁へ押さえつけていた。


「ヴィク! 壊していいのか? コイツら、壊していいのか!」

「ヒィイイッ」

「ダメだ」


 即座に却下し、壁に押さえつけられている男たちへ問いかける。


「お兄さん。この場所、知ってるんだっけ?」

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「いや、そういうのいいから。知ってるの? 知らないの?」

「知りません知りません! 俺ら本当に何にも知りません!!」

「だから……」


 思った以上に怯えられ、何だか罪悪感が湧いてくる。


 ……普通は、こうなるのか。流石に手荒すぎたな。


「ゼヴィ、離せ」

「…………」

「ゼヴィ」

「…………」


 ゼヴィは渋々と手を離し、男たちは少しでも距離を取ろうと、お互いに抱き合いながら壁際まで後ずさった。


「えーっと……本当に危害を加える気はないんだ。この場所を知ってたら案内してほしいだけで。な? ゼヴィ」

「ぶち壊す」

「ヒイイイイ!!」

「こら!!」


 ゼヴィの返事に頭を抱えながら、どうしたものかと考える。


「知らないならそれでもいい。この辺にあるかどうかだけでも分からないか? 詳しいんだろ?」

「すんません! 本当はそんなに詳しくないんです! ちょっといいとこ見せたかっただけなんです!」

「ちょっとお近づきになりたかっただけなんです! ただのでまかせなんです!! でもこの辺じゃないのはマジっす! 本当ッス!!」

「……あ、そう」


 ここまで必死に言われると、流石に嘘には見えない。


 私はゼヴィを近くへ呼び、二人へ「もう行っていい」と告げると、男たちは何度も頭を下げながら一目散に走り去っていった。


「ヴィクぅ」

「……何だよ」

「ヴィクぅぅ」

「あー、もう! 分かったって! 置いてって悪かったよ!!」


 拗ねたように訴えるゼヴィの頭を撫でながら路地裏を出る。


 ……この辺にはない、か。だったら索敵場所を変えるべきだな。


 ミドルズはアンダーズと違って、一つの区画がさらに細かなブロックへ分かれている。このブロックにないなら、次は別のブロックを見て回るか。


 そんなことを考えながら歩いていると、一台の市警巡察車(センチネル)がサイレンを鳴らしながら目の前を通り過ぎた。その後を追うように複数の高速追跡二輪(チェイサー)が駆け抜け、更には特装警護車(パシファイア)まで続き、顔を顰める。


 ……穏やかじゃないな。何かあったのか?


 少し考えたものの、遠くから見るだけなら問題ないだろうと判断し、情報収集も兼ねて市警(メカドッグ)の車列を追いかけることにした。


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