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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第3章 同期編

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コード072 箱詰め三人

 市民権を得るための道筋は整った。


 けれど、カムイが偽装識別チップのプログラムを完成させるまでは動けない。


 その間、レクスとニックさんはチップ奪取作戦の段取りを詰めることになったが、私も遊んでいる訳にはいかない。上でも上手く溶け込めるよう準備を進めることにした。


 服装はもちろんのこと、ゼヴィのギアは特に不味い。


 こんな完全武装のスラムギアなんてミドルズでも完全に浮く。一歩でも街を歩けば職質待ったなしだ。


 人工皮膚で覆ってはいても、見る人がみれば分かる。少しでも作戦の成功率をあげるためにどうカスタマイズするかと頭を悩ませた。


 見た目を誤魔化すにしても限度がある。ラグの時は元がミドルズで主流のレギアをブラッドギアに違法改造したものだったからなんとかなったけど、ゼヴィは完全な違法ギアだ。


 こっから上でも通用するギアに変えるなら、ほとんど一から作り直すような物だ。上ほど設備も整ってないうえに時間もない今、完全に偽装するのは難しい。


「……うーん」

「……ヴィク?」


 ゼヴィはじっと座ったまま私を見てくる。その手にはザイラス擬きの一部であったギアの部品が握られていた。


 ……いっその事コンバットギアにするか?


 いやでも今回は前の時と違って一週間は滞在する可能性がある。もしも職質なんてされたらゼヴィにレクスほど上手く切り抜ける話術はないし、武装しているのがバレたら終わりだ。


 ゴリゴリとゼヴィが部品を握り潰す音を聞きながら、私は思考を巡らせた。


「……やっぱ外装をどうにかするしかないよなぁ」


 ミドルズやトップスだからって全員が全員正規品を使ってる訳じゃない。多少の改造を施してる人もいる。


 そういうコンセプトでいけば、完璧には無理でも言い逃れできる程度には誤魔化せるかもしれない。


 これで方向性が決まったなと、今度はどう偽装するかに思考を切り替えた。


「ゼヴィ、こっちに来い」

「! 整備か?」

「あぁ」


 私はくるりと工具を回しながら笑った。


「ちょっとだけ大掛かりなやつになりそうだ」



   ◇ ◇ ◇



 上に潜入する準備を始めてから数日後。


 ついにカムイからプログラムが完成したと連絡が入った。


 それを受け取った私たちは、狭い箱の中に押し込められている。


「おい、あんま体重かけんなクソ犬!」

「……レクス、もうちょいこっちに来てもいいんだぞ」

「そういう訳には──おい! 動くな!!」

「ヴィクぅ」


 私の顔の横には、プルプルと震えるレクスの腕がある。


 ゼヴィと私の間に挟まっているレクスは、私とスペースを開けるように必死に体勢を維持していた。


「……やっぱり、私が真ん中のが良かったんじゃないか?」


 私たちはニックさんの改造バンの荷室に積まれた箱の中で、アンダーズの悪路に揺られていた。


「いいえダメです。あんなのは不健全です。レクスさんは許しません」

「別にゼヴィが抱きつくなんて今更だろ」

「抱きつくだけならまだしも舐めてただろコイツ!!」

「いやまぁそうだけど」


 最初はレクス、私、ゼヴィの順番で入る予定だった。けれど、箱に入るなり私に引っ付いてきたゼヴィが「……旨そう」と言いながら舐めてきたせいで、この並びになった。


「もう慣れたし」

「慣れるな! もっと嫌がれ!!」

「嫌がるってもなぁ……」


 ゼヴィが私の頭の中にあるアクシオンギアに反応して舐めたがるのはいつものことだ。最早諦めの境地である。


「後で洗えばいいかなって」

「そういうとこだぞ!!」


 レクスが大げさにため息をつくのを見ながら、イヤホンの調子を確認する。


 スイッチをオンにすると、ニックさんの鼻歌が聞こえてきた。


 ……うん。感明良好だ。これなら外の様子も大丈夫そうだな。


「ヴィクちゃん聞いてる!?」

「聞いてる聞いてる」

「おい」


 そんなやり取りをしていると、ついに改造バンが動きを止めた。


 ついたか。


 レクスも口を閉じ、先ほどまでの騒がしさが嘘のように気配を消した。


『よぉ! 大将!』


 イヤホンから聞こえてくるニックさんの陽気な声。


『……アンタか』


 対照的な無愛想な声が聞こえて、会話を聞き漏らさないよう耳を澄ませた。


『相変わらず愛想がねぇな』

『愛想で飯を食えた試しがないんでね』

『違いねぇ』


 ガコンと車体が揺れ、私たちの入った箱もわずかに軋む。


『今日は荷が多いな』

『景気が良くてね』

『上はうるさいがな』

『企業様か』

『察しがいい』


 コン、と箱を叩く音がイヤホン越しに聞こえる。レクスへ視線を向けると、当の本人は表情一つ変えず、じっと息を潜めていた。


『……いつものか』

『いつものだ』

『開けるか?』

『開けてもいいが、積み直すのはアンタだぞ』

『……面倒だな』

『だろ?』


 何かを受け渡すような衣擦れが聞こえたかと思うと、小さく鼻を鳴らす声が続く。


『最近ケチになったな』

『昔が景気良すぎたんだ』

『都合のいい言い訳だ』

『商売人ってのはそういう生き物さ』


 気の抜けた笑い声が聞こえたあと、少し間を置いて無愛想な声が返ってきた。


『行け』

『毎度』


 そうして改造バンは再び動き始めた。……どうやら第一関門は突破したらしい。


 それからしばらく、イヤホンから聞こえてくるのはニックさんの鼻歌と、路面を踏むタイヤの音だけだった。


 検問を抜けたからといって、まだ安心はできない。箱の中では外の様子を確かめることもできず、どこを走っているのかも分からないまま、私たちは揺れに身を任せるしかなかった。


 やがて速度が落ち、改造バンが大きく曲がる。荒れた路面を踏む振動が何度か続いたあと、車体がゆっくりと停止した。


『着いたぜ。降ろすぞ』


 イヤホン越しにニックさんの声が聞こえる。


 続いて荷室の扉が開く音と、箱を持ち上げる鈍い衝撃が伝わってきた。


 箱の外からは複数人の足音と、金属が擦れる音が微かに聞こえる。


 ……犬小屋に着いたのか?


『今日はこれだけか』

『ああ、いつもの荷だ』


 新たに野太い声が聞こえた。


 箱越しでは外の様子までは分からない。ただ、誰も蓋を開けようとする気配はなかった。


 ガコン、と大きな衝撃が伝わる。箱ごと昇降機へ積み込まれたようだ。


 直後、低い駆動音が足元から響き始めた。


 軋む振動が箱越しに伝わり、身体がわずかに沈み込む。


 私はポケットから偽装識別チップを取り出し、レクスとゼヴィへ視線を向けた。


「電源」


 口パクでスイッチをオンにするのを伝える。


 二人が同時にチップを取り出すのを確認し、私もスイッチを押し込んだ。


 ピッ、と三つの電子音が狭い箱の中へ重なる。


 起動完了までは5秒。


 その間にも昇降機は上昇を続け、ガイドレールを滑る金属音が次第に速くなった。


 カムイのプログラムに問題はないだろう。それでも、実際にミドルズの認証網へ接続するまでは成功したとは言い切れない。


 1秒。


 チップのランプが赤く点滅する。


 2秒。


 足元から伝わる振動が僅かに変わる。もうミドルズが近い。


 3秒。


 ゼヴィが無言のまま私を見る。レクスも軽口を叩かず、手の中のチップへ視線を落としていた。


 4秒。


 昇降機が目に見えて減速を始める。


 ……まだか?


 そう思った瞬間、赤く点滅していたランプが青へ変わった。


「……成功だな」


 チップから無機質な電子音が流れる。ほぼ同時に昇降機が小さく揺れ、その動きを止めた。


 外で何かが動く気配がしたかと思えば、ガチャリと箱の留め具が外され、重たい蓋がゆっくりと持ち上がった。


「着いたぞ、お三方」


 ニックさんは苦笑しながら箱の縁に肘をついた。


「仲良し三人組には、ちと狭かったか?」

「棺桶の方がまだ寝返りを打てる」

「贅沢言うな。特等席だったろ?」

「二度と御免だ」


 真っ先に這い出したレクスが、凝り固まった肩を回しながら吐き捨てる。その後ろから私も外へ出ると、最後にゼヴィが何事もなかったような顔で箱を跨いだ。


 見渡せば、そこは白い照明に照らされた無機質な搬入口だった。


「俺が送れるのはここまでだ」


 ニックさんが声を落とし、搬入口の先へ顎をしゃくる。


「これ以上面倒を見れるほど親切じゃないんでね。何かあっても、俺の名前は出すなよ」

「分かってる」


 ニックさんは肩を竦めると、運転席へ戻っていった。


「帰りも頼むぞ」

「生きて戻ってきたらな」


 運転席へ戻ったニックさんは、窓越しに軽く手を上げた。


 私も軽く手を上げ返し、二人へ向き直った。


「行くぞ」


 私の声に二人が頷く。


 アンダーズとは違う白い光の中へ、私たちは踏み出した。

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