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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第3章 同期編

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コード071 続編は最強の交渉材料

 市民権を得る方法をレクスに相談すると、「プロに聞いた方が早い」と返された。


 そして数日後。ニックさんを呼び、便利屋のガレージで相談していたのだが……。


「一枚5000万クレジットぉ!?」


 あまりにも膨大な額に開いた口が塞がらない。


 チップ一枚でそんなにするなんて想定外だった。


「それも企業が正規で発行するなら、それぐらいのコストがかかるって話な。俺らみたいなのが手に入れるには、さらに10倍は見積もった方がいい」

「じゅっ、10倍!?」


 つまり5億クレジット!? 円に換算すると500億円じゃないか!!


「ぐぬぬぬぬ」


 最低でも私とゼヴィの(・・・・・・)二人分は必要だから合計10億クレジットってことか……そんなん残りの人生費やしても稼げるわけがない!!


 いきなりこんな壁にぶち当たるなんて思わなかった。どうすりゃいいんだよ!


「もうちょい安くなんねぇの? 例えば型落ちとか、中古とか、訳あり品とかよ」

「市民権を家電みてぇに言うな」


 レクスの言葉に呆れたように返すニックさんを見て、そう簡単にはいかないよなと肩を落とした。


 ゼヴィが不思議そうにまとわりつくのを追い払いながら、何かいい方法はないのかと頭を抱える。


「……まぁ、あるにはあるが」

「あるのか!?」


 藁にも縋る思いで食い付くと、ニックさんは仰け反りながらも口を開いた。


「まぁな。上手くいきゃ一人100万クレジットだ。けど、オススメしないぜ?」

「構わない! 教えてくれ!!」

「ならまずは偽装識別チップを手に入れねぇとな。それがなきゃ話に──」

「チップならある!」


 私が腰に巻いているツールロールから偽装識別チップを取り出し、勢いよく机に置いた。


 すると、ニックさんは興味深そうに「ほう?」と口角を上げる。


「見てもいいか?」

「あぁ」


 チップを持ち上げ、じっくりと品定めをするニックさん。


 私はゴクリと生唾を飲み込み、その様子を見守った。


「へぇ。こりゃあ……」

「どうだ?」

「……嬢ちゃん。これ、どこで手に入れた?」

「私が作った」


 そう答えると、ニックさんは目を見開いた。


「……この品質で何枚作れる?」

「材料があればいくらでも。でも、最大3時間しか使えない。さらにコピーするなら有効時間はもっと短くなる」

「理由は?」

「企業しか発行できない電子署名と認証鍵までは複製できないからその部分はダミーデータで補ってるんだ。でも、認証データを書き換えるたびに整合性が崩れて中のデータが劣化していくから時間もどんどん短くなる」

「…………」

「…………ニックさん?」


 黙り込んだままチップを何度も裏返し、端子を眺める姿に不安になる。


「……嬢ちゃん」

「なんだ?」

「俺と組んで一儲けしな──」

「ニック」

「だっはっはっはっ! 冗談だ! 冗談!!」


 豪快に笑うニックさんに対し、レクスはジト目になりながら「嘘つけ」と呟いた。


「ま、こんないいモンがあるならもっと安く買い叩けるぜ」

「本当か!?」

「あぁ、仲介料として一枚もらってもいいならな」

「全然大丈夫! なんだったらあと2、3枚持っていっても──」

「こらこら」


 興奮気味に身を乗り出した私を、レクスが肩を押さえて元の位置へ戻した。


「……なんだよ」

「お前、そういうとこ直した方が……あー。いや、いい。何でもねぇ」


 何かを言いかけて飲み込んだレクスを不満げに睨むと、本人はやれやれと肩をすくめた。


「それで、俺らは何させられんだ?」

「お察しがいいようで」

「何年の付き合いだと思ってんだ」


 レクスがソファに深く腰掛け直して足を組む。それを見たニックさんは、悪そうな笑みを浮かべた。


「詳細は後で話す。まずは俺の腕の見せ所だな」



   ◇ ◇ ◇



「……ここは」


 ニックさんのゴツい改造バンに乗って辿り着いたのは、コブラの区画だった。それも、もう何度か足を運んでいる情報屋の前だった。


 手慣れた動作で偽装ホログラムを解除したニックさんは、ズカズカと室内を歩きながら手を上げた。


「よぉ、カムイ! 元気してたか?」

「あぁ。ニックさん、久しぶ……って、またアンタらかああああ!!」


 案の定いた目隠れ男ことカムイ。


 カムイはニックさんには愛想よく応じていたが、私たちの姿を見た途端、指を差しながら嫌悪を顕にした。


「何しに来た!? 帰れ!! もうアレには関わんねぇって言っただろ!」

「……お前ら何したんだ?」

「色々あったんだ」


 レクスが流すように答えると、ニックさんも深くは聞く気はないのか、すぐさまカムイの方へと視線を戻した。


「あー、恐らくそのアレってのとは別件だ。お前にとっても悪い話じゃねぇよ」

「はぁ!? 信じらんねぇ! 俺はソイツらとは関わりたくねぇの! 一生!!」

「市民権」

「!」


 ニックさんの言葉にあからさまに口を閉ざすカムイ。


 ……市民権に反応した? カムイも市民権が欲しいという事だろうか。


「うまくいきゃあお前のも手に入る」

「……」

「話だけでも聞いてかねぇか?」

「……聞くだけなら」


 カムイは渋々と体をこちらに向けた。どうやら話を聞く気にはなったみたいだ。


「で? どうやんの?」

「コイツらにチップを盗ませる」

「……は?」

「正規の識別チップは企業しか作れねぇ。偽造なんざ不可能だ。だから本物を頂戴しに行くってわけだ」

「やっぱそうなるか」


 レクスは分かっていたのか、面倒臭そうにソファに座った。私とゼヴィも並ぶように腰をかける。


「いやいやいや! 待てって!」


 逆にカムイは立ち上がり、此方に近付いてきた。


「盗むって……正気か!? トップスだぞ!」

「その辺はコイツが上手いことやるから気にしなくていい」


 ニックさんが親指でレクスを差すが、肝心のレクスはソファでだらけている。


 ……おい、こういう時ぐらいシャキッとしろよ。


「へいへい、承りますよ。んで? 物だけじゃどうにもならねぇだろ。中身はどうすんだ」

「その為のカムイだ。チップにお前らの市民データを書き込む」

「……最近の情報屋様はすごいな」


 レクスの言う通り、新品とはいえあんな何十にも暗号化されたチップに情報を書き込むなんて並みの芸当じゃできない。


 前々から思ってたけど、嫌味な奴だがカムイの技術は本物だ。


「都合の悪い過去(もん)も消せて一石二鳥だろ?」

「でも、登録されていない」


 ニックさんの作戦が上手くいけば識別チップは手に入る。けれど、手に入れるだけだ。大本のサーバーに登録されてなければ意味がない。


「その通りだ。チップを書き換えても、管理サーバーに登録されてねぇ以上は偽物と同じだ。だから最後は管理サーバーへ直接潜って登録する」

「作戦は分かったけど、どうやって上に行けばいいんだ? 私のチップじゃ三時間しか保たないんだぞ」

「そこもカムイの仕事だ」


 ニックさんが笑いながら、私の作った偽装識別チップをカムイに投げた。


「! これは……」

「嬢ちゃんが作ったそうだ。ちなみに、その程度(・・・・)なら材料があればいくらでも作れるってよ」

「…………」


 カムイは軽くチップを掲げ、自身のギアポートへ差し込む。空中へいくつもの画面が展開され、解析が始まった。そして、その手は途中で止まる。


「…………」


 そのままカムイは何も言わず、私の方へ顔を向けた。


「……なんだよ」

「……アンタの偽装識別チップ、土台は十分だ。腹立つぐらいにな」


 カムイは舌打ちして続ける。


「俺なら認証アルゴリズムを組み直して、ダミー署名の補正を入れれば一週間は保たせられるね」

「一週間も!?」

「それ以上は企業の再認証周期に引っ掛かるから無理」

「つまり、一週間以内に盗んで来いってことか」


 レクスが確認するように言うと、ニックさんは「あぁ」と口角を上げた。


「偽装チップで上に潜る。そんで本物を盗む。戻って中身を書き換える。また偽装チップで上に潜る。管理サーバーへ登録する。それで初めて、お前らは正式な市民になれるってわけだ」

「そう上手くいくかね」

「安心しろ。伝手(・・)ならある」

「随分と広い顔だな」

「まぁな。年々広くなって街の壁にでも就職できそうだ」

「ちょっと待て」


 話がまとまりかけたところで、カムイのストップが入った。


「俺はまだやるって言ってないけど?」

「なんだ? 欲しくないのか市民権」

「ハイリスクすぎる」


 カムイはそう言うと、チップをニックさんに投げ返した。


「成功する保証もないのに乗れるかよ。泥舟はごめんだね」

「おいおい、そんな事言っていいのか? またとないチャンスだぜ」

「……どうしてもってなら、考えなくもないけど?」


 カムイはニヤリと笑いながら、指を5本立てた。


「一人のデータにつき500万クレジット……正規品を買うより安いだろ?」


 コイツ!!


 此方の足元をみて吹っ掛けてきたカムイに苛立ち、立ち上がりそうになるが、レクスに止められる。


「そりゃぼったくりじゃねぇか? 情報屋さんよ」

「正規の10分の1だ。妥当だと思うけど?」

「お前の分も勘定に入れてもか?」

「チップの書き換えでトントンだろ」


「10万」

「はぁ?」


 レクスとカムイの会話に割り込むように、ニックさんは料金を提示した。けれど、その額に納得のいかないカムイは不満そうな声を上げる。


「さすがに安すぎる。アンタ、本気で言ってる?」

「じゃあ20万」

「誤差だね」

「30万」

「……話にならない。最低でも100」

「高ぇよ」


 ニックさんは腕を組んだまま、余裕そうに譲らない。


「リスク考えろ。俺の負担がデカすぎる」

「市民権も手に入るだろ?」

「それとこれとは別。一歩間違えりゃ俺だけ企業に首根っこ捕まれる」

「40」

「100」

「45」

「100」

「頑固な奴だ」


 ニックさんは一瞬だけ考え込む。けれど、すぐに何かを思い出したように手のひらへ拳を打ちつけた。


「そういや今年だったな!」

「?」

「10年ぶりの続編」

「……」


 ……続編? 何の話だろうか。


 私には分からないが、カムイにとっては揺さぶられる何かのようだ。


「オンライン対戦も大幅にアップデートするらしいな」

「……だから?」

「遊ぶにゃミドルズにあがらねぇとネットに繋げねぇよなぁ?」


 ニックさんは勿体ぶる様に間を置いてから口を開いた。


「ま! 市民権がありゃ全て解決するけどな!」

「…………」

「でも、お前がどうしても嫌ってんなら無理には頼まねぇよ。代わりは(・・・・)いくらでもいる。何せ俺は顔が広いからな」

「…………」

「30」

「…………」

「どうした?」

「…………チッ」


 カムイは観念したように頭を掻きむしった。


「50万! それ以上は無理!」

「交渉成立だな」

「最初からそこ狙いだったろ、アンタ」

「さぁてね」


 結局、何の話題か分からなかったが、話はついたようで安心する。


「おい!」

「?」


 すると、カムイが苛立ちを隠さずに私に向かって手を出した。


「なんだ?」

「偽装チップ! あるやつ全部だせ!!」

「いいのか?」

「……こうなったら乗り掛かった船だ。アンタが作ったチップ、全部にプログラムをぶち込んでやる。だから出せ! 失敗は許さねぇかんな!!」

「助かる!」


 私は返事をするより早く、ポーチからチップを次々と机へ並べた。


「3時間のは3枚! それをコピーしたのは15枚! チップ自体の出来には問題ないはずだ」

「…………」

「……?」


 唖然と私が出したチップを見るカムイとレクス。


 私は何か失言でもしたかと首を捻る。すると、視界の端でゼヴィも真似して首を傾げているのが見えた。


「だああああああ! やってやらぁよう! やってやらぁよう!!」

「……思った以上に作ってたのね。レクスさんビックリ」

「偽装チップの切り替えなんて、上でやったら一発アウトだから行動時間は変わらないけどな」

「そうじゃない。そうじゃない」


 レクスはやれやれと片手を上げながらカムイの方を見た。


「ま。そういう訳なんで、よろしく頼むよ」

「徹夜確定かよくそ……」




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