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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第3章 同期編

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コード070 死人に口あり

 場所は便利屋の作業部屋。レクスとゼヴィが見守る中、私は手袋をはめて椅子に座った。


 目の前には作業用ベッドと完全に沈黙しているザイラスもどきの死体。


 ……まずは状態を確認しよう。


 ザイラスもどきの身体に触れ、装甲の損傷、フレームの歪み、関節の摩耗具合を見る。


 やっぱり、何度見直しても新しい。遅く見積もっても、ここ2、3日ってところか。


 けれど、外装だけでは判断できない。


 私は中を確認するため、工具でギアフレームを抉じ開けた。


 すると、関節グリスは新品に近く、冷却材も最近交換された形跡があった。配線の一部も張り替えられており、神経接続部まで新しい。


 ……誰かが整備していた?


 コアの事件からすでに一ヶ月近く経っている。あの時、確かにザイラスは死んでいた。


 私もその死体から使える部品を抜き取り、ゼヴィの修理に使った。実は生きていた、なんてのは考えにくい。


 なのに、目の前の死体はつい先日まで整備されていた痕跡がある。


 わざわざ死体を整備したのか? 何のために? それに、あの廃モノレール駅にいたのは? ウルフの構成員の死体の中に埋もれていたのは何故?


 ……コイツがウルフの監視拠点を襲った犯人なら考えられなくはないが、ゼヴィが殺した奴じゃないのは確かだ。状況的にザイラスに似た別の人物と考えるのが妥当だろう。


 ザイラスと同じ顔、同じギアに改造した別人。どちらにしても怪しすぎる。


 本当に同じなのか確かめるために、ザイラスの死体からゼヴィの修理に流用したパーツを作業台の上に並べた。


 違いが分かれば、何か糸口が掴めるかもしれないと見比べるが……。


「……これはっ!」


 見比べて、明らかになった事実に冷や汗が流れる。


 現場で見た時は、同じ規格の部品が使われていると思っていた。


 でも、そうじゃない。そんな簡単な話じゃなかった。


 メーカー刻印、ロット番号、内部フレームの加工痕、固定ネジの潰れた溝。


 同じ規格じゃない。同じ型番でもない。本当の意味で、同じ部品(・・・・)だったのだ。


「……嘘だろ」


 ここまで同じなんて、偶然であるはずがない。


 まるで、誰かが意図的に同じ存在をもう一度組み上げたようだった。


 ──でも、それはなんのため?


 いや、今は考えても答えは出ない。この死体を調べる事に集中しよう。


 私は手を止めないまま、さらに内部を調べた。すると、神経インターフェースの途中に妙な装置が噛まされているのが目についた。


「なんだこれ……?」


 通常のギアなら神経信号は脳からインターフェースを通り、そのまま制御基板へ流れる。でも、コイツは脳から来た信号を一度この装置へ通し、そこから各部へ分配しているようだった。


 こんなもんあったら遅延も増えるし、故障箇所も増える。普通なら真っ先に排除する構造だ。わざわざ中継装置を挟む意味が分からない。……とりあえず、怪しいから取っておこう。


 私は通電状態を確認し、コンデンサに残っていた電荷を逃がしてから固定具を外す。そして、慎重に中継装置を取り外し、作業台の上へ置いた。


 ……次は、生体側が。


 私は首元の外装を外し、神経接続部の周囲を観察した。


 接続部そのものは綺麗だった。炎症も少なく拒絶反応の痕跡もない。けれど、その綺麗さが逆に不自然だった。


 長期間ギアを使い続けた人間の神経接続部は、多少なりとも負荷の痕跡が残る。神経の肥大や瘢痕化、接続端子の変色、固定具周辺の組織硬化は避けられない。


 なのに、コイツにはそれがほとんど見当たらなかった。まるで、最近つけられた接続部のように綺麗だった。


 そこから導き出される答えは一つ。


 コイツはずっと裸身(ネイキッド)だった。ギアをつけたのもつい最近ということだ。


「……なんなんだよ、お前」


 この世界において裸身(ネイキッド)であるのはデメリットでしかない。私みたいな特殊の場合を除いてギアに改造しないのは、できない何らかの理由がある奴らばかりだ。


 クレジット、もしくは脳のスペックが足りない。それ以外はほぼないに等しい。


 生体側の成長具合をみるに、コイツの年齢は30半ばぐらいだろう。


 そんな年齢までギアをしていなかったのに、急にギアをつけて、さらにアクシオンギアと関連しているだろう人物と似た容姿になるよう姿を変える?


 そんな馬鹿な話あってたまるか。どうみても裏の匂いしかしない。


 いや、待て……そう言えば、ザイラスは死に際にゼヴィに向かって『次は本物の(・・・)俺様とやりあおうぜ』と言ってなかったか?


 あの時は気にしている余裕はなかったが、いま考えるとおかしい。まるで自分が偽物だという口振りだった。じゃあやっぱり、意図的に同じ個体が作られているということか?


 ……仮に、コイツと同じようにザイラスと似た個体が複数体いるとしよう。


 本体が別にいて、あの施設にあったコアのようにブラッドギアで作られた偽物を操ってると考えられないか? そうすれば線が繋がってくる。


 だとすると、施設にいたザイラスも、目の前のザイラスもどきもブラッドギアで作られた何かになるわけだが……。


 でも、それだとゼヴィが反応するのがおかしい。


 ゼヴィはオーバースペック体には旨そうと反応しなかった。ザイラスの偽物がブラッドギアで作られていたと仮定するならば、何故オーバースペック体には反応せずザイラスだけに反応した?


 その違いはなんだ? 私は何か見落として──っ!


 いや、あった。ゼヴィがあのコア以外に反応したモノが!


 私はザイラスの頭に触れる。


 ゼヴィはコアと生体神経インターフェースと直接繋がっていた端末には反応していた。ならば、きっとコイツの脳に手がかりがあるはず!


 私は頭部の固定ボルトを一本ずつ外し、頭蓋フレームをゆっくりと持ち上げる。そのまま神経保護膜を慎重に切開し、脳を傷付けないよう露出させた。


「っ!」


 そして、目の前の物に驚愕する。


 頭蓋の中に収まっていたのは、普通の脳ではなかった。


 脳幹を包み込むように、もう一つ、小さな脳が埋め込まれていたのだ。


「……なんだ、これ」


 拳よりも小さいが、形だけなら人間の脳だった。


 でも、黒でも灰色でもない不気味な色をしていた。光を当てても艶を返さず、まるで光そのものを吸い込んでいるようだった。


 脳表には無数の皺が刻まれていて、何となくその皺を目で追う。


 すると、一瞬だけ皺の形が変わったように見えた。


「?」


 気のせいかと思い、もう一度見直すが今度は何も変わらなかった。


 ……ただの見間違いか?


 私は眉を顰めながら小型ライトを近づけた。


 そのままじっと眺めていると、小さな脳から伸びる無数の黒い神経束が、先ほど取り外した中継装置へ直接繋がっていたことに気づいた。


「全部、こっちに……?」


 通常なら、脳から伸びた神経は脊髄を通り、そのまま全身へ繋がる。


 でも、コイツは本来の神経経路は途中で切り替えられ、黒い神経束だけが中継装置へ集まり、そこから全身へ分配されていた。


 まるで、この小さな脳が身体を動かしているみたいに──っ、そうか! その為の中継装置か!


「じゃあ、本来の脳は……」


 私は人間の脳へ視線を向ける。


 損傷も少ない。神経も生きている。


 なのに、その脳から先へ伸びる信号は途中で遮られ、身体へ届いていなかった。


 ……これは、乗っ取られてるとかそんな単純な話じゃない。


 この小さな脳は、あとから埋め込んだだけの異物には見えなかった。


 本来の脳と神経が溶け合うように癒着し、境界すら曖昧になっている。


 こんな移植手術は知らない。少なくとも、私の知る技術では不可能だ。


 もしかして、私の中にあるオリジナルもこんな風にくっついてるのか?


 寄生虫みたいに、私の脳を侵食している?


 それは、いつから──?


「う゛っ」

「ヴィク! 大丈夫か!」

「……ごめん、大丈夫」


 レクスが支えようと差し伸べた手を片手で制し、私はすぐ近くにいたゼヴィへ視線を向けた。


「ゼヴィ」

「ヴィク?」

「これ、嗅いでみろ」


 私がザイラスもどきの脳を指さすと、ゼヴィは近寄ってスンスンと匂いを嗅ぎ、露骨に顔をしかめた。


 ……これは、どういう意味だ?


「旨そうな匂いはするか?」

「……」

「ゼヴィ」

「……フンッ」


 いつもなら、するならする。しないならしないと答えるのに、今回に限っては嫌そうに鼻を鳴らすだけで何も言わなかった。


 代わりに返ってきたのは、「壊していいか?」という一言だったので、私は駄目だと念を押す。


 ゼヴィは不満そうな表情を浮かべているが、まだ情報を搾り取れていない。


 反応の意味も分からない以上、推測を重ねても仕方がない。これは最終手段だったかやるしかないかと、必要なパーツを見繕った。


「レクス、この端末をそこにセットしといてくれないか?」

「何するんだ?」

「体の情報から得られるもんは全部得た」


 そして、ザイラスもどきの脳にギアポート用のパーツを当てた。


「後は、コイツに直接聞く」






「……よし」


 簡易的に外部端末と有線接続できるよう改造したザイラスの脳を見て、一息つく。


「レクス、このコードをその端末と繋げてくれ」

「……俺が死んだら燃やしてくれ。特に頭は念入りに」

「は?」


 突拍子もない事を言い出したレクスを訝しみつつ、ザイラスもどきの脳を端末に繋いだ。


「……視覚情報だけでも残ってたら御の字だけど……お」


 端末の画面が反応し、ノイズの向こうへ画質の荒い映像が映し出される。


 ……これは、ミドルズか? いや、トップスの可能性もある。


 どちらか分からないが、アンダーズではないのは確かだ。空が明るい。それに、画面の端を通り過ぎた人間のギアには継ぎ接ぎも補修跡も見当たらなかった。外装の合わせ目も綺麗で、少なくともスラムギアじゃない。


 やはり、コイツらの活動拠点は上にあるのか?


 深く調べようにも、そこで映像は途切れ、端末はうんともすんとも言わなかった。


「……」 


 先ほど映った映像だけは確認できたが、それだけだった。


 あの映像の場所を調べに行きたいところだが、私の手元には偽装識別チップしかない。前にミナを助けるために作った予備だ。しかも、最大で3時間しか保たない。


 たった3時間であの場所を探し出すのは不可能だ。それに、オリジナルがトップスにあるなら、一度潜り込めた程度じゃ何もできない。


 どちらにせよ、継続して動ける身分がいる。


 ……いずれ必要になるとは思っていた。でも、こんなに早いとは思わなかった。


「レクス」

「なんだ?」


 それに、近々アンダーズでは大規模抗争が起こる。そうなると動きにくくなるし、今後を考えるなら、やることは一つだった。


「市民権が欲しい。どうすれば手に入れられる?」



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