コード067 手懸かりなき手懸かり
「…………」
私は目の前に並べたギアのパーツを見つめる。ゼヴィを修理する際、ザイラスから流用したパーツだ。
アクシオンギアへの手がかりが残っていないか調べるため、すべて取り変えて分解したのだけれど……。
「……何も、ない?」
どのパーツにも違法改造や特殊な加工の痕跡が見当たらなかった。
強いて挙げるなら、どれもトップスで使われる高性能なパーツという事くらいか。
それも、一つに固まってくれてるならまだしも、満遍なく五大企業の製品が使われている。
じゃあ、ザイラスが使っていたギアはアクシオンギアと関係がなかったのか?
いや、それはあり得ない。確かにゼヴィの鼻は反応していた。奴がアクシオンギア関連である何かを使っていたのは間違いない。
念のためパーツを嗅がせてみるが、ゼヴィは興味なさそうにそっぽを向いた。
……やはり、ここにあるパーツがたまたまアクシオンギアと関係していなかったと考える方が妥当だろう。ならば、ゼヴィはザイラスの何に反応していた? そもそも、アクシオンギアって何なんだ?
今までみたいに闇雲に探しても無駄足になるだけ。もっと冷静に情報を整理しないと。
私は背もたれに寄りかかり、作業部屋の天井を見上げた。
まずは、白衣の男の施設で手に入れた情報をまとめよう。
オリジナルは全部で3つしかないこと。
アクシオンギアのオリジナルの製作に両親が関わっていたこと。
アクシオンギアは両親以外の手では再現できず、オリジナルを失えばレプリカすら作れないよう何らかの細工がされていること。
オリジナルのギアは生身と区別がつかないこと。
そして、私の頭の中にあるオリジナルは機械に干渉し、影響を与えることができること。
以上の5つだ。
私は体を前に起こし、顎に手を当てながら考える。
……順当に考えれば、アクシオンギアは生体由来のギア。もしくは、生体と完全に適合できるギアの可能性が高い。
実際にジャッカル区画で見たレプリカも、無数の人間の脳を組み込んだ生体ギアの集合体だった。そして、私の中にあるオリジナルも脳に埋められ、生身と判別できない。
じゃあ、ゼヴィが反応していたザイラスのギアは脳、もしくは生身の部位のどこかだったのか?
確認しようにも、あの施設は崩壊したと聞いている。瓦礫の山からザイラスの死体を見つけるのは不可能だ。諦めた方がいい。
それに、アクシオンギアが生体由来、もしくは生身と完全に融合できるギアと決めつけるには懸念すべき事がある。それは、ブラッドギアが生体由来のギアだけではないという事だ。
ブラッドギアには、完全な機械の腕や足、外付けハード型のギアまで存在している。
生体由来のギアだけだったなら、神経や脳を経由して同一個体の使用者とコアを繋いでいると考えれば説明はつく。
だが、完全な機械は違う。あのコアの解析結果から、ブラッドギアが使用者を端末化するためのギアだと判明した。
そうだとしたら、完全に機械由来のブラッドギアは何を経由して使用者をコアへ繋いでいた?
単に脳へ異常信号を送っているだけなのか? だったら別にブラッドギアじゃなくても干渉できる筈だ。それとも、ブラッドギア自体にレプリカ由来の何かが組み込まれているのか?
どちらにしても、今ここにあるザイラスの部品からは何も見えない。
私はパーツを机へ放り出し、乱雑に前髪をかき上げた。
オリジナルがなければレプリカは作れない。レプリカがなければブラッドギアは作れない。
この前提条件が合っているなら、ザイラスの中にも何かしらオリジナルに繋がる要素があったはずだ。
それが生体由来のギアなのか、生身の部位だったのか、それとも私がまだ見落としている別の何かなのか……手元にある情報だけじゃ判断できない。
「……くそっ」
いや、落ち着け。
オリジナルは全部で三つ。そして、ジャッカルで確認されているブラッドギアは002から派生したものだけだ。だが、ゼヴィはジャッカル区画のギアにも、私やアックス、ザイラスのギアにも反応していた。
なら、ゼヴィは001に強く反応はするが、識別番号に関係なくオリジナル由来であれば嗅ぎ分けることができると断定していい。
これは朗報だ。どうせ全てのオリジナルを壊すんだ。全てを索敵できるのに越したことはない。
でも、結局はそれだけだ。ゼヴィが何に反応しているのかまでは分からない。
分かっているのは、私が期待していたものが、この部品の中には何一つ見当たらないということだけだ。
そもそも何故オリジナルがないとレプリカが作れない? 単純なコピーでは模擬できないのは何故?
複雑に暗号化されてたとしても、レプリカの複製に成功したならばレプリカになるはずだ。少なくとも普通のギアならそうなる。なのに、実際に生まれるのはブラッドギアだ。
オリジナルからレプリカへ。レプリカからブラッドギアへ。その過程で何かが受け継がれているのなら、それこそがアクシオンギアの本質なのかもしれない。
ならば逆に、その過程で何が失われた? 何を持ってオリジナル、レプリカ、ブラッドギアと区別されている?
単純にオリジナルが材料として必要だからなのか。それとも、オリジナルにしか存在しない何かがあるのか。
もし後者なら、アクシオンギアは私が考えているような単純な代物ではないのかもしれない。
「……っ、あぁもう!」
考えれば考えるほど分からなくなる。
とにもかくにも、サンプルが足りない。ブラッドギアの現物があれば、何か見えてくるかもしれない。
そして今、まとまった量のブラッドギアが流れている場所なんて一つしかなかった。
「ゼヴィ! ジャッカルに向かうぞ!」
「待て待て」
「……何だよ」
意気揚々と出発しようとしたところで、レクスに呼び止められた。
「お前、今のジャッカルがどうなってるか分かってんのか?」
「警備が厳しくなった」
「それだけじゃねぇ。余所者を見つけりゃ噛み付く勢いだ」
「そのためのゼヴィだろ」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
レクスは頭を掻きながら続ける。
「ジャッカルとウルフの会談が決裂したのは知ってるな?」
「あぁ」
「じゃあ、その後どうなると思う?」
「どうなるって……」
ジャッカルとウルフの縄張り争いはいつものことだ。特に変わらないんじゃないだろうか?
「大規模な抗争が始まる。そんで、お互いにその準備をしてる」
「!」
「今回のはいつもの小競り合いじゃねぇ。ジャッカルは施設を潰されてるうえ、ボスまで怪しい。ウルフもそれを知ってる。そんな状況で引き下がったらどうなる?」
「……弱ったと思われる」
「正解」
レクスがよくできましたと言わんばかりに指を鳴らした。
「だから両方とも大きく出る。問題はその先だ」
「その先……」
「ジャッカルが弱れば縄張りが空く。ウルフが弱っても同じだ。そんな美味い話を、他のアンダーファイブが黙って見てると思うか?」
確かに、もしジャッカルかウルフが倒れれば、その縄張りや利権は宙に浮く。そうなれば他の勢力が動かないはずがない。こういう時に真っ先に情報を集め始めるのは──。
「……コブラか」
「そうだ。コブラの連中がこういう時に静かだった試しはねぇ。今頃必死に探ってるだろうな。どっちが勝つか、どこが弱るか」
「ヴァイパーは?」
「奴らも同類だ。抗争が始まった時の逃げ道や補給路まで洗ってるかもしれねぇ」
つまり、ジャッカルとウルフだけじゃない。アンダーファイブ全体が動いている。
「グリムクロウも黙って見てねぇだろうな」
「ロザリオも?」
「縄張りには興味ねぇだろうが、混乱は嫌うからな。抗争に乗じて暴れる馬鹿の処理で大忙しだ」
「……」
「まぁ、あの化け物が何考えてるかなんて本人しか分からねぇが」
レクスはやれやれと肩を竦めた。
「今のアンダーズで一番危険なのは、ジャッカルでもウルフでもねぇ。血の匂いに集まってきたハイエナ共だ」
「……じゃあ、どうすればいいんだよ」
ジャッカル区画が危険なのは分かった。アンダーファイブ全体が動いているのも理解した。けれど、それとブラッドギアを追わない理由は別だ。
「だから待てって言ってんだよ。今のジャッカルは巣を突かれた獣だ。近づくだけで噛み付いてくる」
「でも、ブラッドギアはジャッカルから流れてるんだろ」
「だからこそだ。ジャッカルが締め付けを強めれば、売人も運び屋も身を隠す」
「それじゃ追えないだろ」
「全部は隠れねぇよ。クレジットになるからな」
それは分かる。アンダーズで儲かる仕事を、自分から捨てる奴は少ない。
「焦って動く奴が必ず出る。そういう奴の方が見つけやすい」
「つまり……」
「ジャッカルを探すんじゃねぇ。ジャッカルから逃げ出す連中をとっ捕まえんだよ」
レクスはニヤリと笑った。
「抗争が始まれば物も人も動く。だったら俺達も同じだ」
なるほど。つまり、わざわざジャッカル区画に入らなくてもいいってことか。
「……当てはあるのか?」
「あぁ。飛び切り見晴らしのいい場所がある。デートスポットにもおすすめだ」




