コード064 だいじなものーsideゼヴィー
目を開けると、ヴィクがいなかった。
「ヴィク!」
ヴィクが整備してくれる部屋にいるのに、ヴィクがいない。
「ヴィク! ヴィク!」
俺はヴィクの匂いがする方に走る。
「ヴィク!」
「ダメだ」
「……獲物」
ヴィクの匂いがする場所に入ろうとすると、獲物が邪魔した。
「お前は近づくな」
「……」
壊そうと思った。扉ごとぶち壊せば、ヴィクに会えると思ったから。でも、ヴィクが獲物はダメだと言っていた。だから止めた。
「…………ヴィク」
「ヴィクなら寝てる。今は休ませろ」
「……」
「……とにかく、お前はこの部屋に入んな。いいな?」
そう言って、獲物がヴィクの部屋に入って行くのを俺は見ていた。
俺は扉の前に座って、ヴィクが出てくるのを待つ。
……ザイラスをぶち壊したのに、まだ壊し足りない。もっともっと壊せばよかったとゾワゾワする。
「ヴィク……」
ザイラスはヴィクを壊そうとする。だからぶち壊す。何度でも、何度でもぶち壊す。そうしないと、ヴィクが壊される。ヴィクが壊れるのは──
「いやだ……」
ヴィクは旨い匂いがする。旨いものをくれる。ヴィクはあったかい。あったかくて、ヴィクに整備されるとポカポカする。
ヴィクは命令する。ちゃんとできると褒めてくれる。そんで、いっぱい整備してくれる。一緒にいてくれる。名前を呼んでくれる。
ヴィクが楽しいと、俺も楽しい。ヴィクを見てると、俺もあったかくなる。
でも、なんでだろう。
ヴィクが獲物を見る顔はあったかくなる。でも、俺にはしない。褒めてくれるのに、あったかくなる顔はしない。
「……ヴィク」
ヴィクは獲物に怒る。でも、あったかくなる顔もする。俺にも怒る。でも、あったかくなる顔をしない。見てくれなくなる。
どうしてヴィクは、俺にあったかい顔をしない? どうして獲物にだけあったかくなる?
──獲物みたいになれば、ヴィクも俺にあったかい顔をする?
「おい」
「……」
獲物の声が聞こえた。顔を上げると、獲物がいた。
「いつまで座ってんだよ。邪魔だ」
「……獲物」
「……なんだよ」
獲物と俺の違いはなんだ?
「どうしてヴィクは、俺にあったかい顔をしない?」
「…………は?」
獲物は変な顔をしていた。俺を見たまま、何も喋らない。
「どうして獲物にしかあったかい顔をしない? 俺とてめぇの何が違う?」
「……あー」
獲物は頭を掻きながら俺を見る。
「そりゃ、まぁ……アレだ」
「どれだ」
「……お前は、ヴィクの大事なモンを壊したんだよ」
「だいじなもの……」
だいじなもの。ザイラスも言っていた。
「だいじなものって、なんだ?」
「……壊されたくないもんだよ」
「壊されたくない? 俺は、ヴィクの壊されたくない物を壊したのか?」
「そうだ。……今のお前なら分かるだろ」
俺が壊されたくないのはヴィクだ。ヴィクが壊されたと思うと──
「……」
「ヴィクがお前に向けてるのは、そういうのだ」
「……」
「……だから、ヴィクが落ち着くまでお前は作業部屋に戻ってろ」
獲物はそう言うと、またヴィクのいる部屋に戻った。
俺はもう部屋に入れなかった。獲物に言われた作業部屋の方へ歩いた。……なんでか足が重かった。
俺は作業部屋のベッドに寝る。そして、ヴィクのだいじなものを考える。
ヴィクのだいじなものは、何だったんだろう。獲物は俺が壊したと言っていた。でも、何がヴィクのだいじなものだったのか、分からない。
ヴィクは、そのだいじなものを直さないのか? ヴィクなら直せるんじゃないのか?
ヴィクは直せない物はないと言っていた。じゃあ、そのだいじなものを何で直さない?
分からない。
分からない。
どんなに考えても分からない。
ただ、一つだけ分かっているのは……。
「ヴィクは、俺を壊したい……」
俺は、ヴィクを壊すやつがいるなら壊したくなる。ヴィクが壊されたら、壊しても壊しても壊したりない。だから、きっとヴィクも同じだ。
「そうか! ヴィクに壊されたらいいのか!」
ヴィクが俺を壊す。きっと、ヴィクは楽しくなる。ヴィクに壊されるなら、俺も楽しい。
壊れる時に、ヴィクが一緒にいてくれるなら──
「……あったかい」
ヴィクにも伝えたい。俺を壊してくれと伝えたい。でも、今は獲物がダメだと言っていた。
俺は目をつぶって、ヴィクが作業部屋に戻ってくるのを待った。
◇ ◇ ◇
ヴィクの匂いがする。
カチャカチャと、いつもの音がした。
「……ヴィク」
目を開けるとヴィクがいた。ヴィクは俺の腕を直していた。
「ヴィク!」
「…………」
ヴィクは何も喋らない。いつも通り、あったかい手で俺を直してくれる。
「ヴィク! ヴィク!」
「……何だよ」
名前を呼ぶと、ヴィクは俺を見てくれた。俺に触れたまま、俺を見てくれる。
「おいっ! 動くな! 手元が狂うだろ!」
「ヴィク! ヴィク!」
ヴィクの匂いを嗅ぐ。壊れた匂いはしない。いつもの旨い匂いしかしない。
……あぁ。ヴィクは大丈夫だった。どこも壊れてない。いつものヴィクだ。
「……ヴィク」
「……気が済んだなら離れろ。作業の邪魔だ」
「ヴィク……」
「今度は何だよ」
何でだろうな。何でヴィクにくっつくと、こんなにあったかいんだろうな。
「命令がなくなったら、壊して欲しい」
「は? 何言って……」
ヴィクは命令してくれる。命令してくれる時は俺を見てくれる。でも、命令がないと俺を見てくれない。だから……。
「いつかきっと、俺を壊して欲しい」
命令がなくなったその時は……。
「ヴィクの手で、ぐちゃぐちゃに壊して欲しい」
それはきっと、一番楽しい。壊すよりもずっとずっと楽しい。
「……」
ヴィクは何も言わなかった。手を止めて、横を向いた。
「……ヴィク?」
どうしたんだろう? きっと、ヴィクも楽しいと思ったのに、ヴィクは楽しくなさそうな顔をしていた。
修理の手も止まってる。ヴィクには楽しくない事だった?
「ヴィク?」
「……当然だろ」
「!」
でも、ヴィクはまた俺を見てくれた。また俺に触れてくれた。
「お前を壊すのは私だ。私以外に壊されたら……一生、許さない」
「分かった!」
よかった。ヴィクもいいって言ってくれた。楽しい。楽しい。楽しい。
──でも、何でだろう。
ヴィクの顔は全然あったかくなかった。




