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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第2章 連結編

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コード064 だいじなものーsideゼヴィー

 目を開けると、ヴィクがいなかった。


「ヴィク!」


 ヴィクが整備してくれる部屋にいるのに、ヴィクがいない。


「ヴィク! ヴィク!」


 俺はヴィクの匂いがする方に走る。


「ヴィク!」

「ダメだ」

「……獲物」


 ヴィクの匂いがする場所に入ろうとすると、獲物が邪魔した。


「お前は近づくな」

「……」


 壊そうと思った。扉ごとぶち壊せば、ヴィクに会えると思ったから。でも、ヴィクが獲物はダメだと言っていた。だから止めた。


「…………ヴィク」

「ヴィクなら寝てる。今は休ませろ」

「……」

「……とにかく、お前はこの部屋に入んな。いいな?」


 そう言って、獲物がヴィクの部屋に入って行くのを俺は見ていた。


 俺は扉の前に座って、ヴィクが出てくるのを待つ。


 ……ザイラスをぶち壊したのに、まだ壊し足りない。もっともっと壊せばよかったとゾワゾワする。


「ヴィク……」


 ザイラスはヴィクを壊そうとする。だからぶち壊す。何度でも、何度でもぶち壊す。そうしないと、ヴィクが壊される。ヴィクが壊れるのは──


「いやだ……」


 ヴィクは旨い匂いがする。旨いものをくれる。ヴィクはあったかい。あったかくて、ヴィクに整備されるとポカポカする。


 ヴィクは命令する。ちゃんとできると褒めてくれる。そんで、いっぱい整備してくれる。一緒にいてくれる。名前を呼んでくれる。


 ヴィクが楽しいと、俺も楽しい。ヴィクを見てると、俺もあったかくなる。


 でも、なんでだろう。


 ヴィクが獲物を見る顔はあったかくなる。でも、俺にはしない。褒めてくれるのに、あったかくなる顔はしない。


「……ヴィク」


 ヴィクは獲物に怒る。でも、あったかくなる顔もする。俺にも怒る。でも、あったかくなる顔をしない。見てくれなくなる。


 どうしてヴィクは、俺にあったかい顔をしない? どうして獲物にだけあったかくなる?


 ──獲物みたいになれば、ヴィクも俺にあったかい顔をする?


「おい」

「……」


 獲物の声が聞こえた。顔を上げると、獲物がいた。


「いつまで座ってんだよ。邪魔だ」

「……獲物」

「……なんだよ」


 獲物と俺の違いはなんだ?


「どうしてヴィクは、俺にあったかい顔をしない?」

「…………は?」


 獲物は変な顔をしていた。俺を見たまま、何も喋らない。


「どうして獲物にしかあったかい顔をしない? 俺とてめぇの何が違う?」

「……あー」


 獲物は頭を掻きながら俺を見る。


「そりゃ、まぁ……アレだ」

「どれだ」

「……お前は、ヴィクの大事なモンを壊したんだよ」

「だいじなもの……」


 だいじなもの。ザイラスも言っていた。


「だいじなものって、なんだ?」

「……壊されたくないもんだよ」

「壊されたくない? 俺は、ヴィクの壊されたくない物を壊したのか?」

「そうだ。……今のお前なら分かるだろ」


 俺が壊されたくないのはヴィクだ。ヴィクが壊されたと思うと──


「……」

「ヴィクがお前に向けてるのは、そういうのだ」

「……」

「……だから、ヴィクが落ち着くまでお前は作業部屋に戻ってろ」


 獲物はそう言うと、またヴィクのいる部屋に戻った。


 俺はもう部屋に入れなかった。獲物に言われた作業部屋の方へ歩いた。……なんでか足が重かった。




 俺は作業部屋のベッドに寝る。そして、ヴィクのだいじなものを考える。


 ヴィクのだいじなものは、何だったんだろう。獲物は俺が壊したと言っていた。でも、何がヴィクのだいじなものだったのか、分からない。


 ヴィクは、そのだいじなものを直さないのか? ヴィクなら直せるんじゃないのか?


 ヴィクは直せない物はないと言っていた。じゃあ、そのだいじなものを何で直さない?


 分からない。


 分からない。


 どんなに考えても分からない。


 ただ、一つだけ分かっているのは……。


「ヴィクは、俺を壊したい……」


 俺は、ヴィクを壊すやつがいるなら壊したくなる。ヴィクが壊されたら、壊しても壊しても壊したりない。だから、きっとヴィクも同じだ。


「そうか! ヴィクに壊されたらいいのか!」


 ヴィクが俺を壊す。きっと、ヴィクは楽しくなる。ヴィクに壊されるなら、俺も楽しい。


 壊れる時に、ヴィクが一緒にいてくれるなら──


「……あったかい」


 ヴィクにも伝えたい。俺を壊してくれと伝えたい。でも、今は獲物がダメだと言っていた。


 俺は目をつぶって、ヴィクが作業部屋に戻ってくるのを待った。



   ◇ ◇ ◇



 ヴィクの匂いがする。


 カチャカチャと、いつもの音がした。


「……ヴィク」


 目を開けるとヴィクがいた。ヴィクは俺の腕を直していた。


「ヴィク!」

「…………」


 ヴィクは何も喋らない。いつも通り、あったかい手で俺を直してくれる。


「ヴィク! ヴィク!」

「……何だよ」


 名前を呼ぶと、ヴィクは俺を見てくれた。俺に触れたまま、俺を見てくれる。


「おいっ! 動くな! 手元が狂うだろ!」

「ヴィク! ヴィク!」


 ヴィクの匂いを嗅ぐ。壊れた匂いはしない。いつもの旨い匂いしかしない。


 ……あぁ。ヴィクは大丈夫だった。どこも壊れてない。いつものヴィクだ。


「……ヴィク」

「……気が済んだなら離れろ。作業の邪魔だ」

「ヴィク……」

「今度は何だよ」


 何でだろうな。何でヴィクにくっつくと、こんなにあったかいんだろうな。


「命令がなくなったら、壊して欲しい」

「は? 何言って……」


 ヴィクは命令してくれる。命令してくれる時は俺を見てくれる。でも、命令がないと俺を見てくれない。だから……。


「いつかきっと、俺を壊して欲しい」


 命令がなくなったその時は……。


「ヴィクの手で、ぐちゃぐちゃに壊して欲しい」


 それはきっと、一番楽しい。壊すよりもずっとずっと楽しい。


「……」


 ヴィクは何も言わなかった。手を止めて、横を向いた。


「……ヴィク?」


 どうしたんだろう? きっと、ヴィクも楽しいと思ったのに、ヴィクは楽しくなさそうな顔をしていた。


 修理の手も止まってる。ヴィクには楽しくない事だった?


「ヴィク?」

「……当然だろ」

「!」


 でも、ヴィクはまた俺を見てくれた。また俺に触れてくれた。


「お前を壊すのは私だ。私以外に壊されたら……一生、許さない」

「分かった!」


 よかった。ヴィクもいいって言ってくれた。楽しい。楽しい。楽しい。


 ──でも、何でだろう。


 ヴィクの顔は全然あったかくなかった。


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