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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第2章 連結編

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コード061 猿真似野郎ーsideレクスー

 奴の右腕のブレードが振り下ろされた。俺は半身になりながら刃を弾く。


 耳障りな金属音と同時に散る火花。視界が白く弾けたかと思えば、奴の蹴りが迫っていた。


「チッ」


 銃で受けると衝撃が骨まで響いた。距離を取ろうにも、黒い装甲は滑るように踏み込んでくる。


 俺は受けた反動のまま銃口を跳ね上げ、至近距離から引き金を引いた。


 奴は首を僅かに傾けるだけで回避する。弾丸が壁に突き刺さり、黒い液体が舞った。


「……何が血生臭いのが苦手だ」


 吐き捨てると同時に、右腕のブレードを叩き込む。奴はそれを容易く受け止めた。


「んなビンビンに殺気出しといて、よく言えたもんだ」

「耳が痛いね」


 ……あぁ、ムカつく。


 鍔迫り合いになり、互いのギアが軋みを上げた。


 視界いっぱいに映る黒い装甲が、どうしようもなく俺の神経を逆撫でる。


 似ている。似過ぎている。装備(ギア)も、動きも、話し方も。


 だから鬱陶しい。


「ま、そういうアンタも人のこと言えないみたいだが?」

「その格好でにこやかにお茶でもしようってか? せめてツラぐらい拝ませろよ」

「こう見えてシャイなんだ」


 クソッ。今は考えるな。目の前の敵に集中しろ。


 奴の顔面に鉛玉をぶち込みたかったが、距離を取られ舌打ちする。そして、互いを睨み合うように向き合った。


「仕事なんでな。悪く思わないでくれ」

「の、割には随分とお優しい仕事ぶりじゃねぇか」


 俺の言葉で奴の動きが僅かに止まる。けれど、すぐに攻撃を仕掛けてきた。


「何の話だ」

「しらばっくれんなよ」


 俺はニヤリと笑いながらブレードの出力を上げ、振り下ろす。


「お前なら止められたはずだ」


 奴のブレードに受け止められたが、そのまま顔を近づけた。


「なのに行かせた」

「……」

「それとも、ただのサボりだったか」


 奴は踏み込みながら刃を逃がし、拳を振るう。


「ペットの時もそうだ。ヴィクを殺せた癖に、あえて殺さなかった(・・・・・・)

「……」


 肘、蹴りと連撃が続いたが全て受け流し、足のブースターを吹かせながら、顎を狙って蹴り上げる。


「否定しねぇんだな」


 が、奴は高く跳躍して後ろに下がった。


「……面白い冗談だ」


 相変わらず、奴の声は機械音声で感情の欠片もない。それでも、確かに反応はあった。


 俺は銃口を向けたまま肩を竦める。


「んなら質問を変えてやる」


 狙いを定め、引き金に指を掛けた。


「お前らの目的は何だ?」


 銃声が響く。


「ヴィクをどうするつもりだ」


 奴が避ける方向を予測して先回りする。そのままブレードで突き刺そうとしたが、奴は左手(・・)のギアを展開させた。


 電子画面が浮かび上がる。


「……猿真似野郎が」


 壁の中からカチカチと音が鳴る。冷却ラインの隙間。通信ケーブルの束。神経束の影。そこから、黒い小型機が這い出してくる。


「どんだけ見てきたと思ってんだ」


 奴が左腕の電子画面に指を滑らせると同時に、床に流れていた冷却液が青白く弾けた。


「全部読めてんだよ!!」


 俺は反射的に跳び、足裏のブースターを吹かせて壁を蹴る。そのまま右腕の射出ユニットを展開させた。


 ドローンへは向けない。壁面の冷却ラインへ照準を合わせる。


「っ!?」


 初めて、奴が明らかに反応した。スパイク弾が突き刺さり、配管が爆ぜる。


「そこだろ? お前のハックした場所(イイトコ)

「……」


 制御を失ったドローンは動力を失ったのか、そのまま動きを止めた。


「せっかくの一対一(デート)だ。野暮は無しだろ?」

「…………ははっ」

「……?」


 急に奴が顔に手を当て、笑い声をあげる。


 俺は眉を潜めながら見ていると、奴は一通り笑った後に俺を見た。


「……そうか。アンタ……()を知ってるな?」

「!」


 俺は動揺を悟られないように平静を装う。


「さぁて、どうだろうな」

「あー、いい。いい。いらねぇから、そういうの」


 奴は面倒そうに片手を降った。


「しっかし、おかしいな……私の可愛い部下達は全員死んだはずなんだが……」

「……」

「……違うな。ローガンだけはあん時にいなかったか」

「……」


 俺は奴の疑問に答えないまま睨み続ける。


「でも、ローガンじゃないだろ? 誰だ?」

「……」

「黙りか」


 奴は複数の電子画面を表示させた。


「まぁいい」


 その直後、電子画面を覆い尽くすように演算コードが流れ始める。


「直接聞くまでだ!」

「……っ!」


 攻撃を流しながらも、視線は画面から外さない。


 あれはよく隊長がギャンブルに使っていた情報収集機能だ。だが、本来の用途は違う。


「それ、見えてる」

「チィッ!」


 相手の癖を拾い上げ、先回りしてくるクソ機能だ。


「……反則だっての」


 死角から迫る攻撃をいなしながら隙を探るが、その度に先回りされる。


「じゃあこれも知ってるか!?」

「っ!」


 奴が擬装ホログラムを展開する。


 増殖した影が一斉に迫り、そのままブレードを振り下ろした。


「ぐっ」


 何とかかわしたものの、脇腹に熱が走る。


「……あぁ、知ってる」


 そう呟きながら、俺は構わず後ろへ刃を突き出した。


 ザクリと嫌な感触が伝わる。


 振り返れば、奴の腹に深々とブレードが突き刺さっていた。


「が、あの人にしちゃぁ、いささかお利口すぎたな」


 ゆっくりと刃を引き抜くと、盛大に血が吹き出す。


 奴の身体がぐらりと傾き、そのまま床へ崩れ落ちた。


「詰めが甘かったな猿真似野郎」


 俺は倒れた奴へ歩み寄り、一体どんなクソ野郎がこんなクソみてぇな事をしていたのか。


 それを確かめるように、奴の仮面に向かって刃を叩き込んだ。


「……は?」


 けれど、砕けた仮面の下から現れた顔を見て、思考が止まる。


「な、んで……」


 艶のある金髪。見慣れた顔立ち。


 忘れようとして、忘れられなかった面影。


 ありえない。俺が……間違えるはずがない。


「たい……ちょう……」


 嘘だ。そんな……そんなはず!


「だって、俺は……俺はあん時!」


 ズキズキと右腕が痛む。頭が割れるように痛み、呼吸ができない。


 ──『エリオン』──


 優しく、俺の名を呼ぶ彼女の声が聞こえた。


 ──『まぁたそんなモンばっか食って。ほれ、差し入れだ』──


「……あぁ」


 任務帰りの休憩室。隊長が投げて寄越した合成サンドを、俺は無言で受け取った。


 ──『そんな顔すんなって。失敗ぐらい誰でもする』──


「……やめろ」


 失敗報告書を握り締めていた俺に、隊長は缶コーヒーを押し付けながら笑っていた。


 ──『お前は真面目すぎんだよ』──


「やめてくれ……」


 隊長の始末書を書いている俺の横で、隊長は平然とゲームをしていた。


 ──『少しはサボること覚えろ、エリオン』──


「俺はっ!!」


 そう言いながら本人が真っ先にサボるものだから、仕事が溜まりすぎて何度も尻拭いをさせられた。


 ──『お前は一人で抱え込みすぎなんだよ』──


「たい、ちょう……」


 俺は……また、あの人をこの手で──っ!


 ──『レクス!』──


「!」


 けれど、最後に聞こえた声にハッと意識が戻る。


「……ヴィク」


 ──『ツケは、許さねぇからな』──


 そうだ。ヴィク。


 ヴィクを、……迎えにいかねぇと。


「……あぁ、そうだよな」


 俺は呼吸を整えながら、頭の痛みが引くのを待つ。


「クレジット分の、働きはしねぇと」


 落ち着いてくると、周りも見えてきた。そこでようやく違和感に気づく。


 倒れている隊長らしき身体から、青白い火花が散っていた。


 肩が小さく震え、首筋が痙攣する。瞼が不自然に動き出した。


「……なんだ、これ」

『損傷率六十三パーセント』

「……は?」


 先ほどとは違う意味で思考が停止する。


『戦闘継続不能』


 彼女と似た声で、感情のこもらない音声が流れ続けている。


『代替個体との同期を開始──10%、15%、35%』

「なに、言ってやがる……」


 理解が追いつかなかった。


 代替個体? 同期? コレ(・・)は一体何なんだ。


 俺の脳が処理する前に、音声だけは淡々と続いていた。


『62%、77%、89%──』


 止める間も無く、数字だけがどんどん積み上がっていく。そして──


『同期完了』


 その言葉と同時に、隊長の姿をした何かの全身に電流が走り、糸が切れた人形みたいに崩れ落ちた。それきり動かない。


「なんなんだ、いったい……」


 いや、それよりもコイツはなんて言っていた?


 代替、同期とか言っていなかったか? じゃあなんだ? 隊長と似た姿をした何かは、まだいるってのか?


「クソったれ!」


 俺は感情をぶつけるように、壁を殴る。


 ……落ち着け。こんなことしてる場合じゃねぇ。


 今一番優先すべきなのはヴィクだ。猟犬はいても、絶対に安全とは言えない。


 今度こそ……今度こそは失うわけにはいかねぇ。早くヴィクの元に向かわねぇと。


 そう思考を切り替えた瞬間、ピリリと電子音が鳴った。


 こんな時に何なんだと舌打ちしながら、走りつつ携帯デバイスの通話をオンにする。


「おい、お前と話してる暇は──」

『レクス、一刻も早くコアを壊せ』

「あ?」

『状況が変わった』

「……どういう事だ」


 電子画面の向こうでも、戦闘が繰り広げられているのか、激しい金属音と銃声が聞こえた。


『カリムは偽物だった。ジャッカルはすでにコウモリに食われてる』

「何だと?」

『詳しく話してる時間はない。早くしなければブラッドギアが暴走して──くっ!』

「おい!」


 俺が何かを言う前に、ローガンは背後から襲いかかった敵をかわし、そのまま撃ち抜いた。


『とにかくコアを壊せ! いいな!』

「おい! 待てって!」


 けれど、俺が引き止める間も無くローガンは通話を切った。再度繋げようにも出る様子はない。


「クソが……」


 意味が分からねぇ。


 隊長にそっくりな化け物。偽物のジャッカル。暴走するブラッドギア。


 頭の中が滅茶苦茶だった。


 だが、一つだけは分かる。


「ヴィクを回収してコアをぶっ壊す」


 それだけだ。


 右腕のギアを起動させながら通路を駆けていると、奥の暗闇が蠢いていた。


 それも、ひとつじゃない。何十という赤い光が一斉にこちらを向いた。


「……あー」


 思わず空を仰ぎたくなる。けれど、そんな暇もない。


 脈打つ肉塊を引き摺りながら、オーバースペック体達が通路を埋め尽くしていた。


「今日厄日か?」


 誰に言うでもなく呟く。当然、返事はない。


 代わりに返ってきたのは獣みたいな咆哮だった。


「もう予約は埋まってんだよ」


 俺は深く息を吐きながら銃を構える。


「割り込み禁止だ」


 次の瞬間、俺は群れのど真ん中へ突っ込んだ。


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