表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第2章 連結編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/71

コード060 狼と胡狼ーsideローガンー

 俺はエリオンとの通信を切ると、展開していた電子画面を閉じた。


 通信を行っていたのは、会合場所から数ブロック離れた監視ポイントだ。


 ジャッカルの監視網の内側で長々と通信するほど間抜けじゃない。長く繋げば足が付く可能性がある。必要最低限の情報は渡した。続ける理由はない。


 俺は擬装ホログラムを再起動してから会合場所へ戻り、裏口から店内へ入った。


 薄暗い店内には、安酒と薬品の臭いが重たく淀んでいた。スピーカーから流れる古いジャズも、この場ではノイズでしかない。


 雑談する声は聞こえる。だが、誰一人として気を緩めてはいなかった。笑っていても、全員が互いの射線に入らない位置を取って警戒している。


 それもそうだろう。最奥のボックス席ではジャッカルのボス、カリム・タズナールと、ウルフのボスであるジャグナス・ロークが向かい合っている。


 アンダーズを牛耳る獣が二匹もいるのだ。神経を張るなという方が無理な話だ。


 俺は自然な足取りで近づきながら、奴らの背後にいる護衛へと視線を向ける。


 ……ジャッカル側はブラッドギア装着者が六人か。


 瞳孔は開き切り、こめかみには赤黒い神経ラインが浮かんでいた。視線は定まらず、指先は痙攣するように震えている。まともな精神状態ではないのは明らかだった。


 対するウルフ側は二人。どちらも重装型コンバットギア持ちだ。


 数ではなく個々の性能、というわけか。一歩踏み込めば即座に殺せる位置を取っている。


 俺は気配を完全に消し、奴等の声が鮮明に聞こえる位置まで近づいた。そして、始まりを待つ。


「よぉ」


 先に口を開いたのはジャグナスだった。


「随分と、死に急ぐようになったなぁ」

「ハッ」


 ジャグナスの挑発を、カリムは鼻で笑う。


「ノコノコと敵地に現れた奴に言われたかねぇな」

「敵地?」


 ジャグナスは酒瓶を掴むと、そのまま喉へ流し込んだ。


「俺の後ろをくっついてた犬が、よく吠えたもんだ」

「今なら噛み殺せるぜ。試してみるか?」

「テメェじゃ無理だな」


 空になった瓶が、ジャグナスの指先でカラカラと転がった。その直後、ジャッカル側の護衛達が僅かに身構える。


 ……殺気に反応したか。


「部下に薬キメさせるなんざ、底が見えてる」

「便利だからな。吠えるだけの馬鹿より扱いやすい」


 カリムは背もたれに深く身体を預けながら、酒を煽る。


「てめぇんとこの犬共は、腹減らすと飼い主まで食うだろ」

「だから躾けんだよ」


 ジャグナスの口角が僅かに吊り上がるが、目は笑っていない。


「弱ぇ奴は死ぬ。暴れる奴は潰す。そんだけだ」

「相変わらず脳筋だな」

「その脳筋に尻尾振ってたろ」

「そんで腹ぁ食い破った」


 空気が変わる。


 ジャッカル側の護衛が腰へ手を添え、ウルフ側では重装ギアの駆動音が小さく唸った。


 ブラッドギア装着者達の呼吸は荒く、興奮を抑えきれていない。いつ暴れ出してもおかしくはなかった。


 逆にウルフ側は冷静だった。引き金に指を掛けるでもなく、確実に殺せる間合いを維持している。


 ……ウルフの方が明らかに手練れだ。もしここで撃ち合いになれば、分が悪いのはジャッカルだろう。


「忘れたわけじゃねぇだろ?」

「おしめの変え方も分からねぇガキが。偉くなったもんだな」

「ついでにあんよも上手になった。見せてやろうか?」


 ……ジャグナス、何を考えている。


 俺は込み上げる溜め息を押し殺す。


 散々目的は時間稼ぎだと伝えたはずだ。なのに五分も経たず殺気を飛ばしあっている。


 これだから感情に振り回される連中は見ていられない。


 最悪の場合に備えて、この場を強制的に流す準備はしてある。……が、使わずに済むならそれが一番だ。


 俺は自身の介入の必要性を測りながら、無音でギアを起動させた。


「……まぁいい。こんな下らねぇ話をしにきたワケじゃねぇ」


 けれど、俺が動く前にジャグナスが仕切り直すように口を開く。


「ブラッドギア。どういうつもりだ?」

「……」


 カリムは答えない。


 スピーカーから流れる古いジャズだけが、やけに耳についた。


「ウルフ区画で好き勝手やってくれたらしいな」

「商売だ。テメェに指図される筋合いはねぇ」

「商売、か」


 ジャグナスが肘をつく。


「派手にやってくれたじゃねぇか。俺のシマでオーバースペック体まで出しやがって」

「力を欲しがる馬鹿はどこにでもいる。てめぇの区画なら尚更だと思うが?」


 カリムがそう答えると同時に、ジャグナスの目付きが変わる。


「……口が回るようになったな」

「あぁ。俺が勝手に流通させたワケじゃねぇ。てめぇんとこの馬鹿が勝手に買い付けに来ただけだ」

「手口もお利口になったじゃねぇか」


 ジャグナスは椅子に深く座り直し、手遊びを止める。


「クロウの事もそうだ。テメェらしくねぇ」

「利益に見合った合理的考えだろ?」

「昔のテメェなら、筋通す前に噛み付いてたろ」

「ボスやってりゃ嫌でも変わる」

「……なるほどな」


 そこで初めて、ジャグナスは酒瓶から手を離した。


 ゴトッ、と重たい音がテーブルへ響く。


「テメェ、そういうのが死ぬほど嫌いだったろ」

「何が言いてぇ」

「工場地帯で腕飛ばした時もそうだ」


 ジャグナスはカリムを真っ直ぐ見ながら続ける。


「……昔のテメェは、ガキ庇って腕飛ばすような馬鹿だったろ」

「……」

「そんで、まともなギア付けりゃもっと上がれるっつったのに、何を(・・)引きずってか錆びたスクラップを巻き付けたまま暴れやがって……」


 返事がない。


 いや、違う。返しが妙に遅い。まるで、一度答えを探してから喋っているみたいだった。


「ウルフの回収屋を名乗る命知らずが、そん時のガキだった時はびっくりしたぜぇ?」


 先程までの挑発的な空気とは違い、ジャグナスは獲物の臭いを嗅ぎ当てた獣みたいに、視線だけでカリムを探っていた。


「テメェ……──誰だ?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ