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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第2章 連結編

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コード052 許されなくてもいいから

「ゼヴィ。それと、あとそこの黒い箱もガレージへ運べ」

「分かった」


 今日納品予定のギアパーツをゼヴィに運ばせていると、2階からドタバタと騒がしい音が聞こえてきた。


「……ん?」

「だああああああ! アイツ等ああああ!!」


 叫びながら2階から降りて来たのはレクスだった。


 起きたばかりなのか頭はボサボサで、いつものナノトレンチコートも着ていない。


 そのままガレージへ入っていく姿を見て、私は小さくため息をついてから先に台所へ足を向けた。




 ガレージに入ると、レクスはすでに身支度を始めていた。テーブルの上には分解途中の武器のパーツと弾薬が雑に広げられ、その隙間で、手慣れた動きで弾倉に銃弾を押し込んでいる。


 また(・・)緊急の依頼が入ったな。


 私は何も言わず、そっとレクスの隣に立つ。そして、手に持っていた合成パンをレクスの口に突っ込んだ。


「はい」

「んぐ。たふゅかる」


 パンを咥えたままでもレクスの手は止まらない。


 無駄のない動きで装備を整え、最後にボロボロのナノトレンチコートを羽織ると、ゴクリとパンを飲み込んだ。


「今日はどっち?」

「両方だ。……ったく、アイツ等、限度ってのを知らねぇのか」


 苛立ちを滲ませたまま背を向け、出入口へ歩き出す。そのまま依頼に向かうかと思えば、手前で足を止めてこちらを振り返った。


「あ、絶対にお前は受けるなよ。特にジャグナス!」

「分かってるって……」

「夜には帰る。マジで受けんなよ!」

「はいはい」


 念を押すように言い残し、レクスは出ていった。


「何回言えば気が済むんだアイツは……」


 もう耳タコだよとうんざりしながら、私も納品の準備を再開する。



 最近、この便利屋には依頼が殺到している。主な依頼主はジャグナスとローガンさんだ。


 原因は……まあ、スクラップバザールでの一件だ。


 あの後、レクスが仲介に入り、コウモリのマークについて調べることになった。そのカモフラージュとして、複数の依頼を受けることになったのだ。


 同じ案件だけを追っていれば、すぐに足がつく。だから、どうでもいい依頼も混ぜて動きを散らしている、という訳だ。


 依頼も直接ではなく、仲介屋であるニックさん経由で回ってくる。依頼元をぼかし、関係を悟られないようにするために。


 ……とはいえ、いくつもの依頼を受けるのはレクスにとっては面白くない話だったようだ。


 だから最初は渋っていた。「どんな依頼をされるか、たまったもんじゃねぇ」と。


 でも、私が代わりに受けようかと聞くと、それはダメだと断固拒否された。


 結局、なんやかんやで引き受けることになり、今みたいに慌ただしく出ていく朝も増えた。


 レクスは大変そうだが、ニックさんは大口の顧客を失ったばかりだったから、ジャグナスと繋がれたことを喜んでいたし、クレジットもきちんと支払われている。借金返済の目処も立ちそうで、私としても悪くはない。


 今の私にできることは、カムイからの情報を待つことだけだ。情報がなければ動けない。


 同時に、アックスとザイラスという二人組の傭兵についても調べてもらっている。


 とりあえず、何があってもいいように備えておこう。



   ◇ ◇ ◇



 今、私はロザリオ区画に来ている。リゼ婆の店で修理屋を営んでいた場所の近くだ。


「おお! 前より動きやすくなってる! 流石だなぁ」

「当然。誰の腕だと思ってんの」


 目の前で腕をぐるぐる回しているのは、ガロンおじさん。ロザリオにいた頃からの常連客だ。


「いやぁ、ヴィクちゃんの修理屋がなくなったって聞いた時は驚いたけど、また修理してもらえて嬉しいよ。ヴィクちゃん以上の修理屋はいないからねぇ」

「褒めてもクレジットはまけないよ」

「はっはっはっ! それは残念だ」


 そう言いながら、ガロンおじさんはウォレットチップを取り出し、私に差し出す。


 私はチップを受け取り、デバイスで中身を確認する。「まいど」とだけ言って、それを懐にしまった。


「今は便利屋のところにいるんだって?」

「なりゆきでね」

「大丈夫なのか? ほら、あんま良い噂きかねぇし」

「そんなの常連の時から知ってるよ。だからツケの請求がてら居座ってんの」


 肩をすくめてそう返すと、ガロンおじさんは周囲をキョロキョロと見回し、内緒話でもするみたいに口元に手を当てた。


「いや、そうじゃなくてさ……結構黒い噂があんだろ?」

「……黒い噂?」

「そうそう。特に有名なのは……なんでもあの男、元レギオンらしいぞ。そんで、その中でも特にやべぇ部隊の──」

「何してんだいアンタ!」

「いってぇええ!!」


 言いかけたところで、ミラおばさんの拳がガロンおじさんの頭に落ちた。


「何、ヴィクちゃんが不安になるようなこと言ってんだい」

「ちょっ、ちが……俺はただ心配して……」

「それが余計なお世話だって言ってんだよ!」

「いってえええええ!」


 追い打ちとばかりに床へ叩き伏せられ、ガロンおじさんはそのまま悶絶しながら転げ回った。


「……まったく。気のきかない旦那で悪いね」

「あ、いや……おかまいなく」


 そう返しながらも、さっきの言葉が頭から離れない。


 レクスが……元、レギオン?


 じゃあ、本当はアックスのことも知っていた……?


 もしかして……あの時、様子がおかしくなったのも。あのギアが同じだったのも。やっぱり、それが関係して──


「大丈夫かい?」

「!」


 思考を断ち切る声に、はっと顔を上げる。すると、ミラおばさんが心配そうに私を見ていた。


「……リゼ婆のことは聞いたよ。災難だったね」

「……」


 リゼ婆は私がいたせいで殺された。私が殺したようなものだ。


 何て返せばいいのか分からず、言葉が出ない。


 それでもミラおばさんは、優しく微笑んだままだった。


「詳しい事情は知らないけど、何かあったらいつでも来な。私にとっても、ヴィクちゃんは娘みたいなもんだからね」

「ミラおばさん……」


 ……やっぱり、この区画の人たちは他とは違う。優しくて、温かい。そう思うほど、ここには居られないと突きつけられる。


 私のせいで、この優しい人たちを傷つける訳にはいかないから……。


「それに、デリカシーのない旦那を持つもの同士、話したい事もたくさんあるしね」

「私、結婚した覚えはないけど」

「あら……」


 間の抜けたやり取りに、思わず肩の力が抜けた。


 私の即答に、ミラおばさんは驚いたように目を丸くしている。


「そうだったのかい? 一緒に住み始めたって聞いてて、まさかとは思ってたけど……アンタ、髪も伸びて言葉使いも女の子らしくなってたから、てっきり……」

「やめてやめて、本当にやめて。私にも選ぶ権利はあるから」

「そうなのかい?」

「そもそも私はあざと可愛い系男子が好きなの。あんな冴えないおっさんはない。絶対にない」


 何が悲しくて、あんなロクデナシと結婚なんかしなきゃいけないんだ。


 やらしい店には行くし、酒もギャンブルもやめないし、ツケは溜めるし、だらしないし、部屋は汚いし……。


 ……そりゃ、まあ。最近は、そういうのもしてないけど。ちょっとだけ、見直したところもあるけど。


 ちゃんと依頼はこなすし……約束も守ってくれるし……なんか、その……安心するなって思うことも──って、違うから!


 別に全然! 撫でられて嬉しいとか思ってないし! それとこれとは全然別だし!!


「とにかく! レクスは! ない!!」

「そ、そうかい?」


 ミラおばさんが引き気味に頷くのも無視して、ゴーグルを叩き下ろす。


「またご贔屓に!」


 そう叫びながらライドくんに跨がり、逃げるようにアクセルを踏み込んだ。








 ロザリオでの依頼の納品を終えた私は、この区画の端へ向かう。今日一番に来たかった場所だ。


 廃液パイプが幾重にも絡み合い、配管の隙間からわずかに青空が覗く場所。そこでライドくんを停めた。


 素早く防犯処置を済ませ、軽く濡らした布で手を拭う。


 それから、リゼ婆とリチャードさんの墓の前に立ち、一礼する。持ってきた水で墓変わりのジャンクを濡らし、乾いた布でゆっくりと拭き上げた。


 ここでの作法ではない。それでも、私はこの方法しか知らない。だから、ゆっくりと、丁寧に磨き上げる。


 最後に、リゼ婆の好きな水色の糸と、リチャードさんが好きだったらしい酒を置き、静かに手を合わせた。


 そのまま、来られなかった間のことを、リゼ婆に語りかけるみたいに心の中で呟く。


 レクスのツケのこと。ラットスパンでの暮らし。スクラップバザールでの一件。思いつくままに、ひとつずつ。


 リゼ婆が心配しないように。私はちゃんと進んでるって、伝えるために……でも。


 ふと、ミラおばさんに言われたことが脳裏をよぎる。


 リゼ婆の願いを、思い出した。


──『ヴィクちゃんがうちに来てくれたおかげで、生きようと思えた……せめて、孫の顔を見るまでは……この街で、生きていたいって……』──


「孫、か……」


 合わせていた手をゆっくりと離し、目を開ける。


「ごめん、リゼ婆……多分、それだけは無理そうだよ」


 今はアクシオンギアのことで手一杯で、恋なんてしている暇はない。なにより、そんな相手を見つける前に、私はきっと死ぬ。


 オリジナルを二つ壊して、レクスに頼まれた浄化装置を作ったその後は……私も、壊すから。


 そっと頭に触れながら、こんな私は親不孝者だなと苦笑する。


 ……もう、とっくに引き返せないところまで来ている。


 オーバースペック体を壊して、ゼヴィに指示を出して……その結果、どれだけの人が死んだのかも分からない。


 あの世なんてあるかは分からないけど、もしあるなら、私はきっと地獄に落ちる。……アクシオンギアに関わるなら、もっと酷い場所かもしれない。


 それでも。


 もしも……ほんの少しでも、奇跡なんてものがあるのなら。


 私も、リゼ婆と同じ場所にいけたその時は──


「たくさん叱って……最後に、抱き締めてくれると……嬉しい」


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