コード051 利害の一致
「ずいぶんな歓迎だな」
そう言いながら部屋に入ってきたのはローガンさんだった。
片手でウルフのマークが刻まれた男を引きずり、そのままジャグナスの前へと放り投げる。
「ウルフ式の手厚いもてなしだ。刺激的だろ?」
「加減を知らんようだな」
「死ぬような奴は客じゃねぇ」
「ならば、貴様の首を取れば最高の待遇というわけか」
「試してみるか?」
張り詰める空気。けれど、ローガンさんはそれ以上相手にする気はないのか、呼んだ張本人であるレクスへと視線を向けた。
「レクス。コウモリの──」
そこまで言いかけて、言葉を止める。恐らく、ボロボロの私達を視界に入れたからだろう。
「……貴様らもやられたのか?」
「いや、別件」
「は?」
ローガンさんは説明を求めるように私を見たので、とりあえず無言で頷いた。
確かに私達もジャグナスとは戦ったが、ちゃんと直したし、身なりも整えていた。
今ボロボロなのは、三人でソファの上でしょうもない喧嘩で暴れたせいである。そんな恥ずかしい理由、言えるわけがない。
ローガンさんは私の返答に納得はしていないものの、深く聞く気はないようで再度話を切り出した。
「コウモリのマークについて、情報を貰おうか」
◇ ◇ ◇
「……なるほど。地下ネットワークにウイルス、か」
ローガンさんはそう呟くと黙り込む。
「こっちの情報は渡した。次はテメェの番だぜ?」
「分かっている」
ローガンさんは懐からUSBを取り出し、そのままジャグナスに向かって投げた。
「貴様の欲しい証拠だ」
「坊主」
「俺かよ……」
近くで待機していたカムイが、ジャグナスが差し出したUSBを嫌そうに受け取りながら、自身の腕にあるギアポートに差した。
「……あー、はいはい。そういう感じね」
カムイは空中に電子インターフェースと複数の画面を展開しながら、USBの中身を解析する。
……良いように使われてるなぁ。
そう思いながらも、口にしても火種にしかならない為、黙ったまま眺めた。
「何でわしじゃないんじゃ! 何でわしじゃないんじゃ!」
「だぁあぁ! 鬱陶しい! 離れろ!!」
途中、ヤクモは自分が解析したかったらしく、抗議するようにカムイをポカポカと殴っていた。
カムイは慣れた足さばきでヤクモを蹴飛ばすが、誰も心配しない。そんな事より、部屋の中央に拡大された電子画面に、全員が注目していた。
「ビンゴ。例の回収屋は黒だね。地下ネットのマークと完全に一致した」
「で?」
「何らかのギアの性能試験……と、いったところかな」
カムイはジャグナスに聞かれると、ある文字列を表示させた。
「ほら、ここ。『Axi_G.002』って書いてあるだろ? 恐らく、このギアに使われてるプログラムの一部を試したかったみたいだ」
「っ!」
──Axi_G.002、だって!?
私は反射的にレクスを睨む。
この間の件はアクシオンギアに関係ないって言った癖に! 嘘ついていたのか!?
レクスは必死に首を大きく横に振って否定しているが、その動きすら言い訳じみて見えた。信じられない。
「お、おい! ローガン! どういうことだよ!!」
「ふむ」
レクスの声が聞こえていないのか、はたまた無視しているだけか。ローガンさんは顎に手を当てたまま黙り込んでいる。
「ちょっ、何か言えよ! ヴィクの視線が痛いんだよ! ……ヴィクちゃあん。本当に違うからね? 俺、マジで知らなかったからね? 信じて!!」
「……コブラか」
ローガンさんはレクスの様子には気にも止めず、今度はカムイの方へと視線を向けた。
「それだけか?」
「今はね。後は時間次第」
「わしがやる! わしがやる!」
「親父は黙ってろ」
「あぁっ!」
また無慈悲にも突き飛ばされたヤクモだが、「こんないたいけな美少女になんて仕打ちじゃ!」とふざけていて、正直今は黙ってて欲しいと思った。
「……ローガンさん」
「落ち着け、ヴィク。俺も全て分かっている訳ではない」
私がレクスから睨み先をローガンさんに変えると、ローガンさんは静止するように片手を上げた。
「外飼いの蛇が例のギアを調べていた事は知っていた。だが、これがギアに関係していることは知らなかった」
「…………」
「まぁ、疑うのも無理はない」
ローガンさんはそれ以上弁明するつもりはないのか、そのまま話を続ける。
「詳細が分かれば俺にもデータが欲しい。知っての通り、うちは他所の蛇が嫌いなんだ」
「俺、住んでるだけなんだけど……」
「ならば好都合だ。このまま契約といこう」
「おいおい、待てよ」
ローガンさんとカムイが話をしていると、それを遮るようにジャグナスが口を挟んだ。
「二人で盛り上がってんじゃねぇよ。俺も混ぜろや」
「……義理は通したはずだが?」
「何馬鹿言ってやがる」
ジャグナスは不服そうに足を組み直すと、その視線に少しの敵意を混ぜた。
「俺からすると、仲違いした蛇が寄りを戻して企んでるっつぅう方が信憑性があんだよ」
……仲違い? どういうことだ?
「それはあり得ない」
「どうだか」
また、一触即発の空気が漂う。
ゼヴィが「壊すのか!」と顔を輝かせて腰を上げるが、すぐさま目で制すると、しゅんとしながら座り直した。
「貴様らがジャッカルと和解できるのなら、あり得るのかもしれんな」
「死んでもねぇな」
「そういうことだ」
私はレクスに、さっきのはどういう意味? と小さく問いかけると、レクスは「あぁ」と呟きながら私の耳元に口を寄せた。
「コブラとヴァイパーは元は同じ組織なんだよ。ウルフとジャッカルもな」
……なるほど。
レクスの説明に納得した私は、アクシオンギアの情報に揺れた感情を押し込み、今は成り行きを見守ることにした。
「理屈は通るが、根拠にゃ足りねぇ」
「それで構わん」
「俺にも一枚噛ませろ」
「断る」
ピリピリとした殺気が肌を刺す。
今度こそドンパチが始まるかもしれないと、警戒を強めた。
「ここがどこだか分かってねぇようだな」
「十分理解している」
「なんだ。ただの自殺志願者か」
「微塵もないが?」
「あー、待て待てご両人」
流石にこの流れは不味いと思ったタイミングで、レクスが割って入る。
「……ったく。なんで俺の周りはこんなにも血の気の多い奴等ばっかなんだ」
「テメェには言われたくねぇ」
「貴様には言われたくない」
「しゃーらっぷ」
レクスは同時に二人に指摘され、嫌そうな顔をしていた。
……別に、レクスは血の気多くないよな?
そう首を傾げつつも、少しでもアクシオンギアの情報を得るため、会話に集中する。
「もっと単純に考えようぜ」
レクスは面倒そうに片手をヒラヒラと振った。
「ローガン。お前がジャグナスとこれ以上取り引きしたくねぇのは、独断で来たからだろ?」
「…………」
独断? どういう事だ?
「合理的なお前の事だ。普通に考えりゃ、ジャグナスの手が借りれるなら願ってもない話だろ。なのに頑なに断り、更には部下も連れずにウルフの巣穴に入り込んでるときた」
レクスは確信を持ったように笑う。
「ヴァイパーに内緒で来てんのなら、ここでウルフと関係持つのは悪手だ。一度なら誤魔化せても、何度も顔出しゃ内通を疑われる。それが嫌だから、お前はさっさと用件だけ済ませて帰りてぇんだろ? ジャグナスもジャグナスで、自分の島を荒らされて腹の虫が収まらない。一刻も早く犯人を見つけて落とし前をつけさせたい。……平行線になる訳だ」
「……分かってるなら口を出すな」
「いぃや。俺ならどちらの要望も叶えられる」
ローガンさんが不審そうにレクスを見ているが、レクスは構わず口を開く。
「便利屋を使えばいい」
……え? それは、つまり……。
「お前らはただ俺に依頼しただけ。そんで、たまたま標的が同じだっただけ。経過報告の課程で、多少情報が被ってもおかしくはない」
レクスの提案は、私にとっても願ってもない話だった。このまま上手くいけば、私もアクシオンギアに関われる。
私が思わず顔を上げると、レクスが私に向かって相槌をうつようにウインクをした。
「……一利あるな」
ローガンさんの反応は好意的だ。後はジャグナスだけだが……。
「テメェが裏切らないという保証は?」
やはり、そう上手くいかないかと唇を噛む。
「俺は便利屋だ。貰ったクレジット分の働きはするさ」
すると、レクスは大丈夫だと言わんばかりに左手で私の頭を撫でた。
「ま、ウルフが財政難ならそうなるかもな」
「ハハハハハハ!」
ジャグナスは1本取られたと言うように豪快に笑う。
「分かりやすくていい」
「これで貸し借りはなしな」
「抜け目のねぇ奴だ」
私もレクスの提案が受け入れられた事に満足し、レクスに撫でられても振り払わないでやった。
「そんじゃ、ご相談といきますかね。お見積りもかねてな」
そう言って嫌らしく人差し指と親指で輪っかを作るレクスを見ながら、どうせなら身ぐるみ剥いでやれと機嫌良く鼻を鳴らした。




