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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第2章 連結編

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コード050 最高の環境と最悪の勧誘

「きゃあぁあ! 素敵ぃ!!」


 私は黄色い声を上げながら、目の前の宝の山にダイブする。


 この美しく輝くネオンブルー! ノヴァテックの中枢ラインじゃないか! 収束も綺麗すぎるし、新品同然じゃん! しかも軍用寄りとか……こんなん即鍵付きで保管物だろ! こんな雑に転がしてるなんて馬鹿なの!?


 右を見ても左を見ても、トップスを代表する5大企業の製品がそこかしこに放置されている。


 こんなお宝をまともに保管せず適当に積んでるとか正気かよ。私だったらもっと大事に扱うのに!!


 興奮したまま山を掻き分けていると、ヘリオスの小型タンクを発掘した。


 これ! めちゃくちゃ欲しかったやつ! この焼け方、出力落ちてない。これを改造すればライドくんの更なるスピードアップも……ってあぁ! これはオーロラの! 神経ライン生きてる。まだ脈打ってるなんて……うへへ、アレと混ぜたら反応エグいぞ!


「使っていいのか? ここにあるの、本当に全部使っていいのか?」

「ハハハハハハ! 気に入ったか嬢ちゃん!」


 私がジャンクに頬擦りしていると、ジャグナスは豪快に笑いながら、私の頭に手を置こうとした。


「どうだ? 俺のジャックになりたくなったか?」

「全然」

「ハハハハハ! そうかそうか!」


 ジャグナスが頭を撫でようとするのを避けながら、私はギアのパーツを物色する。


 ここはウルフの回収庫。区画中からかき集めたジャンクを、そのまま放り込んでいるだけの雑な格納施設らしい。


 スクラップバザールではどうなる事かと思ったが、あの場は一時休戦となり、正直助かった。


 ジャグナスも今は私達と潰し合うより、ウルフの縄張りを好き放題荒らしている連中を処理する方が先だと判断したらしい。レクスの提案を受け入れた途端、動きは早かった。


 まずはレクスに、ローガンさんとコンタクトを取るよう指示を出した。その後、スクラップバザールの地下ネットについては完全に無関係とは言えない………ということで、カムイとヤクモに無償でのシステム復旧と強化をやらせていた。


 そこで話が終わると思いきや、ジャグナスは更に私に提案をしてきた。


 レクスとゼヴィを顎でしゃくりながら、「そのボロい身体でウルフの区画をうろつくのは危ねぇだろ。俺を直すなら、パーツはくれてやる」と。


 当然、断る理由はなかった。ジャグナスの言う通り、この力が全ての区画で傷ついた身体のまま歩くのはリスクが高い。


 だから、レクスがローガンさんと連絡を取っている間に、こうしてジャグナスに回収庫へ連れてこられ、パーツを選別しているというわけだ。


 ついでに言うと、ここにジャグナスのギアパーツはないらしい。奴はちゃんと自分専用の新品パーツを揃えた整備部屋があるとか。羨ましい限りだ。


 私は必要なジャンクを回収バックに入れながら、ちょっとぐらいバレないよな? どうせ山ほどあるし、と個人的に欲しいジャンクもちゃっかり入れ、入らない分はすぐ使うからと両手に抱えた。


 そうして上機嫌のままジャグナスと別れ、無言で後ろに張り付いてきたウルフの構成員に連れられてゼヴィのいる部屋まで戻ってきた。


「ゼヴィ! 修理だ! 寝ころべ!!」

「……お前ね、気ぃ抜きすぎじゃない?」

「レクス!」


 聞こえたレクスの声に、連絡は終わってたのかと駆け寄った。そして、両腕いっぱいにある戦利品をぐいっと突き出した。


「見ろよこれ! イクリプスの冷却ブロック! しかも旧軍用モデルだ! お前の右腕、最近熱溜まってただろ? ブレードと火器同時に回した時、一気に冷却追いついてなかったからな。でも、これを使えばもっと出力出してもいけるようになるぞ!」


 私はちょっと前のめりになりながらも続ける。


「今の構造だと排熱が一点集中して詰まるんだ。だから、これで右腕側に独立した冷却ライン作る。こいつで熱を受けて、ヘリオスで外に逃がす。制御はこれだな。ノヴァテックなら流量制御も安定するし、出力落とさずに熱だけ分散でき──」

「おいおいおいおい。ちょっと待てって……」


 私の言葉を遮るように、レクスの左手がぽんと私の頭に乗る。そのまま雑に撫でられた。


「落ち着け。速ぇし全然分かんねぇ」

「……ぐぬぅ」


 私は部品を抱えながら下を向く。


 レクスは呆れたように笑って、もう一度だけ軽く頭を撫でた。


「……ま、お前が言うなら間違いないな。任せる」

「あぁ!」


 レクスが上着を脱ぎ、袖をまくる。私はツールポーチから工具を取り出しつつ軽く拭いた。


 横で寝転んでいるゼヴィが何かを訴えるように見てくるが、お前はそのまま寝てろと軽く指示を飛ばしてスルーする。


「レクス、足も見るからズボンも捲れ」


 そう言いながら、作業用の手袋を着けた。



   ◇ ◇ ◇



「よぉ、来たか」


 部屋に入ると同時に聞こえたジャグナスの声。


 レクスとゼヴィの修理が終わった私は、休む間もなく、ジャグナスが待っている整備部屋まで連れてこられた。


「待ちくたびれたぜ?」

「みたいだな」


 半裸でも様になっているジャグナスを一瞥した後、部屋に並べられている工具に触れる。


 どれも簡単には手に入らない高級品ばかりだ。しかもただ高いだけじゃない。ちゃんと分かっている(・・・・・・)奴が選別している。


「……専属がいるならソイツにやらせればいいのに」

「俺は嬢ちゃんの腕がみてぇんだよ」


 ……面倒だな。


 そうは思いつつも、パーツを提供して貰った恩がある。取り引きは取り引きだと、腹を括って作業に取りかかった。


「腹と右腕……ついでに左肩もみてやる」

「ほう?」


 腹は勿論、ゼヴィの攻撃を受け止めていた右腕のダメージは相当だろう。後は調子の悪そうな左肩を見れば文句はない筈だ。


「……何で分かった?」

「は? 見りゃ分かるだろ。ほら、お喋りの時間は終わりだ。さっさと落とせ」


 わずかな沈黙のあと、ジャグナスのギアの駆動音が止まり、身体から力が抜けた。


 ……躊躇いなしか。いや、私なんぞ相手にもならないという絶対的な自信の現れなのかもしれない。


 思うことはあっても、私は余計な事は言わずフレームへ手を伸ばした。





 ──なんだ、これは。


 ジャグナスのギアの構造を見て、背筋が震えた。


 その技術、性能、技師の技量。すべてが異常だった。


 この配線……こういう使い方も有りなのか? こっちも、普通なら詰まるはずなのに自然に流れている。どういう構造してるんだ?


 規格がバラバラだ。メーカーも思想も違うパーツを、無理やり繋ぎ合わせているはずなのに成立している。


 ……いや、違う。成立してるんじゃない。無理やり通してる。


 このやり方自体は、知らないわけじゃない。だが、ここまでやるか? しかもこのライン……制御じゃない。流れているエネルギーを、逃がさず溜めて次に叩きつける構造か? イカれてる。


 機械というより、まるで芸術品のようだった。


 そうか。ここをこうして……あぁ、なるほど。そういうことか。この神経をこうすれば……。


 知識がどんどん蓄積されていく。


 想像を超える発想。もっと知りたいと腕が勝手に動き始める。


 ──あぁ。


 楽しい……楽しい、楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい!!


「──思った以上だ」

「っ!」


 けれど、ジャグナスの声で意識が引き戻される。


「……なにがだよ」


 私は冷静さを取り戻そうと、意図的に眉間に皺をよせながら素っ気なく答えた。


「テメェのその見抜きと飲み込みの速さだ」

「……は?」

「一目見ただけで不調箇所を拾う。初見の構造でも迷いがねぇ。気持ち悪ぃぐらいにな」


 淡々と、けれど確信を持った声だった。


「前にスクラップバザールで見た時から思ってたが、テメェは止まる場所がねぇ。理解した瞬間、もう手が動いてやがる」

「……」

「理解が速すぎる。普通じゃねぇ。必要なモンも、直ぐにその場で組んで補える。あの坊主のギアをあそこまで回してんのも、並みの技師にできる芸当じゃねぇ。……便利屋で潰すには惜しい才能だ」


 評価しているというより、確認しているだけの声音。


「俺はテメェの才能が欲しい」


 ジャグナスは、親指で私の顎を持ち上げる。


 払い落とそうとしたが、逃げ場を塞ぐように言葉を重ねてくる。


「悪い事ぁ言わねぇ。俺のジャックになれ」

「顔がタイプじゃない。私の好みはあざと可愛い系男子だ。出直してこい」

「そういう意味じゃねぇのも分かってるだろ」

「……」

「足りねぇ知識は与えてやる。俺ならテメェをもっと上まで引き上げてやる。俺の手を取れ、ヴィク」


 ジャグナスの言う通り、この手を取ったら私はもっと伸びるだろう。


 このギアも、環境も、設備も便利屋とは大違いだ。ここにいたら、私は技術者として更に上にいける。もしかしたら、アクシオンギアにも近づきやすくなるかもしれない。けれど──


「……言ったろ。私がプラグなら考えてやるって」


 思い浮かぶのは、レクスの顔。


「私も別に、そういう(・・・・)意味で言ったんじゃない」


 私はジャグナスの人工皮膚を、ギアフレームに取り付けながら続けた。


「お前が私に下るなら、考えてやるって言ってんだ」


 最後のネジを締めてから立ち上がる。


「それなら、ゼヴィみたいに使ってやるよ」


 そのまま工具を置き、手袋を外した。


 私の返答に虚をつかれたのか、ジャグナスはわずかに目を見開くと、次の瞬間には大口を開けて笑い出した。


「ハハハハハハッ!」


 私はその笑い声を背に、フンっと鼻を鳴らす。そして、もうやることは終わったと、出口の方に足を向けた。


「一筋縄じゃいかねぇなぁ!」

「嫌なら諦めろ」

「そりゃあ、難しい相談だ」


 ひとしきり笑ったあと、ジャグナスは満足そうにこちらを見る。


「……仮に、の話だが」

「なんだ」

「便利屋が消えたらどうする?」


 ドアノブに触れた手に、自然と力が込もった。


「その時は……」


 込められた力が抜けないまま、後ろを振り返る。


「一生、手に入る事はない」

「……なら、気ぃつけねぇとな」


 私はドアを叩きつけるように閉め、整備部屋を後にした。






 あぁ、もう! ムカつく!!


 わざとドスドスと音を立てながら、ウルフの施設内の廊下を歩く。


 背後をついてくる構成員は、監視するように無言のままだ。だったら尚更、気なんて遣うかよと不機嫌を隠しもせず歩みを強めた。


 なぁにが「便利屋が消えたらどうする」だ。ふざけるのも大概にしろよ! レクスに何かあったら絶対に許さないからな!!


 そうして苛立ちを抱えたまま、レクスが待つ部屋の扉を開ける。


「ただいま!!」

「情緒どうした」


 出ていく時は上機嫌だったはずの私が、怒りながら戻ってきたせいか、レクスは呆れたような目で私を見る。


「アイツ! 本当! ムカつく!!」

「……楽しい相手じゃないのは確かだな」


 私はソファに座るレクスの隣へ移動すると、勢いよく腰を下ろした。


 そのまま、逃げるみたいに身体を預けると、レクスの左手がゆっくりと頭を撫でた。


「ま、ローガンもそのうち来る。話が終わりゃあ便利屋に帰れんだから。それまでの辛抱だ」

「……」


 ムスッとしたまま寄りかかる。すると、レクスの体温と、どこか落ち着く匂いが伝わってきて、少しずつ身体の力が抜けていった。


 ……何だろう。なんか、落ち着く。


 睡魔に襲われ、目蓋が重くなる。目を閉じると、そのまま意識が沈んでいきそうだった。


 このまま、ローガンさんが来るまで寝てもいいかもしれない……そう思っていると、私の左側がふいに重くなった。


 嫌な予感がして横を見ると、ゼヴィが私と同じように寄りかかっていた。


「……おい」

「……」

「おいって!」

「……」

「重いから離れろ!」


 思い切り押し返すがびくともしない。それどころか、ぎゅっと抱きついてきて首元に顔を埋めてきやがった。


「やめろ! 嗅ぐな! ゼヴィ!」

「ちょっ、お前ら暴れるなって! イダダダダっ!」


 狭いソファの上で三人分の体重が暴れ、ミシミシと嫌な音が響く。


 結局、そのままローガンさんが来るまでこの騒ぎが収まることはなかった。


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