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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第2章 連結編

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コード048 異物

「それで、おぬし等はどこに行くんじゃ?」


 ゼヴィが怖いのか、私の胸元にしがみつきながらヤクモが聞いてくる。


「ちょっと、ここの中枢に……」


 そう言いかけて、言葉を止めた。


 こんな小さな女の子に説明しても伝わらないかと、簡単に説明できる言葉を探す。


「って、言っても分からないか。とりあえず、ついてくれば──」

「おお! 奇遇じゃな! わしもそこに行こうとしてたんじゃ!」

「……は?」


 しかし、私の予想に反してヤクモは得意げに笑った。


 そして、何もない空間に手をかざしたかと思うと、光の粒子が集まり、投影型のインターフェースが浮かび上がった。


 ……外部端末が見当たらない。まさか、内蔵に仕込んでるのか?


 私の動揺を他所に、ヤクモは慣れた手つきでそれを操作し始める。


 指が走るたびに、いくつものウィンドウが展開され、消えていく。


 かかった時間はわずか数秒。


 ガコン、と鈍い音がして奥の壁が開いた。


「はっはっはっ! ついとるのぉ。思いもよらず、優秀なボディーガードをゲットじゃ!」

「……」


 言葉が出なかった。


 ゼヴィが、さっきまでヤクモがしがみついていた胸元に鼻先を押し付けるように嗅いでいるが、気にする余裕はなかった。


 速い、とか。そんなレベルの話じゃない。


 この子供……今、何をした? まさかここから地下ネットの中枢に干渉したってのか!? 自身の内部インターフェースで!?


「何してるんじゃ? 急ぐんじゃろ?」


 ヤクモはくるりと振り返ると、そのままぴょいぴょいと軽い足取りで先へ進んでいった。


 ゼヴィの、フンッ、と吐き捨てるように鼻を鳴らす音が嫌に響く。


 ほ、本当に何者なんだ!? あの子供……。



   ◇ ◇ ◇



「こっちじゃぁ。こっちじゃぁ」


 ヤクモは私達を道案内するように、軽やかな足取りで前を歩いている。


 おかしい。警備システムが作動しない。それどころか……。


 私はチラリと周辺のカメラを見る。


 完全に沈黙している。作動する気配が一切ない。


「ふっふっふ。安心せい。道を開けるついでに、ちょちょーいと弄ったからのう。おぬし等はウルフが来たときにコンテンパンにしてくれるだけでいいのじゃ」


 つぅ、と冷たい汗が流れる。


 成り行きで助けたが、この子供が普通じゃないのは明らかだった。


「……どうしたんじゃ?」


 足を止めた私に気づいたのか、ヤクモも動きを止めて振り返る。


 私は警戒したまま、改造スタンガン銃の引き金に指をかけた。


「ヤクモ」


 そのまま、スッと銃口を向ける。


「お前、何者だ?」

「の、のじゃあ!?」


 突然の行動に驚いたのか、ヤクモは両手で顔を隠しながら距離を取る。


「な、なんでじゃ!? わしを守ってくれるんじゃなかったのか!?」

「そのつもりだった」


 普通の女の子だったら、ちゃんと安全なところまで届けるつもりだった。けれど、コイツは違う。


「目的は? 何でウルフに捕まってた?」

「そ、それは……そのぉう」


 ヤクモは視線を泳がせる。


 無害そうな見た目だが、信用できない。さっきまでの動き。あれで、ただの子供のはずがない。


「答えろ」


 銃口は下げないまま、少しずつ距離を詰める。


「お前、設備に何をした?」

「な、何って……ちょちょーいとじゃ」

「ふざけるな」


 この期に及んでまだ惚ける気かと、苛立ちが滲む。


「外部端末も無しに中枢に干渉して、警備を全部落とした」


 そんなの、誰にでも出来る芸当じゃない。


「ただの子供じゃないな」


 引き金にかけた指に、わずかに力を込める。


「ウルフの仲間か? 私達に近づくためにあんな演技をしてたのか?」

「……っ」


 ヤクモの顔から、わずかに余裕が消える。


「黙ってちゃあ──」


 言いかけている最中に、またガコン、と鈍い音が響いた。


「──っ!?」


 反射的に視線を横へ向けると、閉じていたはずの隔壁が、ひとりでに開いていた。


「あ、アンタ等はっ……助かった!」


 そこから飛び込んできたのは、カムイだった。


 カムイは息も絶え絶えになりながら、私の方に駆け寄ってくる。


 何で一人でいる? レクスはどうした?


「あの、便利屋の! 便利屋が大変なんだ!」

「……っ、レクスに何かあったのか!?」

「あぁ。アイツ、は……」


 不自然に言葉を止めるカムイ。


 私はそんなカムイの態度に、不安を募らせる。そして、勿体ぶらずに教えろと口を開けかけた時。


「ここにいやがったかクソ親父いいいいい!!」

「……は?」


 カムイがそう怒鳴りながら掴みかかった人物に、思考が停止した。


「こんっの! ……てめぇがバカやったせいで俺がどんな目にあったと!! どう落とし前つけんだボケえええええ!!」

「のじゃあああああ!」


 ……は?


 ヤクモは、カムイに胸ぐらを捕まれたまま振り回され目を回している。


「コブラにいられなくなったらマジで許さなねぇからな!!」

「ちょっ、ちょっと待て」

「あ゛あ゛ん!?」

「お、親父って……え? どういうことなの?」


 私は震える手でヤクモを指差しながら、カムイを見る。


「親父は親父だ」

「それは……えーっと、技術の師匠的な感じ?」

「正真正銘血の繋がったクソ親父だ」

「うっそだろおい!」


 どうみても小さな女の子にしか見えないのに父親? どういう事だ?


「……! まさか違法──」


 そこまで言いかけて、レクスの顔が脳裏を過った。


「……レクスは?」


 そうだ。今はヤクモの事なんてどうでもいい。


「レクスはどうした」


 カムイは、レクスが大変だと言っていた。


「何で、お前は一人でここにいる?」


 レクスなら大丈夫だという信頼と、何かあったらという不安がせめぎ合う。


「……俺らは中枢近くまで行った。でも」

「でも?」

「そこに、ジャグナスがいた」

「!」


 ジャグナスって……ウルフの首領か!?


「なん、で……」

「分からない。ただ、色々あって交渉が決裂した。それで、便利屋が戦ってる。俺は巻き込まれないのに必死で逃げて──って、おい!」


 気付いたら、駆け出していた。


 カムイが来た道をそのまま逆に辿る。


 足が止まらない。息が荒い。肺が焼ける。それでも、速度は落ちない。


 いやだ……いやだ、いやだいやだ!!


「……っ、はぁ」


 ──レクス!!


 その瞬間、空気が叩きつけられた。遅れて床が震え、転びそうになる。


 ……奥で、何かがぶつかり合っている。


 足裏から伝わる衝撃に、思わず歯を食いしばる。壁が軋み、天井の配線が揺れた。


 間違いない、戦ってる。レクスはこの先にいる!


「レクス!!」


 走り続けた先で、視界が開けた。


 ……ここは、地下ネットの中枢か?


 無機質な空間の中央で、二つの影がぶつかり合っている。


「レクっ……!」


 声をかけようとして、言葉が止まった。


「……レクス?」


 レクスの様子が、いつもと違った。


 感情が削ぎ落ちたような顔。なのに、何かが焼け付くように滾っている目。


 目が合った気がしただけで、背筋が粟立つ。


 ……どうし、たんだよ。


 足が地面に張り付いたように動かない。


 でも、その間にも、レクスの身体が大きく弾かれた。壁に叩きつけられ、遅れて血が飛ぶ。


「っ!」


 その光景に、頭が真っ白になる。


 思考が追いつくより先に、身体が動いた。改造スタンガン銃を引き上げ、照準もろくに合わせないまま引き金を引くと、青白い閃光が走った。


「レクス!!」

「っ、おまっ! ヴィク!? なんでここに……」


 ……よかった。いつものレクスだ。


「余所見してる暇あんのか便利屋ぁあぁああ!」


 しかし、安堵したのも束の間。ジャグナスがレクスに向かって拳を振り上げる。


 しまった! 私が余計なことをしたせいで──!!


 もう一度撃たなきゃと銃を構えたその時。背後から影が飛び出した。


「……え」


 その影は、そのままジャグナスに飛びかかる。鈍い衝撃と一緒に、巨体が横に吹き飛んだ。


「なぁ、ヴィク! コイツかぁ!」

「……ゼヴィ」


 ジャグナスを蹴り飛ばしたゼヴィが、満面の笑みを浮かべながら私を見る。まるで、獲物を見つけたみたいな目。


 さっきまでの空気が一瞬で塗り替わった。


「コイツをぶっ壊せばいいんだなぁ!」

「……あぁ」


 私は構えていた銃を下に降ろす。


 ……もう、撃つ必要はない。


「派手にぶち壊せ」

「ヒャハハハハハハハハッ!!」


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